会議
塀の外側の兵士達を一掃し、JP達は玄関でフレディ・ボガートとジュリア・アンダーソンの出迎えを受け感謝を述べられると、そのまま研究所内に入ると各部署の案内もそこそこに会議室に通された
その顔ぶれの一部に冷静なJPでさえも目をむき出しにして驚く
そこには大型モニターを普通の長机と事務用の椅子を並べただけの一件何処にでもある会議室にゲオルグや百地達、自称戦闘可能な研究員達とそれをバックアップするサポート職の皆さんに……ジョシュ達三人が居た……
((この三人……何故此処に居る!?))
顔色や仕草に極力驚きを出さないように……JPとホセは同じ事を考え、エディが余計なこと喋らないように目配せをする中、席を立ちJP達に歩み寄りながらプレゼンのように自己紹介をする
「さて、フィリップ隊長、僕がここの所長のランバートだ、敵兵士の掃射有難う御座いました、暫くは宜しく頼むよ」
「いえいえ、我々を受け入れて下さり有難う御座います。隊長の
JPも近寄り、ガッチリ握手する両者を見ながらジョシュはそのぎこちなさに違和感を感じたが、ゲオルグが臍を曲げたのかも知れないと思いスルーした
そのゲオルグが振り向き様、何処に隠し持っていたのか判らないマイクを手に持つと参加者に話しかけた
「さて、みんな、良く聴いてほしい。いつものクソッタレの教会が何故か厳重に隠蔽された当研究所の位置を断定し、こうして中央から特務隊が派遣されてくるタイミングで攻撃が行われるという事態に対し、我々としてはかつての最悪の結果を避けるべく、3つの対応を実行に移す予定である」
そう告げるとモニターを操作し次々と地図と作戦指示を出す
一つは、敵、主力である特務隊が襲来する前に予め非戦闘員である研究員と職員、その家族達数千名を大量のZが蠢くボストン市内にある財団所有の秘密ドックの客船に避難させ出航させる
「ちょいまって! 2000人級の客船なら結構な大きさになる、そんなモン誰が動かすの?」
ジョシュが疑問に思い挙手して質問するとゲオルグが笑う
「保安部職員に元海軍の空母の操舵手と港のタグボート乗りがいる、出航と寄港は彼らにやってもらうし、もう一人候補が……君ならわかるだろ?」
そこまで言うとまたにやりと笑う
(……キャッスルさん、あんた、今度は客船の操舵手だってさ)
ジョシュも釣られるように苦笑する
「そしてその2だ……後顧の憂いが無くなったらそのクソ特務と一戦交える……」
それを聞いたJPが立ち上がると口を出す
「コレについては我々の管轄ですね」
するとゲオルグがそれを制する
「それについては僕や僕ら穏健派と呼ばれる者達にとって聞き捨てなら無いキーワードを持つ部隊だから一戦を辞さないよ」
「と、仰いますと?」
ゲオルグは簡単にかつてのスレイヤー虐殺事件と今回の新型によるチームについて説明をした
「それで……」
JPは静かに本来の冷徹さを滲み出すがゲオルグの方が潜ってる修羅場の数と遭遇し、乗り越えてきた死神の数が多すぎた
「正直、個々の戦闘力では君らには敵わない、だが、我々を甘く見た教会に対し、
「それを
JPがにやりと笑い凄むがゲオルグは全然意を返さずにおちょくる
「そう思わないか? ちなみにそこの僕と
「なッ! ……コホン……血液を」
自分の能力をテンション高めに指摘されてエリックは驚愕しJPをチラミした。そして肯かれて許可を出されると渋々ながらも血液を要求し能力を展開させる……
「少なくともこの施設5キロ四方には居ませんね」
「というわけだよ、フィリップ君、今回の仕打ちにイラッとしてるのは君も同じな筈だ」
「その前に……我々の能力を調べておられたのですか?」
JPはゲオルグを見据えてそう詰問する
「かなり前……君らが同族の防衛軍入隊直後からね。特に特務チームに入隊する人材は何処の部隊も逸材の宝庫だ。バートリーのデータベースはその能力やデータ、経歴を保存してある。勿論、面白半分や陰謀ではなくあくまで純然たる研究目的だよ? これは我々吸血鬼のみならずヒトとしての種の秘密の一端を解き明かす鍵にもなりうるからだ」
「それで我々を受け入れたと?」
「もちろんそれが目的ではないよ。これでも
ゲオルグは怒りを押し殺しながらもそう説明するがJPはそれを見越して煽り出した
「ならばランバート教授、貴方が
昔の二つ名を出されて地が出たのかざっくばらんな口調でゲオルグが喋りだす
「よせやい、迎撃に抗争、研究に没頭した挙句に自前の研究所がバートリーに敵対的買収された抜け作だぜ? 滅亡待った無しだぜ……」
「そうでしょうか? 必要な人材で堅め支えれば……」
「ともかくその議論は終わりだ! 社会とバートリー財団自体を改革せねば誰が上に立っても変わりは無いよ」
そう吐き棄て、話を強制的に終わらせるゲオルグにJPはエリクソンから渡された情報を提示する
「判りました……ですが、最後に補佐室のブースから筆談渡された情報です。確かにアンソニーは我々と教授の抹殺を狙っており、その理由は遺伝子工学の権威である教授に調べられては困るものがあるからだそうです。その際エリックに精査して貰ってますから情報はまず間違いありません」
「なんだそりゃ……ふむ、奴等に持ってかれた物にヒントがあるかな……」
「ちなみにアンソニーは核の奪取を目論んでます。自分が撤退するような時は核で最後っ屁をするそうですぜ?」
マーカスが情報の付け足しをする……それをやりそうなホセは何が気に入らないのかそ知らぬ顔で腕を組み何も言わなかった
「青二才のシャバ僧がやりそうな手口だな……しかし、いつ入手するかわからんな……アレの動きが判ればいいが……」
ゲオルグはアンソニーの動向がわからないのを懸念したが、JPは2つの情報源を出す
「まず、NYにウチのメンバーが一人、諜報要員として居残ってます……それと教授、ブースはこうも言ってましたよ≪先生、その節はどうも、必要な事があれば何でも言って下さい≫とね」
「ブース……バートリー側の切り札の1枚……それをこちら側へ引き込めるか?」
名前を呟きかつての因縁を思い出し、ゲオルグは切り崩しを提案する
「わかりませんが、アンソニーとは結構遣り合ってるみたいですよ」
「ふん、不確定過ぎるな……ブースの話は切り離して置こう、引き続き……その前に君らは
「貴方が裏切らなければね……」
「同じ条件だな……取引成立だ」
再度JPとゲオルグは握手をして意志を確認しあい、続いて戦略を構築し出した
「では動向調査を君らに頼むとして……敵への対応の仕方だ……どうするのがやりやすい?」
「擬装住宅街で勝負掛けた方が被害は少ないでしょうね……罠も仕掛けやすいですし……ホセ・エリックどう見る?」
「……オレよりエリックに聞いて下さいよ……」
「エリック?」
不貞腐れたように答えるホセをスルーし、JPはエリックに振ってみた
「相手の規模が判らんのでなんとも言えませんが、住宅街で決着をなんて都合の良い展開は起こりませんよ」
「ほう? それで」
「ここの森での森林戦ですね……教会の兵士は薬物により観察眼や五感が優れているので擬装による待ち伏せ、地雷や罠も無効でしょう、ですが地理的要素、土地勘はここの皆さんが断然有利なので有効活用した挟撃や伏撃が相手が大規模部隊ならばかなり有効です」
「ただし、相手は俺らと同じ特務だ、少人数でのタイマン遭遇戦を仮定したほうが良い……」
我慢できなくなってエリックの戦略にホセは設定ミスを指摘した
「では、ホセはどう動くの?」
少し膨れっ面をしながらエリックが尋ねる
「チームを2つに分ける、まず本隊はここの情報センターから侵入した兵士の動きを前線に伝え、森の中の有利な地形に誘い込み、多数の人員でこれを殲滅する……」
ニヤニヤしながらその説明を聞くゲオルグにムッとしながらホセは続ける
「もう一隊はこの外周部より外で待機して連中の本部を探して叩く、情報通りの新設の特務……新型という奴等なら近場にモニターとそれを見て悦に入ってる幹部共が入る本部席が有る筈だ……そこを襲撃すれば兜首……噂の強皇ってのがいるかもしれん」
「流石……で、本部をやるのは君らかい?……」
ゲオルグが不気味にニコニコとしているが、いつもは愛想の良いホセがむっつりとした顔で応対する
「ええ、異存が無ければね。但し、護衛の兵士が多数居ますから教授一人で行かせるのは失敗間違い無しですね……」
「それなら僕付きでフィリップ隊長に率いてもらおう……なに、
「JP? ……」
「それで良い、チーム選別は後でやりましょう」
JPの許可と提案に対し肯きながらもゲオルグのニヤニヤは止まらずにホセを見るがそれを無視してホセは椅子に無造作に座る
「では……次は3番目か……エメ・トゥーレ、後は頼むよ」
ゲオルグに呼ばれて、サポート職のグループ席の前列に居た十代後半といえる黒人少女が立ち上がった
油まみれのダボ付いた作業着と安全靴だがおしゃれに見えてしまうのは彼女の魅力のなせる業なのかもしれない
メラニンが強く出た褐色というよりも漆黒といった素肌と野生的で均整の取れた身体がラテン系だが聡明で理知的な風貌をより神々しい物に引き立てていた……特に澄んだ蒼い目は見据えた相手に否応なく畏怖と冷静さを惹起させる
そのエメと呼ばれた女性はにこやかにゲオルグに返事をして自己紹介をする
「ありがとう、ゲオ、私が此処の装備科・機材開発部部長、エメ・トゥーレだ……最初に外部協力者の装備について報告・指摘させてもらう。まずポートランド組の装備点検は終わった、数丁の銃は有名銃鍛冶の手が入っていてメンテも申し分のない状態だった……触らせてもらって私は感銘を受けるほど良い仕事とそれを維持する
「こちらこそ、評価して貰い有難う、後でアドバイスがあれば是非御教授していただきたい」
ジョシュは意外にも神々しい美女にそう褒められて少し緊張した……自身の
「さて……フィリップ隊だけど物量共に例の教会の本部襲撃する噂を肯定する物量ね。H&K HK416アサルトライフルとMP7短機関銃、ライフルオプションM26 MASSにレミントンM870ショットガン、ミサイルはFGM-148 ジャベリンとM72E10ランチャーにトドメは
JPに向けて弄りだして半笑いの顔を向ける……だがエメの瞳は少しも笑っていなかった……これだけの火器が置いてあっただけで謀反、反乱、制圧を疑われても仕方が無い量だった
「相手が教会の旅団規模を想定しておりますし、LRADは篭城対策です。Zを呼び寄せて周囲の敵を損耗させるのが目的です」
「以前なら元に戻して来て! とお願いする所ですが仕方ないですね……一応動画として証拠は遺してありますそれとLRADの設置については後で話し合いましょう」
「畏まりました」
JPさえもある種の金縛りのような束縛が身体を縛り上げていた
「物品は作戦選択次第でボストン市内のロシアンかチャイニーズマフィアの武器庫を根こそぎ漁る必要があるかも……それに応じてはスタッフの補充要請や資材回収のお願いが各部署にあるので宜しくお願いします……」
「そんなヤバげな場所判ってるんですか?」
シュテフィンが驚きながらも尋ねるが、エメは澄まし顔でネタバラシする
「そこはゲオは昔から遺伝子鑑定等の依頼があって、検察や警察から情報融通して貰えるほど信頼されてるので、
「……マフィアの武器に手を出すの?……怖くない?」
「ああ、そこもOK、事件絡みで恫喝受けた時、組織のボスと幹部の私生活から秘密まで全部バラした挙句、逃げ隠れするボスと幹部を毎日毎晩追い掛け回して辱めてEDと不眠症にして以来、ウチと事を構える事は禁忌になってるから……」
『『怖っ!』』
さしものジョシュ達も声を揃えてびびるしかなかった
「てなわけで、装備補充したら第3の対応、次の移住地点の捜索と移設を提案するわ……バートリーの手の上だけど資産も小島1つ買えるほどあるし……」
「とりあえずは此処までにしよう、フィリップ隊長、避難民の護衛を頼む、フレッド、準備出来次第行くぞ!」
エメの発言がある程度終わるとゲオルグが全員に指示を出して始動を始めるが、そこにアニーが立ち上がるとJP達の前に歩いていく
「あのう、少し良いですか? NYから来たんですよね? そこにメイン州ポートランドから14歳の男の子が一人、拉致されて来ませんでしたか? マーティ・ネルソンと言うんですけど……」
それを聴いたマーカスとエリックの顔色が変わる……JPは自然な振る舞いで徐にエリックの飲み残した血液を口に含み、それを察してばれない程度の能力を使う
「失礼ですが、お嬢さん、名前は?」
「私はアニー・ネルソンと申します」
「では、アニー嬢、心苦しい話ですが、実は我々は前の上司の命により各地の避難所から集められた避難民を救助してNYに連れて行く任務に従事しておりました。……ところが実際は拉致の手助けをさせられていたと言う訳です。そしてその上司がポートランドで負傷、戦死をして自由になり、こうしている訳です」
「じゃ! アンタ達がマーティを攫ったの!?」
アニーの怒号が部屋に響き渡り、慌ててジョシュ達が駆け寄ってくる
「ネルソンさん、落ち着いて聞いてください! それは私共と別の部隊と思われます。当時我々は上司に反抗的な態度を咎められて資材集めをしておりましたから……ですが、その連れ帰った部隊も帰還後に教会の部隊と遭遇し全滅しました。そこでNYに居る我々の仲間達と連絡を取り合い、マーティ君の行方の調査に入って貰います。よろしいですか?」
「NYに居たら……そこに行かなきゃ……」
アニーは涙目になりながら呪文のように呟く
「よぉ、オネーちゃんさ、それは十分に策と準備をしてからやったほうが良い……NYコロニーの周りにはアンソニーの直属部隊や防衛軍の駐屯所にビックアップルの住人達の
「角刈りのおっさん、そりゃどういうことだい? いや、戦闘の結果が……うんたらとか……」
ホセのアドバイスの最後の一言に違和感を感じジョシュが尋ねる
「仮にだ、ここで俺らが幹部等を始末して大勝利なら、教会は報復の為に此処に逆襲にくるか、大逆転を狙いに中央があるNYに攻め込むだろう……そうすれば戦闘のドサクサに紛れて俺らの援護もあり、装備も十分な状態で侵入は容易くなる。負けたら此処を足場にNYに攻め込まれる……そこでもドサクサに紛れれるかもしれんが、装備はカツカツで俺らの援護が無い……そういう事だ」
「なる……そういうアンタらはここで勝ったら次の中央になるのかい?つーか、なるだろ?」
「いや、俺達は最下級の出だ、吸血鬼は眷族以上しか支配階級になれない……まず民衆が付いてこない、キングメーカー《担ぎ上げ》が精一杯だよ」
会話に乗っかってきたJPがジョシュの指摘を否定し、自虐的に笑う
「……キングメーカーねぇ……」
一瞬、ジョシュはシュテフィンを担ぎ上げたろかなと思ったが思い止まった……人間でありたいと願う者にそれは悪い冗談だった
「とりあえず、みな動いてくれたまえ 時間が無い! ホセ! 君は僕の執務室に来てくれ、作戦の細部を詰めよう…… 隊長、少し借りるよ?」
その瞬間、ホセは露骨に嫌な顔で動きを止めて拒否の意思を示したが、笑顔のゲオルグに手招きをされて渋々その後をついて行った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます