打破

 トーマスはメープルの巨木の後ろに座って弾倉交換をしていたが、ふとマガジンを交換したばかりの愛銃のHK416ロングバレル改を隣で木の後ろに隠れるホセの処に投げると背中のホルダーにベルトで止められた2対の手斧を両手に持ちすくっと立ち上がる


 立ち上がり、対峙した瞬間に闘志が滾り、全身に殺気がほとばしるトーマスを見据え、得物のハンマーを回転させて威嚇しつつ、防御の盾を掲げるハンマースレイヤー……


 手斧を人差し指を軸に掌で回転させながらゆっくりと近付く、野性味溢れる赤銅色の顔は相変わらずの無表情で無言だ……


 そこにハンマーの攻撃範囲ギリギリでスレイヤーが動く


 上段からハンマーが襲い掛かるのを瞬時に掴んだ手斧で払うと横殴りの盾を難なく避けて下に向けて蹴り下げる


 盾が地面に引っ掛かり、その抵抗で次の動作が一瞬だけ止まり、遅れる……


「フンッ!」


 ――――ズガッ!――


 盾の上部中央に斧で割られて切れ目がザックリと入る……


(盾ごと断ち割ってくれる)


 無口で無表情なトーマスが強烈な意思を行動で雄弁に示した


 するとスレイヤーが瞬時に数メートル下がると”ガタッ!”と音をさせ盾をその場に捨てる


 その両手にはハンマーが握られ、上下に軽々と振られながら再度近づいてくる


(必ず叩き殺す)


 また明確な意思を示しながら振り被り駆けだす


 それに呼応する形でトーマスが地面を蹴る


『『ウオォォォォォォォォォッ!』』


 ――――――ギィン! ギャャリン!!チュィン!  ――――――


 両者の雄たけびと共に斧とハンマーが何度もぶつかり合い、刃と頭が交錯して周囲に火花と欠片と特有の音を響かせる……皮膚を極薄く切り裂き、肉に鋼塊が擦れる……お互いの攻撃を何とか避けあいながら武器を振るう


 今まで消音器サプレッサー付きの間の抜けた銃声だけの戦闘に金属音と打撃音が雄たけびが混ざり出し一気に騒々しくなる


「たく、めんどくせえな……おいトーマス、銃借りっぞ!」


 銃でトーマスを狙うS2達を牽制しながらロングバレル改を拾い上げて2丁ライフルで構える


 ―――― 状況が一気に変わる ――――


 他のスレイヤー達が相手のハンマーしか見えておらずに一心不乱に立ち回るトーマスを狙おうとする、だが、ハンマーと位置関係がその都度代わり攻撃機会を探ろうとし、JP達がその隙を狙い攻撃を加える


 目標が2つでブレまくり、攻撃の手が緩むのを好機と捉えた木に隠れ前を見ながらホセがつぶやく


「おい、聞こえっか? 俺っちの相手潰すから手伝え……1,2でやんぞ、1,2で」


 そして一瞬、間を置き


「1,2!」


 そして影からホセと呼びかけを聞いて呼応したが攻撃を敢行し、ホセの相手をしていたS2がその攻撃が読めず、胸部アーマーを集中砲火で破壊に成功し、その場に崩れる様に倒れる


「よし! 次行くぜ!」


 やっとの事で排除をしてエリックのスレイヤーを排除にかかかる


(ここはまだ手間取るが……兄ちゃんの処はそう抜けんだろう……相手トーレスが話通りの相手なら必ず兄ちゃんずジョシュ達に絡んでくる筈……軽めの正念場だぜ)


 ホセはライフルの弾を交換しながら状況を確認するとその横でハンマースレイヤーを0距離のショルダータックルで吹っ飛ばし、雄叫びをあげるトーマスが居た



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その頃、NYのバートリー本社のヘリポートに現れたキリチェックがそこから遠くから見えるヘリを見つける


「時間通り、流石だ」


 キリチェックの目をもってしてもはるか遠くに見える大型軍用ヘリ、アグスタ・ウェストランド AW101の一種と確認するのに数秒を要すが、そのまま直進しながら数分後華麗に着陸する


 大型ローターの回転数がゆっくりと下がり出し、扉が開く


「よぉ! ドラガン! お迎えご苦労ーさん! クライアントは?」


 栗色の天然パーマのメガネの優男がゴツいミリタリーバックを二つ引っ提げて出て来ては、早速キリチェックを見つけて気さくに声を掛ける


「やぁ、スタン、若はご自宅……いや、遊び場プレイルームか……そこにいる」


 ローターが起こす強風に煽られる天然パーマの栗毛にモッズコートを着こなすIT関連風のビジネスマンがキリチェックに握手すると、それに続いて来たのは異様な人物たちだった


 アルファ社のN-3Bフライトジャケットを着たガリガリに痩せ細った中国系女性やダークネイビーのM-65を着こなす小太りで口ひげを生やしたメガネの中東人等、国際色豊かで何処か異質な集団、8名が次々に降り立つ、各自荷物を降ろしながらゆっくりとヘリから離れる


 最後の華奢なロシア人が荷物を持ちm降り立つと作業員達がAW101に駆け寄り、回転の止まったローターを畳み、固定作業を始める、それを見たロシア人が途端に不機嫌な顔で睨みだす


「グレゴリー、そう睨むな、バートリーから来た専用整備士達だ、しっかりとしたハンガーで点検整備と補給してくれる」


 キリチェックがそうロシア人に宥める様に話すと渋々頷きながら


「わかった、だが、後で良いから此処に連れて来てくれ」


 このロシア人の習慣、自分が扱う機体を知らない奴に触られるのを嫌うのを知っていたキリチェックは笑顔で提案する


「ああ、構わんよ、送迎時の僕の運転にケチをつけなければね」


 そう言いながらタラップがエレベーター式に降り、天井が閉まるそこは整備ハンガー格納庫になっていた


「ああ、ケチは付けないさ……チームの指導教官として駄目だしをするだけだ」


「グレッグに掛かれば大概の奴は駄目だし出される、この前はフロスト卿が怒鳴られてたな」


 隣でやり取りを聞いていた中東人がロシア人グレッグを弄るとそれに乗っかってくる声があった


「そうそうこの前の任務中、ロケット砲を矢鱈撃ってくるゲリラに追われてんのに グレゴリーの旦那グレッグは”ランドローバーのアクセルの踏み方が荒い!” とか、運転してたスタンさんを怒ってんの!」


 浅黒い肌の南米人の青年が栗毛のメガネスタンを弄るとヤレヤレといった顔で


「戦闘中……それも逃走中に運転技術のご指導は勘弁だね……さて、ドラガン、クライアントの処へ連れてってくれ」


 キリチェックを急かすとスタンがもう沢山と呆れながら先を急ぐ


 地下駐車場に直通の大型エレベーターが開くと全員が中に入る


 総勢9人、全員癖の強い風体を醸し出していた


 2台のEVのミニバンに分乗すると前にはキリチェック、後ろにはグレゴリーが運転し出発する


 シャッターが開き、外に出ると無数のZが一斉に振り向き向かってくる


 先頭を走るキリチェクの車両が群れの中に突っ込み、スピンターンで弾き飛ばして先に進むとグレゴリーの車両は何もせず、漫然とそれに続く……


「今頃は後ろでダメ出しの嵐だね……”車体を武器にするとは何事かッ!” ってね」


 笑いながらスタンが予想する、すると運転席前のキリチェクのスマホのメッセージアプリが起動し、文面を表示する


 ”下手糞が……車体を武器にするとは何事かッ!”


 それを見た途端、スタンや中東人、南米人が爆笑しだした


 笑ってないのは神経質に外のZだらけの風景をみる中華系女性と口角をややあげて笑ってる風のキリチェク

 のみだった


「運転しながらスマホ弄ってはイケませんよ? 教官殿っと」


 スタンがグループチャットでグレゴリーを弄るとその途端クラクションが鳴る


「うるさいってよ」


 クラクションの意味を南米の青年が通訳をする


「へいへい、ともかくお待ちかねのティータイムだ、見せてもらおうか? バートリーの御曹司のおもてなしとやらを……」


「それが目的ですか……」


 苦笑しながら中東人が突っ込むが、おちゃらけたスタンの本命がどこにあるかを知っていた


 ロンドンが拠点の民間軍事会社ゼラルゼスのオーナー兼専任リーダーであり、イギリスの三流貴族フロスト家の当主たるスタンがわざわざほぼフルメンバーを引き連れて出張ってくるのはアンソニーのご機嫌取りは表向きの目的で、本当はその正体と動向調査だ


 会社にとって大口顧客の一つであるバートリーグループのジェルマンを脅かせる次世代のCEOの一人と言われる彼について知らないことが多い


 商才があってカリスマ性も高く、痒い所に手が届く、致せり尽くせりの気配り上手との評判だが吸血鬼としての特殊能力や基礎能力、目標や希望などが一切不明である


 大企業のトップに明確なビジョンのない人間がなることは終わりの始まり業績悪化であり、中小企業が大口顧客の大企業にある程度寄り添うのは生き残るために大事なことである


 ましてや従業員が千人以上が常識の民間軍事会社の中で、従業員五十人以下の小企業であるゼラルゼスにとって、相手のニーズと方針を理解して先手とベストな内容の戦果を上げないと今後の業績にも影響してくる


 そこで調査がてらに護衛として依頼のをきっかけに、キリチェックを送り込んでみたがまるで分らなかったし、逆に警戒心の強いキリチェックまでがアンソニーに心酔するようになる……


(最悪、あの人に出て来て貰うしかねぇかな……)


 会社の相談役である人物を思い浮かべて……渋い顔をする


 そんなことを軽々しく頼むと最低2時間は日本式説教正座で説教をして頂ける……アレは下手な拷問よりも辛い……亡き父も嘆いていたし、実際やられると膝と足首とメンタルをやられる……


 しかし背に腹は代えられない、自分で不調だった場合は依頼するしかない、覚悟を決めて茶会に臨もうとして情報を求めることにした


「つーか、ドラガンよぅ、状況を教えてくれ、対象の相手と戦況もわかる範囲で」


 時計を見ると表示は2時50分を表していた、スタンはキリチェックからの情報提供を元に展開予測と自分達がどう動けばいいかを想定しだした


 その5~6分後、一行はにはアンソニーの自称遊び場の白い豪邸前に到着した


「ふぃ~、なんだぁ? この嫌らしい位の派手な豪邸はよぅ?」


 グレゴリーの車に乗って来たアジア系のがっちりした長身の若者は車から颯爽と降りるとキツネの様な細い眼を皿の細めて建物を見る


「あー、ミンホと一緒に乗るんじゃなかった……うるさくてしょうがない……ケーニッヒさんやヒューズさんはめちゃ寡黙なのに……」


 後ろからごく普通の地味な若い女性が降りてくると目の前のアジア人、ミンホに文句をぶつけるが、全く意に返さず


「そんなこと言って~、キャロルちゃんはチーム一のイケメンの俺とおしゃべり出来るから楽しいだろぅ?」


「自分で言ってりゃ世話がないわ、とりあえずてめぇみたいなくそったれのバカファッキンアスホールは黙ってろ!」


 そう嘯いては肩に手を回そうとした若い男にキャロルと呼ばれた女性はその場をスッと離れると露骨に嫌な顔をしてミンホに厳命罵倒する


「おい、キャロルにミンホは別々で構わんから黙って車に乗れ、ヒューズにドラガンは俺についてきてくれ、クライアントに面談だ グレッグ以下他のメンバーは一度宿舎に向かえ、すぐに出動かもしれんがな……」


 スタンは苦笑しながら指示をするとグレゴリーの車の助手席に座っていた品の良さそうな白人中年男性が降りて来てキリチェックを伴うと白亜の建物に入っていった……










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