夜明け

再度

 教会の攻撃のお陰で、車や警邏隊隊員、避難民が入れ替わり立ち代わり出入りするジョナの分署にジョシュ達の2台のピットブルが入ってきても全然目立たない……まるで最前線基地の様相になっていた


「おう、アンナ、もう戻って……めっちゃ連れてきたなぁ……」


「ちょいとジョナ、すぐ出ていくから休憩室借りんね」


 駐車場で指揮をしていたジョナは倍以上になって戻ってきたアンナ達一同に絶句するが、そのアンナを先頭にした一団は挨拶もそこそこにそそくさと休憩室に入っていった


 各々椅子や壁にもたれて手近なコーヒーメーカーでコーヒーを作って一息入れる


「アンナ、長期間の単独行動お疲れ様だったな」


 JPが単独行動で任務をこなしてきたアンナを労うが、アンナは首を振る


「任務の半分も失敗してれば合わす顔もありませんよ」


「いやいや、俺らも似たような成果さ、何とか帳尻合わせるためにこの任務受けたしな」


 ホセが頭を掻きながらそうぼやくとゲオルグの居間からくすねてきた葉巻の頭を齧り取ると咥えて机に地図を広げると全員取り囲むように集まって来る


 そしてNY組に改めて今回の任務を伝える


 その後ろでバツが悪そうにスタンはダーホアに容体を尋ねる


「ダーホア……そのなんだ……体調はどうだ?」


「ああ、とりあえずは軽い戦闘ならいけるわ」


「そうか……その……契約の件なんだが……」


「クビなんでしょ? 仕方ないわ、コイツトーマスに戦闘で負けたんだもの。それにあのまま精神状態なら最悪、チームに迷惑かけて戦死だったしね」


 ボストン前とは打って変わり、憑き物が取れたかのように以前の調子をダーホアが取り戻したのがスタンは嬉しかった


「そうか、なんかあったら……」


「そうそう、あれから向こう避難船でリハビリ中に変なお爺さんに会ってね。 と聞かれて半泣きでもう任務仕事はもうこりごりと答えたら笑われたわ……」


「う……そうか」


 スタンはオーウェンが最後の選択をしたダーホアに手を出さなかったことを感謝した


「だから、もうこれっきりだと思うわ。だけど、もし貴方が助けが要る時には助言と無理ない程度のサポートはさせてもらうわ」


「ああ、その時はよろしく頼む」


 そのサバサバとしたリアクションを受けたスタンは


(ああ、本来のダーホアはこんな感じだだったなぁ……)


 そう思い出ししんみりしていたら、ホセに声を掛けられた


「それでゼラルゼス、アンタ等どうする?」


「俺らは依頼主のお宅に報復の放火して手打ちにするさ……軍事会社を舐めたら数倍返しじゃねぇとな」


 スタンは他の2名の顔を見合わせ意思を確認してそう答えた


 JPが思い出したように尋ね出した


「そうか、元のメンバーを後2名を避難船で預かってるが……」


「……彼らの意思次第ってね、戻って来るなら当然再トレーニングを課すしな」


 一瞬、ミンホの事が頭をよぎるが、振り切るように伝法な口調で答える


「そうか、ではジョシュ達と一緒に行動してくれ、彼らは基地潜入ミッションだからだ」


 JPに指示されて互いに握手をする


「よろしくな」


「こちらこそ」


「それでは予定通り俺、ホセ、エディにアンナはアンソニーへ、マーカス、エリックとトーマスにダーホアは強皇担当だ。 マルティネスは協力してくれそうな人物を全て当たってくれ。この数日で決着つけるぞ」


『『あいよアエイト』』


 全員が声を自然にそろえるとそこに渋い顔のジョナがノックして入って来る


「おー、頼みがあるんだが?」


 アンナが振り向き応対する


「どうしたの? 拙い事でもあった?」


「いや……その、大したことじゃねぇんだが……残った避難民を連れてロードアイランドに渡って欲しいんだ」


「そりゃ構わんが……あんたらは?」


「俺らが殿を務めるからアンタ等は一緒に渡ってくれ、もうここには兵隊も居ないし援軍も来ないらしい。だから最後に残った市民を安全な場所に避難させたい」


 それを聞いた一同はしばし息を止めた


 するとマーカスが立ち上がりその肩を叩く


「なぁ、マンハッタン守備隊はまだ健在だろ? とりあえず俺らも突貫ついでに殿についてやるよ」


「え……突貫?」


 絶句するジョナにマーカスが笑う


「だってよー、大概、殿ってその場で守り抜くと思ってるもんだろ? よもや自分達に急襲するべく突貫してくるなんてぜってー思わんから相手も浮足立ってしまうわけで……」


「その後、舐めやがってって追いかけて来るんだけど……そうすれば敵は分散し、その分だけ逃げる時間は稼げるってわけさ」


 そこに呆れつつもエリックが補足するとトーマスも口添えする


「何、あんたは守備隊に俺らが逃げ込んでると伝えて貰い、避難民が無事逃げ切れたら今度はホセ達が援護するから逃げきりゃいい」


「そうか……恩に着る」


「何言ってんの? こうして助けてもらってんのにアンタ等がヤバイ時に見過ごせないでしょ? お互い様よ」


 アンナがクスクスと笑う


 そこに警邏隊の若手隊員が飛び込んでくる


「ジョナ! ここでしたか! 頼まれてた例の連中断罪隊動きました。ヴェラザノブリッジを渡って何処かへ行くつもりです。ケビンとコールズが後を付いてます。それと教会ですが23番ブロックに侵入しました」


 若手が報告を一気に終えるとジョナがその肩を叩き


「ご苦労、市民の避難は?」


「最終便があと10分で出ます。これで避難は完全です」


 そう報告して胸を張るとジョナが少し微笑んだ後に真顔で指令を下す


でかしたWell done!! では最後の指示だ。23番に煙幕弾と音響弾をありったけぶち込んだ後、全員ここの倉庫の弾薬と装備全部持ってここを放棄、ヴェラザノブリッジまで市民を守り抜いて撤退する」


「了解です、至急信号を出します」


 そう言って部屋を出ていく若手を見送るとマルティネスが手を上げる


「ジョナ隊長、もし良かったらクイーンズエリアに或るうちの職場のメモリアルホールで部隊再編してくれ。職場の連中には話は通しておくし、職場の近くのフラッシング・メドウズ・コロナ公園は避難所にもなってるらしいから避難民も知ってる顔があれば安心できると思う」


「そうか……色々気を使わせちまったな」


 申し訳なさげにするジョナにマルティネスが笑いながら告げる


「うちのボスブースから全権代行任されてるから気にしない気にしない。ここに居たら絶対に俺んとこ来いというだろうしね……てなわけでひとっ走りしてくるよ。俺のシーマまだあるよね?」


 照れ隠しがてらに動き出したマルティネスは慌てて外へ飛び出していった


「あんのバカ、警邏隊の制服で動かないと速攻で捕まるのに……ちょっと行って来る」


 舌打ち交じりにアンナが席を立ち、何も持たずにマルティネスを追いかけて出ていく……


「デレたな……」


「デレましたな」


 真顔のホセの呟きに隣のエディが真顔で被せる。


「さて、ジョナさんよ。俺らの事よろしく伝えといてね。後、強皇襲撃チームだからご協力よろしくって」


「え、お前さんらで?」


 マーカスのチームの目的を聞き驚くジョナにエリックがお約束に補足する


「出来たら暗殺、とりあえず負傷させて士気落として混乱を招く程度の簡単なお仕事らしーよ……」


「重要な任務じゃねぇか……よし、任しとけ」


 それを聞いたジョナが急いで通信室に走って行った


「ともかくだ、任務が成功したら教授に連絡を入れろ。失敗してもだ」


「了解」


 JPはマーカスに指示を出して地図を再度見る。


 遠くで鳴り響く銃声と爆発音が地響きのように地図の上のコーヒーの紙コップを小刻みに揺らしていた

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