錯綜

  Zで溢れかえるポーツマスの近郊を抜けた頃、クリス達は後方から一台の車がつけている事に気づいた


 電気自動車のSUVでその静音性の所為で発見が遅れ、然も何処の所属か不明だった


「ちっ、全員戦闘準備に入れ、同族なら話を付けるが教会なら構わないから全力でぶっ放せ」


 指示を与えるも、頭は早鐘の如く鳴り響く痛みを抑える麻薬属性の鎮痛剤で重く濁っていた。


 そこに後方の車より報告が入る


「追跡車には二人、もしくは三人しか乗って居ない様です!」


「ならば……次のインターで降りて待ち伏せするぞ! 次は何処だ?」


「ウェルスです!」


 それを聞いたクリスは腹を決めた。此処を何とか凌げばポートランドはすぐそこだ。同族なら丸め込んで協力させればいい


 ウェルス付近まで来ると前回には無かった炎上した後のタンクローリーが横転していた


「誰か此処で戦闘をしたらしいな……」


 一瞬、ポートランドの連中か? そう推測するが証拠が無かった


 インターを猛スピードで降り、料金所で全員降りて待ち伏せに入る


 SUVもインターに入ると料金所が見えるところで車を停める


 クリスは持ってきた血液パックを飲み干して能力を活性化させて料金所から出て来てSUVの前に立ち、笑顔で呼びかけた


「よー、オレ達はポートランドの避難所に行く所だけどあんたら何処に行くんだ?」


 すると後部ドアが開き、巨大なシールドが現れた。答えはこれだと言わんばかりに……


「撃て!」


 クリスが地面に伏せて身を回転させながら避けると同時に弾丸の雨がシールドとSUVに降り注ぐ


 だが、SUVは穴だらけになるもシールドは健在だった。そして横に移動すると穴だらけのSUVの後ろから銃声と共に弾丸が放たれ、兵士が吹っ飛ぶ


 避けたクリスが立ち上がってコルトガバメントを抜いてシールドの裏側の存在に向けて発砲するが、盾をずらして弾く


「貴様ら、教会か!」


 片手にガバメント、もう片手にナイフを構えるとクリスは死角になる盾の存在に向かいフェイントを交えて近づく


 盾が開かれるとハンマーが唸りを上げてクリスの禿げた頭に襲い掛かる。その盾の男、パブロは嬉々としていた。


(ちょろい! いただき!)


 ハンマーが頭に触れる直前にクリスの姿が視界から消える!


「なっ!?」


 無意識でシールドをハンマーに被せる様にして身を守るとガバメントの45口径の弾丸が2連射がシールドに弾かれる


 ハンマーの間合いを後方に飛んで外しつつ、ガバメントを連射して連続攻撃を防ぐ、あわよくば討ち取れたと思ったが甘くはなかった


「クリス様!」


 クリスの危機を察知し、兵士達が牽制と援護の銃弾を放つが悉く盾に弾かれ、そこにトーレスの狙撃が加えられまた一人、命を散らす


(ちっ、コイツより、狙撃手を何とかせねば……)


 回り込もうとしてもハンマーヌンチャクに邪魔されて動けない。自身の能力・高速移動をもってしても牽制される


 兵士が最後の一人まで減らされるとクリスは決断する


「撤退しろ! 此処は俺が死守する! JPかマーカスにこの事を伝えろ!」


 唸り来るハンマーを掻い潜るとナイフでパブロの右上腕を切り裂きハンマーの動きを弱めると一気にトーレスまで詰める……だが、弾切れを起こしたドラグノフを横に置きベレッタF93を構えて待っていた


「はい、お疲れさん」


 そう言うとトーレスが引金を引くがそれをも横にステップして避けてガバメントを放つ


「お!? マジか!」


 回避運動に驚いたトーレスは即座にSUVを盾にして銃撃を避ける


 クリスは走り去る兵士の車を横目で見る。……そこに隙が生まれた


 ガバメントを構える腕の肘関節を巨大な盾が回転しながら破壊する


「なっ!」


 力無く折れた腕を見ずに盾が投げられた方を見て驚く


 両手でハンマーヌンチャクを身体の前に構え、そこからゆっくり振りながら身体の周辺を回る。


(こいつ、クスリやってるか気でも狂ったか?)


 クリスはヌンチャクを瞬きもせずに振り回すパブロを見てそう思った


 こぉぉぉぉぉぉ


 独特の呼吸音と共にハンマーが一気にスピードアップしていく


 ヤバいと思ったときには既に高速状態のクリスでも捕捉出来ない速度でハンマーが回っていた


 それがじりっじりっと近づいてくると同時に高揚感が抜ける感じと痛みが襲ってくる、血と薬が切れたのが判った


 ――――――あの男パブロの横を抜けて車に戻り血液パックを取り、逃げるしか手はない――――――


 覚悟を決め、パブロを見据えて最後の力を振り絞り地面を蹴る


(側面に移動すれば対応が遅れるはず!)


 頭部に振り下ろされるハンマーを避け、真横に入ったと同時に足に衝撃が来る


 下腿部のボディアーマーにトーレスが銃弾を当てる、腓骨辺りが折れたかもしれない衝撃にもんどりうって倒れるが、前回り受身の要領で立ち上がり車に走り、エンジンをかけ走り出す


「チッ、逃がすか!」


 パブロはヌンチャクを振るのをやめ追撃に入ろうとするが、ドラグノフを構えたトーレスが制止する


「なけなしの1発、〆させて貰おう」


 インターのアクセル全開でカーブを抜けようとするクリスの側頭部をスコープに捉え、引金を引く


 ――タァァァァァン!――



 運転席でアクセルを踏むクリスの左側頭部から右に弾丸が貫通し、そのまま銃弾の運動エネルギーが脳漿やら眼球を助手席に待ち散らす


 そして猛スピードでガードレールに突っ込むと横転、炎上した


「高速能力は初めてだったが、結構手強かったな」

 パブロは頭を掻きながら不甲斐無さが目立つ仕事に不満げだったが、取り成すようにトーレスが煽る


「北部に行くとレア物が居るって言ったろ? とにかく、近場の街で探すぞ」


 残弾の無いドラグノフを肩に掛けて装備をパブロの分を放り投げて渡すと自分の装備を背負う


 そしてベレッタの残弾をチェックすると”ウェルス”と書かれた街の方へ二人は歩き出した





 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ジョシュ達はマイケル達と共に食料と燃料、それに移動用の大型バスの確保をしに行く為、集まって来たZを排除する事から始めた


「おーい、行くぞー」


 マイケルがロードローラーを運転しながら横からZ達をひき潰して行く


 ――ベキッ、バキッ、グチャ、ブチッ――


 周囲に骨や肉が砕かれ、潰されていく音が不気味に響き渡る


「あんま気持ちの良い音じゃないね」


 銃を置き、芝生に腰掛て耳を塞ぎながらアニーの眉間に皺が寄る


「一応、この後に土と石灰かけるんだろ?」


 ジョシュや他の住人達が塀越しに石灰の袋と腐葉土の袋を運びながら言った。通常、石灰を少量かけると保存状態は良くなるが大量にかけると化学変化により熱量が発生し腐敗が進む、園芸を趣味とするペニー・モネのアイディアだった


「臭くならない?」


「一時的にはね、Zに張り付かれるよりマシなのよ」


 アニーの質問に後ろにいたエイミーが脚立を出しながら答える


「へぇ……みな何処も考えてるのねぇ……」


 腕を組み首を傾け唸るようにアニーは考える、懸案事項は全てウォルコットに任せっ切りだったからだ


「その考えを、意見を吸い上げより良い方向へ進むのはリーダーの仕事だ、ただ、それで間違いや衝突の緩和や責任もリーダーの責任だ。お嬢ちゃんアニーや、もし無事帰還できたら皆でリーダーを支えてやってくれ」


 何時の間にか様子を見に来たゼニカルが来ていた


「判りました、無事に帰れたらそうします」


「うん、良い娘さんだ、お供の2人も理知的でありながら力を振るう事も厭わん、それに誠実だ」


「あの二人が?」


「ああ、君の上の上層部がお供に選んだ理由もわかる気がする、一人は対吸血鬼対策、あれほどの適役はおるまい、分析力・決断力はまだまだだが、経験を積んでいけば良い指導者兼戦闘リーダーになれる、もう一人は参謀としては面白い、掴み処が無さげに見えるが賢く、機転が利くし、何よりうちのマイケルを庇い、あのポールクソやろうと舌戦してくれる逸材は大事だぞ?」


 最後の評価は個人的えこ贔屓だなぁとアニーは笑ったが、この数日、修羅場を共に潜り抜けて来た戦友を評価されて少し嬉しかった


「有難う御座います。後で伝えておきますね」


「照れるから止めとけ、して……どちらが恋人だ? ん?」


 その言葉を聴いた時アニーは顔が真っ赤になった


(え、どっちなんだろ? アタシはマイケルさんみたいなさわやかーで理知的でかっけぇ~のが良いんだけど……ジョシュはバカでガサツだし、ステはボケキャラでなよなよーっとしてるけど二面性あるし……)


 そう考えていると助け舟を出すようにレイアが来てくれた


「ゼニカルさん、セクハラしてると後でマイキーに小説教されちゃいますよ」


「おお、レイ、見送りか? ワシはどちらが好みか聴いただけだぞ?」


「場合によってはアウトですからね、ただ、私も聞きたいかな?」


 助け舟が一転、セクハラに加担する……


「えー……両方、嫌かな……」


『御免なさいキター』


 そう言ってゼニカルとレイアが笑い合う


 昔の人気カップリング番組を思い出したらしい


 そこにその片割れ、シュテフィンが銃を背負いながら、マガジンを抜き遊底がスライドした状態のベレッタを弄りながら歩いてきた


「お? アーセア君、どうしたね?」


「マーセアです、こってこてのボケ止めて下さい。いやね、ベレッタを色々換えたってハロルドさん言ってたけど……何処か変わったのか判んなくて……」


 最後の言葉が出る前に顔がまだ赤いアニーが無言でベレッタを奪うと一瞥し握る


「グリップを新品に変えてあるよ、綺麗に掃除と照準も合わせてある」


「え? そうなの? 全然気がつかなかった」


 のほほーんとするステに対象ねぇとアニーは観察する……やはり微妙だ


「おい、ステ! とっとと手伝え! それと豆、店長ンとこ行って仕上がった銃貰ってこいや!」

 袋を担ぎながら怒鳴るジョシュを一瞥して……


(こいつはマジありえん、このアタシを呼ばわりするこいつだきゃーない)


 メンチ切りながら無言で肯き、ゼニカルとレイアには行ってきますと挨拶をしてゼニカル邸の納屋を作業場に借りているハロルドのところへ向かった


 残されたゼニカルとレイアはやれやれと言った風でお供二人を見つめる


 あえて感情を無視してるのか?それとも不器用なのか……


「素直になればいいのにな……」


「ええ、自分の欲望に答えるのは悪徳ではないですから」


 ゼニカルとレイアは溜息をついて首を振った


「よーし、全部片付いたから行くぞ」


 処理を終えた後、中古の白いGMCサバーバンからマイケルが顔を出し、待っていたジョシュ達を乗せる



 遅れてグロックを受け取ったアニーが走って来た


「お待たせ」


「いえいえ、今来た所ですよ」


 運転席に座り、笑顔で出迎えるマイケルを見て


(あー、やっぱマイケルさん素敵……)


 アニーがデレるが、後部座席の仏頂面で外を見ている二人をみて幻滅する……


(こいつらダメダメだー、何にも判っちゃ居ない)


 助手席にアニーが座ると見送りに来たゼニカルとレイアに手を振り、サバーバンが出て行った


「さて、まず燃料だな今日は三人も居るから楽チンだよ」


 運転しながら嬉しそうに話すマイケルにジョシュが尋ねる


「いつもは一人で?」


「最初はね、ハロルドさんが来て助手を買って出てくれたから二人でやってた」


「え?! 大丈夫だったんですか?」


「さっきのロードローラーで店の入り口と全滅させてから店の品物持って来てたからね」


 優しいマイケルには似合わない荒っぽい手法だなとシュテフィンは思った


「流石に僕一人では全部をやっつけるのには時間と骨が折れるからね。ハロルドさんの発案で二人で工事現場に置いてあった重機を持ってきたんだよ」


 ハロルドの知識マニアっぷりがマイケルの負担を軽減するとは……アニーは少し驚いていた


「でも、連れて来なくて良かったのかな? 銃器店行きたいと言ってたから」


「いいですよ、用件は聞いてきましたし、久し振りで、しかもレア物の銃が弄れるのは楽しいとさっき言ってましたよ」


 アニーはグロックを渡される際、素材と弾薬をハロルドから注文を受けていた、勿論、次の店でS&W M945と同等かそれ以上の愛銃を探すのが目的だ


「そっか、銃器は詳しくないけど綺麗にきちんと整備してくれるといいね」


 マイケルはそう言うとアクセルを踏んでスピードを上げた







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