本質

 アニキ・マーク・ホイの3バカ強盗団は屈強な保安部員にキッチリ尋問で絞り上げられ、教会員とは違うとのゲオルグの判断により外へ追放の措置が下された


 早朝、そのゆえに外で椅子に片手をを掛けられて座らされた3バカ達の前を所員や研究員、保安員達が慌しく目の前を通って行くが、一瞥もせずに仕事に取り組んでいた


 目の前の駐車場にはJP達の米軍の連結された輸送トレーラー3台にピットブルVXが2台と避難用のバスが見えるだけで6台、紅葉が映える森の方から渋滞状態の中を非戦闘員である避難民達が搭乗へ待機の列を作っていた


 それをぼーっと見ながらホイが隣のアニキに声を掛ける


「ア~ニキィ、俺、腹減ったよぅ」


「ウルセェ、ホイ」


「けど、アニキ、おれたちゃもう2日も水しか飲んでねぇ」


「やかましいわ! 俺も腹へってンだよう」


 事実、最後の食事をした後にウェルス周辺で食料を漁っていたが大概の店は既に荒らされて何も残っていなかった。そこにジョシュ達を見つけ追いかけたがトレーラーハウスとピットブルではに差が有りすぎた、あっという間に撒かれてしまい、追っかけついでに食料を求めて南下して来たのだったが、ポーツマスやセーラムではZが大量に居すぎて撤退するしかなかった


 各々脳裏には食べたい物が浮かぶが、今は椅子に持たれかかりへこたれる……そこにその三人を見る幼い瞳があった


「おはよう、おじさん達は誰? みんな仲良くしないと駄目だよ?」


 ピンク色のリックサックに赤いトレーナーにオーバーオールを着たシリルが上目使いで三人を覗いていた


「お嬢ちゃん、おなかが減っちゃって……なんか食べる物ある?」


「んー? ちょっと待ってて!」


 何気なく言ったホイのおねだりにシリルは駆け出していくと暫くしてビニール袋にりんごを3つ持って走ってきた


「はい、コレ食べてー!」


「う……ありがとう」


 元気一杯で差し出されたりんごの袋を奪うようにして取ると3つのりんごをアニキとマークと分け合い齧り付いた


 久し振りの果実を頬張ると自然に涙が出た、アニキもマークも涙を流していた


「おじさん達、どうしたの悲しい事が有ったの?」


「いや、美味しくて嬉しくて涙が出たんだよ、ありがとうお嬢ちゃん、名前は?」


 アニキが不釣合いに優しい言葉で尋ねる


「あたし、シリルー!」


「おじさんはカイル・ハワード、こちらのデブがマーク・ハワード、こちらが中華系がホイ・ハワードだ、よろしくなシリルちゃん」


 手を伸ばして握手をしようとした時、すっと影が横入りして


「はい、俺がジョシュたんですー」


 ジョシュが割って入り強引に握手をしてきた


「なんだぁ? テメェは!」


 アニキのカイルが驚きついでに怒りの声を上げるがジョシュは気にせずに手を握る


「いたいけな幼女に3日も風呂は入って無いような小汚いオッサンが触るんじゃないよ!」


「ふ、あめぇな! オレは1週間も入ってねぇ!」


 ホイの頭をカイルは殴ると親指で自分を指しながら


「威張るな! 俺は2週だ」


「馬鹿なコントするとシリルが怯えるから止めろよ」


 呆れて二人に突っ込みを入れるジョシュはクスクス笑うシリルにジャニスお母さんが呼んでたよと列に帰るように教えた


「はぁい! じゃ、みんなまたねぇ!」


 シリルは元気良く手を振りながら列に戻っていく


「良い子だな、林檎をくれた親御さんにも礼を言わせてくれ、お嬢さんの優しさのお陰で助かりましたよと」


 柄にもなくカイルが感謝の言葉を述べる……それに驚いたジョシュもそれなりの返答をする


「ああ、伝えておくよ」


「ところでアンちゃんよぅ、皆なんで避難するんだぁ? 壁に守られてるからZも来ないだろうぉ?」


 ホイが不思議そうにジョシュに尋ねる


「此処はもうすぐ戦場になるからだよ、じきにイカレたカルトの武装集団が此処の住民を殺しにやってくるのさ……散々、保安員から尋問受けたろ?」


「あー、なるほどしつこい位に教会のものか? って聞かれた、こちとら教会なんざ12の頃から行ってねぇ」


 カイルがイラッとした表情で納得する


「此処の住民達? それであんな優しい良い子が殺されるだって? それで避難せにゃならんのか? アニキィ! 俺なんか腹立って来た」


 マークが明らかに眉間に皺が寄り太鼓腹を揺すって怒っていた


「ばーかーやーろーぅマークだぁってろぃ! 兄ちゃん、相手は昨晩に俺らの後ろに居た奴等だろ?  マーク! ホイ!俺らぁ束になっても敵わないぞ?」


 カイルが言動は荒いが冷静に判断していたが、ホイが皆の気持ちを代弁する


「けどアーニキィ……林檎を貰ったあの子に俺、なんか恩返しがしてぇ!」


「おいおい、あんたら教会の正規兵とやりあった日にはすぐ死ぬぜ?」


 ジョシュがその行動を諌めるが、カイルは決断した


「たった1つの林檎の恩に報いる為か……、よっしゃ! ハワード兄弟気合入れるぞ! 漢魅せるぜ!」


『おう‼』


 カイルにマークやホイが呼応するが即座にジョシュに却下される


「あんたらやっぱりアフォだろ? 後ろに張り付かれて侵入の囮にされるレベルなのに……悪いこと言わないから黙って最寄の避難所に逃げ込めって」


「ばーろぃ、俺らがやれるのは避難民が逃げて、護衛が体制を整える時間を数分だけ稼ぐだけさ……それなら


 そういってカイルは譲らない、そこに百地が手を上げながらやって来た


「ジョシュさん、おはよう御座います。何か問題でも?」


「おはようさん、モモチン、実はね……」


 今、有った事を百地に教えると少し考えた後に


「へぇ……わかりました、ちょうど僕と亮輔の使えるクルマが無くてどうしようかと思案してたのですが……宜しければご一緒しませんか? 今から保安部に掛け合ってきますから……」


「むぅ? アンタ学者さんだね? 銃ぶっ放した事は?」


「残念ながら有りませんよ」


 マークの質問に素直に答えるが、そこにジョシュが茶々を入れる


「おめぇ、ニンジャが銃使うか? 手裏剣だろが! こちらのモモチンはマスターニンジャだぞ!」


『なにぃ! ニンジャー!?』


 そのキーワードを聞いた兄弟の目が少年のように輝く


「いやジョシュさん、マジで勘弁して下さい!」


「あんた等、ニンジャと轡並べて殿しんがり務めるんだぞ……栄誉に思わんかい!」


 調子に乗って煽りつつ本当に困り顔の百地を見ながらジョシュはシリルの件からエライ展開になっちゃったなぁと思っていた


「避難民を逃がす為、カルト教団相手にニンジャマスターと殿しんがり……メチャクチャ熱いシチュエーションだぁ!」


 そのジョシュやマスターまで昇格してしまい戸惑う百地の思いを余所に3バカ兄弟のモチベーションが手の付けられないレベルまで急上昇するのは時間の問題だった……



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一方、トーレス隊は船でクリーブランドを経由しそこから北東のバッファローに到着し埠頭に停車してある特別な兵員輸送車に搭乗していた


「全員急げ、先遣隊は既に全滅したから仕事が面倒だぞ!」


『了解』


 S3が副官に居る事によりよりスムーズな行動が出来ていたが、全体の行動を阻害している足手纏いは他にいた……


「ニールセン志祭! そう張り切らんでも……敵は逃げはせんよ」


 船のタラップによたよたと降りてきた東海岸地区志教エドワード・ヘイデンと部下の志祭達にスレイヤー計画の担当志教達が船内で出されたワインをがぶ飲みし千鳥足で高級リムジンに分乗するとその廻りには護衛の兵が付くのだが露骨に嫌な顔をしながら護衛車両に乗り込む


「へっ、やかましいぜ、老害共が」


 トーレスは一瞥の後、ボソッと呟くと車両に乗り込むとその前にS3が報告に立つ


「志祭 全員、搭乗しました!」


「良し、先行するぞ、オラァ! 発進しろぉ!」


 運転席に向かいドンドンと拳を叩き付けて運転手に発進を急かすとエンジン音と共に車両は動き出した


 車内は大きめのシートが12席、6席が向かい合わせになっているが真ん中に武装を立て掛ける仕切り板が入っておりお互いの顔が見えないようになっていた S1とS2が向かい合わせに座る


 その風格は歴戦の兵士の様に無口で姿勢は微動だにしない……現場を知らない制服組は感激する理想の姿だが現場の人間はその機械みたいな姿にゾっとするだろう


 その奥の隊長席のみ仕切り板はなく、向かいは副官席になりS3が座っていた


「老害どもの世話なんぞ出来るかよ……さてS3、便宜上お前の事を……リックと呼ぼう」


「了解です」


 迎えに座るトーレスの呼び名に困惑しながらもS3リックは肯いた


「それでリック、なぜ細かく動作しながら観察を行っていた?」


 本題を突きつけられるもリックは淀みなく返答をする……準備してきたかのように……


「他の同型が異常な仕草をチェックされて廃棄処分になったのでどの程度までならOKなのか? を自身で確認しておりまして……」


 トーレスはにやりと笑うとその返答に間髪入れずに否定を入れた


「違うな、お前さんは逆に微細な仕草を出して観察してたんだよ……愚かな生き物達がこの挙動を見つけることが出来るのかを?」


 トーレスに生まれて初めての図星を言い当てられリックは驚愕を隠せ切れずに慌てだす


「じ、自分は……そ、そんな――」


「まぁ、待て、誰も即座にお前さんを始末しないぜ、そんな高レベルでの狡猾さと指摘しただけで尻尾を出す所が気に入ってるんだよ」


 トーレスはゆっくりと観察しながら話しかけ、それをリックはただ黙って聞いていた


「しかし、俺程度に見切られるのなら強皇閣下や武闘派の志教やその配下なら即座に見極めて始末されるだろう……その前に多大な戦果を上げておけばそう簡単に始末はされん、今はただ従いながら経験と実績を詰め……生き延びる為にな」


「は、了解です……」


「それにな……同じ施設で育った兄弟達や戦友達の屍を踏み越えて来た俺に似ているのも有る……」


 そう言うとトーレスは初陣のトラックの中を思い出していた……みな無口で物音にビクつきながらライフルをお守り代わりにしっかり握ってシートに座っていた……


「そうなのですか?」


「ああ、俺ともう一人、……を残して皆逝っちまった……やつらの願いや悲しみ、恐怖を俺は背負って戦う」


「私にも出来るのでしょうか?」


 言葉の持つ意味と心情が全く理解出来ないリックが物珍しそうに尋ねてくるがトーレスは冷静に切り返す


「やる気も無いのに聞いてくるんじゃないよ? 小ばかにしてるのが見えすぎだぜ」


「申し訳ありません! 失礼しました!」


 内心を見透かされたリックは即座に謝罪するもトーレスはこの傲岸不遜な生物は油断してると反乱を起こす本質を見抜いていた


「ともかく今回の任務を生き延び相手を舐めるな……コレだけを考えて動け」


「了解です」


 リックの返答を聞き、周囲のスレイヤー兵士を観察して溜息を吐く


(こんなロボット三等兵ども引き連れて噂の凄腕特務隊とやりあわなきゃいかんとは……今回の貧乏くじは格別に悪くて泣けてくるぜ……)


 そう内心ぼやくとマクミラン狙撃銃を肩に掛け少し眠る事にした……

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