逃走

 ヘリの爆音におんぼろのソファから慌てて飛び起きたアニーはM945を手に隠れ家になっているヨットハーバー管理人の部屋の窓から外を覗く


 周囲には5、6機の様々なヘリによたよたと守れらたチヌーク輸送ヘリがアウターブリッジ近くの基地代わりになっている複合型商業施設に降りようとしていた


「ほほう? ヘリボーンで上陸とは……」


 そこにスゥーと音もなく戦闘服姿のスタンが現れヘリを観察し始める。常時警戒中の為、拳銃以外は装備はあまり付けていないがそれでも双眼鏡を持って様子を見に来ていた


「ジョシュ曰く、教会に航空戦力はないって話だったのに……」


 周囲を旋回し、上空から機関銃で威嚇射撃をするヘリを借りた双眼鏡で見つめながらアニーが呟く


「屋上で俺達とやりあった彼だね? 彼の言うことは半分正しい」


「どういうこと?」


 双眼鏡を返すと半分という所に引っ掛かり、ムッとしたアニーが食いつくとニコリと笑ったスタンが双眼鏡で観察しながら解説を始める


「あのヘリ見てごらん、全ての機種はバラバラだし、組織性の高い連携の取れた動きをしていない。多分、昨日今日出来上がってとりあえず兵隊運んできた急造部隊だろう。だから航空戦力はが正解」


「なるほど」


「今頃、お互いのインカムで怒鳴りあいしてるだろうよ……こちらが冷や冷やしそうな挙動でしかもニアミスしそうな距離だからね」


 こういったヘリボーン、ヘリによる降下作戦はお互いのヘリの間隔やローターが発生する風を考慮した位置取りが大切だが、この部隊には位置取りも間隔もへったくれもなかった。


 だが、教会には【航空戦力が無い】と言う常識を逆手に取り、がら空きの所から侵入を許した代償は大きかった。たちまちのうちに銃声と爆発音が絶え間なくなってきた


「こりゃ、うかうかしてらんねぇわ、どさくさに紛れてロードアイランドに渡ろうかね……?!ッ」


 鼻歌交じりで準備しようとその場を立ち去ろうとした瞬間、視界の端に映る黒い影を見たと同時に身を隠す。その顔は先程ののんびりした顔ではなく精悍で鋭い眼光を放っていた


「何してるの?」


「……どうやら取り囲まれたみたい……下行って脱出の準備を」


 隠れ家は海に面した岬状のエリアにあり、家の裏側は海になっていた


 表に面した道路には一見誰もいなかったし、異変も何もなかった


「うん、分かった……」


 素知らぬ顔でそこを立ち去り、下の階にダッシュで走ると外で見ていたアンナが同時に入ってきて、コーヒーをキッチンで爆音にもめげずのんびりと飲むリカルドとジュリアにそれを伝える


『敵よ!』


 慌ててカップを置き、ジュリアはガレージのグレゴリーに伝えに行き、リカルドはライフルを片手にスタンの所に行く


「ドラガンか?」


「いや、今のところは雑兵だ」


 手渡されたライフルを構え外を観察するスタンはかつての仲間の姿を探すが、まだ到着してないようだった。周囲の建物や茂みにはざっと4~5人の気配があった


「なら動くか」


「その方がいい」


 その途端、下の階からガンガンガンと音が鳴る


 隣接された車に常駐しているグレゴリーが空のバケツを鳴らし合図をしていたのだった。スタン達は顔を見合わせて直ぐに下に降り、エンジンアイドリングに入っていたバンに飛び乗ると後ろからドライバーであるグレゴリーが設置してあるスイッチを入れてから運転席に座る


「ベルト閉めて安全装置下ろしとけ……出るぞ」


 アクセルを踏み込むと急発進して壁を突き抜け外に出る


 すると既に周囲は煙幕が張られ視界は遮らえていたが、グレゴリーは何ら問題とせずに道路に出て逃走を図る


 先程のスイッチは煙幕装置であり周囲に煙幕を炊き脱出に有利にする為、物資回収の折に材料を見つけ予め設置してあったのだった。キリチェックなら難なく運転手に攻撃を当ててくるが雑兵ならかなり有効であった


「で……どう動くの?」


助手席で周囲を警戒しながらアンナが後部座席スタンへ問い掛ける


「ベタなところで救急車をゲットして看護師2人に怪我人と付き添いでいい感じで化けれるとは思う」


 スタンはそう嘯くが、そう上手くはいかないことは十分承知していた


「チィ、スタン、本題が来たぞ?」


「奴かッ!」


 グレゴリーの運転でレモンクリークパークを出てハイラン・ブルーバードに入る交差点に差し掛かろうとした所、前方から小気味いい排気音エキゾーストサウンドを響かせた白いシボレー・コルベット・スパイダー現行型を乗ったキリチェックとキャロルが対向車線でこちらに進んでくるのを視認する


「こいつはヤバいな、ポンコツバンに銃器と6人乗った状態でコルベットか……スタン、リカルド援護頼むわ」


 舌なめずりしつつグレゴリーは愛用のグローブを嵌めなおすとギアに手を添えて車を発進させる。対するキリチェックのコルベットはスピードを生かし回り込こんで後ろに取る。まともにぶつけられたらポンコツのバンでも唯一の強みである重量で押されて横転の可能性があったからだ


 ハイランブルーバードに入ると北へ向かいながら加速しつつ銃撃戦を繰り広げ出した


「ちょ、ちょっとドラガン! あの2人と私じゃ全然厳しいっつーの!」


 銃弾が火花を散らして傷を入れていくコルベットスパイダーの助手席でPPKで必死に応射するキャロルが悲鳴を上げる


 同僚と言っても戦闘班で前衛担当のスタン達と工作担当のキャロルでは攻撃力に差があり過ぎた。それに同乗の女性陣3人もかなり手ごわい。


「我慢しろ、何も射殺してくれとは言ってない。威嚇だけ頼む」


 巧みに攻撃を避けながらも自身も事務所で借りたガバメントで牽制をする。


 車のハンデは銃火器で埋められたがキリチェックはスタン達をある地点まで追い込めばいいだけだった


「フォート・ワグワースに追い込む、申し訳ないが断罪隊を使わせていただく!」


 そう決断すると一度距離を取りキャロルにフォート・ワグワースまでの横道の閉鎖を指示した後、加速をして再びバンを追い掛け回しだした


 一方、ジョシュ達はニューヨークから少し離れたヘイパー・ストローの教会側の検問に居た。周囲には音響設備によるZの集合地点が点在し、様々な音楽がそこかしこに鳴り響いていた


「強行偵察? 聞いてないぞ」


「だから上に尋ねろと言ってんだろ! グエン志教に伝えろ!」


「ちっ、わーったよ。そこで待ってろ」


 面倒な足止めを喰らいながら検問所の偉そうな係員と音響に負けないように怒鳴りあってイラつくジョシュの後ろで、JPやホセ、シュテフィン達、男性陣全員並んで嫌がらせついでに立小便していた


「おい……俺もしとこ」


 ツッコミ入れようとして察したジョシュもそこに並んで用を足すと見つけた係員が怒鳴りこんでくる


「てめーら! ここはトイレじゃねぇ! たくよぅ! 確認が取れたが戦闘が始まったから適当に潜り込めとの指示だ」


「あいよ、とっとと行くわ、あんがとよ」


 そこにホセにアンナから連絡が入る


「ホセ? 見つかったから移動してるよ! 今どこ?」


「あ? ヘイパー・ストローの検問所だが?」


「早く来て! ハイランブルーバードで逃走してるんだけど脇道が閉鎖されててどこかに追い込まれそうなの!」


 脇道に入らせまいとするキリチェックとその先の道も閉鎖させたのを見たアンナとスタンはこの先のどこかに追い込まれるのを覚悟しだした


「わかった、あんちゃん、急ごう」


「おう」


 全員飛び乗ると猛スピードで発進しだした。


「どの程度で行ける?」


 運転席のマルティネスに尋ねると


「通常の安全運転で1時間、だが30分で気合いぶっこんで行く!!」」


 アンナが追い込まれていると知ったとたんに気合いが入ったマルティネスがアクセルベタ踏みにして高速クルーズに入る


「警察居ないからって無茶すんなよ! 」


 鼻息の荒いマルティネスを窘めながらもいきなりの交戦が予想されるのを想定し、ジョシュ達は装備を身に着けだした……

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