誤認

 完全にノーマークのミンホはドアを開けるとライフルを乱射しながら速やかに制圧する


「動くな!」


 その銃撃でジュリアが振り向くとミンホは司令の位置に立つそのを一瞥する


 襲撃されることとなった発令室では” 誰? アンタ?” の表情でミンホを出迎えた


「所長を出せ! さもなくばひと暴れさせてもらう」


 ライフルの銃口をジュリアに向けながらミンホが恫喝する


「所長は出張中 ご用件は? なければとっととお帰りを」


 銃口と恫喝に怯まずジュリアは慇懃無礼に追い返す


「言ってくれるぜ……悪いが御同行願おうか?」


 それを聞いて近くに居たモニター要員の目が驚きで大きく開く


「わ、わかったわ、此処にいるスタッフには手出し無用で……」


 すかさず背中に回した手で黙るように合図した後、さっと両手を上げる


「聞き分けが良くて助かるぜ……後で可愛がってあげるからね~」


「要らねぇよ! 今度そんな事言ったらケツにまた7年殺しぶちかますぞ!」


 完全に調子に乗ったミンホをどす黒い殺意を充填元ヤン丸出しにして一喝する


「う……分かったよ……」


 一喝され丸のみにされたミンホは一応確保した体でジュリアを連れ出しドアを閉める


 それと同時に通信担当がバーニィ達に急報する


 医務室前でホセが警護に入っていると手前まで来ていたバーニィ達に知らせが入り動きが止まる……


 いきなりシュテフィンとバーニィが後方へ走り出すとベケットとジョシュが追いかけだす


「おいー、いったい何が起こった?」


 その背中にホセが呼びかけるとジョシュがインカムで説明する


「保安部の女帝が連れ去られて、義理のオトンと彼氏が即座にブチ切れた……」


「おやまぁ……えれぇコンビに着火したもんだ」


「オッサン! やっばい原種の爺さんがそっち行くかもしれん! 気を付けてな!」


あいよアエイト


 全員の姿が階段に消えると短くやれやれと溜息を吐き、ゆっくりと振り向き天井に向かい


「だ、そうだ。」


「ほう? 見切っていたとは……」


 天井に指の力だけで張り付き、ホセを襲う隙を探っていたオーウェンは驚きつつ、音も無く廊下に舞い降りてきた


「あんたが先程から来てたのは知ってた……ゼラルゼスって意外と仲間思いなのね……」


「いや、間抜けがどいつかを確認しに来ただけだ。」


「まーたまた……ついでに全員殺して情報漏洩を潰す気マンマンじゃん」


 緩いやり取りだが内容はかなり物騒だ、先を行きながら堂々と背中を晒すホセにオーウェンが声を掛ける


「それではやろうか? ホセ・ゴンザレス……本当の名前かどうか知らんが……」


「ああ、ここではなんだ、上でやろうか? ……名前はなんだった?」


 ホセも振り向くとしれっと挑発しあう二人がいきなりバッっと間合いを取る……


 お互いに原種である吸血鬼は殺すことが手間なので相手よりマウントを取ることから始める……精神的に追い詰め、その後、肉体に止めを刺せば運が良ければ殺せるし、次に相対しても優位に事が運べるからである


 オーウェンはホセのスカウト情報に所々にある不明、不確実、情報ソース確認中の表示を見て、原種の可能性を導き出し、そして組織に取り込むのを躊躇した……


 そして今、前羽の構えを取り後の先カウンターを狙うべく対峙する


 その当人であるホセは未知の原種との戦闘は久しぶりで楽しそうに両手を顔の前でガードし脇を開き気味にし、ムエタイの構えで突っかける


 オーウェンの前羽の掌が上を向くと両手の手刀がすすっと自然に突き出され、ホセのガードを巧みにすり抜けようとするが、すかさず繰り出される中段蹴りで応戦すると間合いを開けて回避する


「ふむ、ムエタイに空手では不利だな……」


 オーウェンは前羽の構えをやめるとすぅーっと自然な仕草で足は肩幅程度に開き、爪先は少し斜めに相手に向き 両脇を締めて両肘は肋骨の前に据え、左拳は顎、右拳は頬の高さにして腹筋に力を入れ、少し前傾姿勢になりぴしっとしたボクシングスタイルに移行する


「ほほう? 爪先は開くところを見ると蹴りもありキックボクシングか……」


 ジャブでホセが牽制すると同じように高速のジャブがホセの鼻を捕らえる


(ちぃ)


 ウィービングで距離を外しながらジャブを撃ち続けるホセに対し、オーウェンは予備動作なしで上段回し蹴りを繰り出しては無理やりガードさせ動きを止める


((めんどくせぇ相手だな……中々やりやがる))


 お互いに内心愚痴りながら久しぶりの強敵とのバチバチとした闘争に目が輝く


 そして高速で移動しつつお互いに位置を入れ替えながら攻撃を交わし合う……まるで悪趣味なワルツを踊るかの如く通路を横切りながらトーマスとダーホアが戦った格納庫に着くと間合いを取りながら息を整える


「ふぅ……見かけジジイで達人級の腕……お前さんこそがゼラルゼスだったのかぃ?」


 ホセは軽く息を整えつつオーウェンに尋ねる


「いや、我が子達こそゼラルゼスだよ。私は後見人かつ単なるコーチに過ぎない」


 涼し気に言い放つオーウェンだったが座り込んで休憩したいと思っており、かなりやせ我慢をしていた


「じゃ、気苦労は絶えんな……俺ら風情に壊滅的打撃貰ってちゃな……」


「ああ、出来れば残りを引き取り、説教の上で再教育と連中拾って来たスカウトをクビにしたい処だよ」


「ああ、なるだけしっかりトレーニングとスカウトをやってくれ、業界の憧れ、伝説の凄腕・ゼラルゼスが無名の特務に負け、一般人の忍者の子孫にやられるなんて……ガッカリしてる所だ」


「それは申し訳ないな……私が出張ってチャラにしてくれると有難い」


 ホセの苦言をオーウェンは軽く往なすが、ホセの怒りに着火する


「その変に過保護な事をやるからオシメが取れないんだろう?! 親が隠れて子供の喧嘩を助けてれば成長なんかない! 貴様は教育方針がまちがっとる!」


「だがしかし……」


「一度手を離したら後は見守る! 後は子供の自主性に任せりゃいい……迷ったら聞きに来るだろうさ」


「むぅ……」


 畳み込むように長年、貯め込み分かっていた点を指摘されオーウェンはぐうの音も出なかったが、そこに奇麗に一発かまされる


「というわけでおじーちゃん、休憩はどうでしたかぁ?」


「何?!」


「座って休憩したかったろぅ? 足が小刻みに震えてたから”ああ、辛いんだ……”とワシ、察しちゃったよ」


 豪快にゲラゲラと笑うホセに見透かされてオーウェンが今度は怒り出す


「言わせておけば、この三下が……絶対倒してやるから覚悟しろ!」


 顔面朱に染めたオーウェンがすっと構えるとダッシュでホセに接近しジャブを放つ


 それを軽くウィービングとダッキングを混ぜ合わせて軽快にかわして肉薄してリーチのあるオーウェンに対して近い間合いの肘や膝で応戦する


(さて、あの小太り君の大技は流石に即席でコピーできんが……真似ぐらい……))


 ホセはオーウェンと戦いを繰り広げながら百地の大技を見て真似できないかと考えていた……










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る