分散

  一方、スタン達は追いかけて来たJP達を躱すべく会議室に潜り込み身を隠す


 リカルドは監視カメラの配線を壊してライフルを構えると水筒の水を飲み一息入れて呟く


ソナーマンエリックはダーホアが始末してくれるだろうが、残りの特務が面倒だぜ? 一人ずつやるかい?」


「いや、あの3人は最も厄介なクラスだ……一つ間違えるとこっちが食われる」


 スタンは返答とともに苦笑しながら別の事を考えていた……


 出撃前のNYでアンソニーから提供された戦力のデータを車の中で見た際に無表情を装いつつ


(そう来たか……)


 内心やれやれと天を仰ぎたかった


 今回の敵の切り札と思われる特務、フィリップ隊のデータにあったメンバーの中でホセ・マーカス、それに隊長のJPは奇しくもゼラルゼスの次期スカウトリストに名前が挙がっていた人材だった……



 通常なら対象の人物の仕事の質や性格をゼラルゼスのOBであるスカウトに吟味してもらい、その結果で入隊契約のオファーを出す。


 その後、作戦や私生活をオーウェンが査定をするはずが、オーウェンが直々にスカウト吟味する事になった……


(爺様、仕事してくれてるっぽいが、スカウトに動くほどの腕っこきと戦闘するのは結構しんどいぞ)


 そう思った時、ふっとオーウェンの言葉を思い出した


 ” それで死ぬようなら必要ない ”


 それはJP達に向かって言った言葉でなく、戦場に居る自分達を含めた全ての関係者たち向けた言葉だと認識した


 そうなればじゃれ合うのも無駄であり、さっさとターゲットを始末して撤退するに限る。


 手っ取り早く発令室に向かうべく、ケーニッヒの援護がある屋上への道を探すべく見取り図をスマホで確認を始めだした


「何やってんだよ? もう行くぜ?」


 リカルドが急かすがスタンはスマホを弄るのをやめて指を口に当て静かにさせると指を通路側に差す


 見事な静音行動で敵を探るホセ達のシルエットが窓ガラス越しに薄く映る


 気配を完全に殺したスタン達はその行動を監視しつつ通り過ぎる事を祈る


 命拾いを願うのではない、背後からの奇襲の為だ


 すっと影が通路から消えるがスタン達はまだ動かない……油断は禁物だからだ


 気配を探りながら数十秒……周囲を確認して動き出す


 通路に出るとリカルドが小声で聴いてくる


「なぁ、スタン……この先に居るのって?……」


「ヒューズとアリだな……追跡して挟撃するか、それともフリーになって先を急ぐか……」


「判断は任すよ、どちらにせよヤル時はやらにゃ……」


 達観したようにリカルドは話す


「それでは先を急ごう、屋上に出てケーニッヒの援護を貰いつつ発令室に向かおう」


 かなりグダグダな進行具合でこのままでは任務失敗の目も有り得る……少しでも探索して目標を確保しなければならない意識が先を急がせる


「ケーニッヒ、今から屋上に出る。屋上の状況を教えてくれ、場合によっては援護も頼む」


 スタンは通じてるのかどうか分からないケーニッヒに呼びかけた後、リカルドと会議室から静かに出ると一路、屋上を目指して走り出した



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その頃、亮輔は大口叩いたもののヒューズ達の的確な射撃に圧され、相手の目的地であるゲオルグの私室手前まで来ていた


「チィ! 甲斐にバレたら笑われちまうぜ」


 苦無や消火器、掃除道具で抵抗するものの、じりじりと圧されてしまっては確かに逢わせる顔が無い


 そこにゲオルグの室のドアが開きその百地が出て来た


「お? 何してんの?」


 銃声をものともせずに百地は笑顔で呑気に尋ねてくる


「……悪いな……圧されちゃって……」


 バツが悪そうに亮輔が答えると百地は真顔で


「そら、しゃーないわ……相手は前回の件で俺らが性悪って知ってるから徹底的に仕掛けてくるからね」


「それもそうだぁ~って……そもそも、いきなり七年ごろしなんかやるお前が悪いじゃんかよ!」


 意外な返しで拍子抜けた顔の亮輔がノリ突っ込みで返すと百地は半笑いの顔で応戦する


「面白そうじゃん! やれやれ!と煽ったの亮じゃんよー、お互い様だよ……それにね」


「それに?」


「相手が本気だから遊びが楽しいんじゃないか!」


「だよなっ!」


 明らかに不謹慎な忍者の末裔達は悪企みを始めた


 手前消火栓からノズルをホースごと放り投げると消火栓を開き、凶悪な制御不能の龍を呼び出した……


 持ち手の居ないホースノズルは龍の口となり、高水圧の水流を吐き出しながら通路を所狭しと暴れまわる


「なんだこれは! 忍者マジック忍術か!?」


 アリが困惑しながらヒューズに尋ねると呆れた口調で説明を始める


「消火栓の水圧は結構高くてな……下手な大人の男でも制御するのは難しい、華奢な女性なら持ち上げるほどだ……それが持ち手のない状態で栓を開けばこうもなる」


「では、どうするんだ?」


「その場合は水が切れるのを待つか……こうするのさ」


 ホースに向けて銃を乱射するとホースに穴が開きより激しく動き出す


「おい! 前より酷くなったぞ!」


「まだ足りないだけだ」


 ホースの穴が一定のレベルまで増えるとノズルの動きが鈍くなっていく


「これでHP0だ!」


 最後に大穴が開くとノズルは力なく首を折り水浸しの床に落ちた


 水浸しの床を歩き、先を向かおうとするがその途端、ヒューズが悲鳴を上げた


「ギッ!」


 何かに驚いたように飛び上がると後方へ尻もちをつくように飛びのく、それに驚いたアリが身体を支えながら尋ねる


「どうした?!」


「あのジャップ日本人野郎! 床に電気流しやがった!」


 冷静で紳士なヒューズが怒りで言動さえ汚く罵ると遠くでドアが閉まる音が聞こえる


「逃がすか! 行くぞ!」


 水溜まりに浸からない様に注意深く進むとコンセントが外されて中の電線が床に接触してあるのをみて、それを銃で破壊し通電を解除する


「よし……やっと……目的地に来たぞ」


 ランバートの表札をみてヒューズが思わずつぶやくが本来ならあるまじき行為だ


 それに気づいてアリにゼスチャーで依頼すると、アリはザックのポケットからチューブに入った爆薬をドアにすっと仕込むとライターで起爆させドアを吹っ飛ばす


Freeze!フリーズ!


 間髪入れずにヒューズが侵入し制圧する……誰もいないリビングルームを……


 アリもそれに続き、二人でライフルを構え周囲を注意深く警戒する


 すると大型プロジェクターが作動を開始し、動画の映し出す……


 ミンホの7年殺しや電撃を受けたヒューズ達の表情のアップ画像のモニター動画がリフレインされ横から流れる様にコメントが出て来る……


「只今、全世界ネットで配信中……殺伐としたこの世界に大爆笑を!」


 面子丸つぶれのヒューズが無表情で引き金を引くとプロジェクターやインテリアが破壊されていく……


「ああ、メッチャ怒ってるー、この短時間での最高傑作な編集だったのに……」


「誰だ!?」


 話し声に反応してそちらに怒りの銃口を向けるヒューズの目前にキッチンから百地が顔を出す


「やぁ、此処にはウチのボスは居ないよ?」


「うるさい! とっととそこから出てこい!」


 アリもその態度にムカついてイラついた言動になる


「仕方ないなぁ……10数えて」


「3で出て来い」


 ヒューズは冷静に警戒する


(何か仕掛けてくる?!)


 瞬時にその場の緊張の糸が張り詰めると同時にカウントを始める


「1」


 百地達の動きはない


「2」


 宣告した途端、破壊したドアから追いついて来たホセが銃撃を加えてくるとはヒューズ達には予想外だった


「なっ!? なにぃ!」


 背中のボディアーマー越しに爆発的な衝撃と共に着弾を感じ身を捩って回避しながら反撃をする


「ヒューズ!」


 アリがホセを牽制しながらヒューズに駆け寄る、ザックとボディアーマーのおかげで致命打撃はなかったが、装備の一部は破損したかもしれない


「大丈夫だ……そこで応戦しよう」


 キッチンの出口に入るとホセと室内戦闘を始めだした


「アリ! この先を探索して目標かさっきの2人捕まえて来てくれ、最悪、人質にして逃げ出す」


「分かった……」


「手榴弾があったら置いといてくれ、戦線を維持する」


 アリは言われるままザック中の手榴弾を置いておくとライフルを構えて奥へ入って行く


 早速、手榴弾を手に持つとピンを抜き出口に向け放り投げる


 その直後に爆発音が周囲に鳴り響く


「てんめぇ! このやろぅ! 頭来たぞ!」


 煙を突っ切って顔面朱に染めたホセが反撃してくる。


 戦闘服は上下とも、靴までボロボロになっており直撃を食らったと思われるが目立った外傷は見当たらなかった


「何だ?! どこかのカートゥーンギャグ漫画のキャラクターじゃあるまいし!」


 面を食らいつつもヒューズも反撃をするべく、再度手榴弾に手を伸ばす


「させるか! このガキ!」


 戦闘被害に奇跡的に合わなかったリビングのテーブルを両手で担ぎながらヒューズを蹴り上げ、顔面に向かいテーブルをフルスイングする


 ――ガンッ!――


 景気の良い打撃音と顔に容赦のない共にダメージを受ける中でヒューズは気絶する……薄れゆく記憶の中、自分の今後を覚悟していた……



























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