脱走

 その頃、マーティは通気口内に入っていた


 先程、食堂でくすねたフォーク3本とナイフ2本をズボンのポケットに入れると


 中庭で秋の残り少ない晴れの日で日向ぼっこさせられる隙を突き、部屋に戻るとMA-1タイプのジャンパーにジーンズ、中にはボストンセルティックスのシャツを着てコンバースのスニーカーを履いて、監視の目を掻い潜ると予め目を付けてあったダストシュートに入り地下へ行く


 そして運よく、地下の処理室で作業中の作業員に見つからずに身を隠すことが出来た


(ふぃー、さて此処からどうするか……)


 地下ここから上に上がっても途中、作業員や職員に見つかっては話にならない、もう一捻り……と考えてた所に修理中の通気ファンがそこにあった


 音を立てないようにゆっくりファンを外し、静かに中に入る、そこに館内放送が流れる


≪14歳の白人少年が逃亡! 全警備員と手の空いている職員は至急捜索されたし! 繰り返す!14歳の白人少年が逃亡! 全警備員と手の空いている職員は至急捜索されたし!≫


 とりあえず視界から隠れないとと急いで接続部に手と足を掛け、なるべく静かに昇り天井に入る


(気分はトム・クルーズかジョン・マク〇ーンだな)


 内心そう思いながら通気坑内を進み角を曲がるとグレーチングから声が聞こえる


「あのクソガキ! まーた逃げ出したの?!」


 そこは処置室になっており、中では連絡を受けて金切り声で女性の看護師長が怒鳴っていた


「師長、そう遠くには行ってはいないと思いますが?」


 新米の看護師が落ち着かせるように尋ねる


「あの子は連れて来たトーマスさんもJPさんもだから気をつけろと言ってたのよ……どの顔さげてあのイケメンの二人に顔を合わせればいいか……」


「ですよね~」(そんな顔、元から持ち合わせてないじゃない)


 そう内心毒づきながら新米は同意する


(マーカス? JP? あいつ等の事か)


 盗み聞きしながらマーティは自分を此処に連れてきたマーカスと接触したスカしたイケメンを思い出した


「何れにせよ外に出られてもこのエリアからは逃げられない。探すのが厄介なだけ」


「人ごみにまぎれたら判らなくなりますからねぇ」


「地下鉄に入ったら襲われてZになるし……いっそ地下鉄の駅にでも放り込もうかしら……」


(情報・ご忠告、ありがとねん)


 マーティは看護師達の会話を盗み聞きしながら外の情報と対処を一つ一つ覚えていった


 そしてまた先に行くと死臭がしてグレーチングを覗くと……死体安置所らしく、下で蠢くZと目があった


「やべっ」


 その声を聞き唸り声が激しくなる


 慌てて先に進みエレベーターの所に出る


「これで上まで行けるかも……」


 通気口からエレベーターの位置を見る


 まだ降りてこないが、じきに下に来そうな雰囲気だったが、そうも言っては居られなくなって来た


「おい、Zが騒いでるぞ?! 始末しとけって言っただろ?」


「あー、ん?! ちょっと待て、何故Zが騒ぐんだ? 例のガキ、この辺に居るんじゃないか?」


「まさかぁ……ちーと調べてみっか」


 真下に居た警備員たちが部屋を一つづつ調べ出した


(げっ!? やばい!)


 廃棄物処理室の通気口が分かれば追跡されると思い、エレベーターの到着を焦りながら待つ


 しばらくしてエレベーターが到着し、静かにかつ、急いでその上に乗る


 巧く乗れた、応援に来た警備員も気がついて無い


 身を張り付かせて最上階へ行くのをひたすら待つ、運が良ければエレベーターの作業タラップに移動出来るはずだ


 息を殺しながらエレベーターの中の会話を盗み聞きする


 警備員達が移動しながら世間話をする


「戦況はどうなんだ?」


「五分五分らしい、ただ、例のJP隊か?アレらが大量に米軍基地から武器弾薬運んで来たらしいぜ」


「それでも兵士が居ないだろ?」


「そん時は……俺らが出張るんだろ……面倒だけどな」


「おお、やだやだ、Zが出てくる前の方が平和だったぜ」


「そうだよなぁ……教会も多少のテロ仕掛けてくるだけだったしな」


 ――――チーン――――


 音と共に中層階に停まる


「お、それじゃ行くべか」


(屋上まで行けよ! 役立たず!)


 エレベータにへばり付いたままマーティが内心毒づく


 そうしている内にまた誰かが乗ってきた


 ――ん?――


 ――気付いた?!――


 天井を通して視線を感じ、マーティの背中に冷汗が流れる……


 そしてエレベーターは静かに最上階まで移動する


 ――しめた!――


 エレベーターが最上階で止まると直ぐに作業タラップを探し、ドアが閉まると同時にタラップの柱にしがみ付く!


 必死でよじ登りタラップに転がり込むとマーティはやっと深く深呼吸した


「ふぃー、隙見てバックれたのはいいけど、ほぼ出たとこ勝負だったからなぁ……あの兄ちゃんズみたいだ」


 そう呟くと避難所でアニーとドツキ漫才してたジョシュ・ステアホ・ボケコンビを思い出す

 だが、自分もの様に【やる時はやらねばならない】


 姉やマリエルおばさんの所に無事に帰るまで、多少の無茶は得意技! と気合を入れ直した


 そしてタラップに立つとハッチの前に進み向こう側の気配を探る……出来ない事なので適当で済まして開けて出る


「やっぱり居たわね」


 ハッチを開けた途端、声を掛けられマーティは驚きで動きが止まる


 そしてゆっくりとその声のする方へ顔を向ける


「あら、クソ生意気そうな顔してるじゃない」


 年の頃は同じ年ぐらい、背丈も同じぐらいの赤のチェックシャツにTシャツに黒のスキニーパンツを履いた可愛いけど同じく生意気そうな金髪の白人の女の子がニヤついた顔で腕を組んで狭い通路に立っていた


「あ?! 誰に物言ってんだ?」


「誰って此処、アンタしか居ないじゃない。バカなの?」


 アニーの説教を思い出してイラッとしたが無視して脱出に動く


「ちょっと‼ アタシを無視する気?!」


 逆鱗に触れたらしく怒り出すが、アニーなら問答無用で拳が顔面に捻りを加えて飛んで来る可愛いもんだ


「騒ぐわよ?! ここでレイプされたーって!」


「アホなのはお前だっ! 喋って欲しけりゃ上から目線で喋りかけるな! このクソマヌケ!」


「う……」


 いつものマーティの得意技、口の悪さと突っ込みが炸裂し女の子が絶句する


「そーれーに、いきなりレイプってアホか!? 俺はそんなンやってる暇はないの!」


「じゃ、なによ? 何が目的なの?]


「此処から出たい、非常階段は何処だ?」


「教えて欲しい?」


 再び、少女が上から目線と悪戯な笑みで聞いてきたが、イラッとしたマーティがぶっきらぼうに返す


「いらね、自分で探すからほっといてくれ」


 そういった後


(姉ちゃんとジョシュ兄みたいな口の利き方だな)


 そうアニーとジョシュのやり取りを思い出した


「あんたってホント残念な奴!」


「残念でもなんでもいいや、そこ退いてくれ」


 むくれて可愛らしい顔が台無しになりながら少女がマーティを睨みつける


「ドアを出て右の階段を上ると屋上、そこの端に非常階段があるよ」


 むくれたまんまで少女がそう言うとマーティは振り向いて笑顔で礼を言う


「ありがと、君、優しいね。じゃあね」


 そういってスタスタと扉のドアを開け教えてもらった通りに進むとその後ろから少女がついて来る


「なんかよう?」


「面白そうだから見てる」


 訝しげにマーティが尋ねると笑顔でそう答えた


「面白くも何とも無いから、自分の家に帰れよ。俺も今から帰る」


 半分はキレ気味、半分は自分に言い聞かすように少女に勧めるが、無視して質問して来た


「あんた、家何処?」


「ポートランド……」


(う、なんかズケズケと入ってくる……なんだこの子?)


 当惑して足を早めてマーティは屋上に向かうとその後ろからぴったり付いて来た


「ウソでしょ?! めちゃくちゃ遠いじゃない?!」


「それオレゴンだろ? 俺んちメイン州」


「え? こんな状況でそこまで帰るの?」


(こいつ、なんか変だ? ペラペラとしゃべっちまう)


 マーティは違和感を感じながらも先を急ぐ、そして屋上に出て周囲の風景を見て足が止まり、此処が何処だか判った


「え……此処は?!」


「何? あんた此処、何処だか知らないの?」


「しらねぇよ! 此処来た時、途中でクソ中年のマーカスに昏倒させられたし!」


 あの日、マーティの身の安全と脱走防止に昏倒させられて運び込まれたのだった


「なにそれ?バカみたい」


「バカみたい? ざけんな!! 避難所襲ってきたのここの連中じゃねぇか!」


 マーティの怒りで少女の顔が一変する


「え? どういうこと?」


「んなことはどうだっていいよ! 速攻で帰るんだから!」


 非常階段を見つけると一気に駆け出す


「あ、待って!」


「道案内ありがと! さっさと家に帰れよ!」


 追い縋る少女にそう言い棄てるとマーティは階段を5段飛びで下りる、結構な階数だが止まっては居られないだが……


(後ろから階段の下りる音がする、まだ追い掛けて来るのか?)


 階段を性急だが軽快に降りる音が聞こえる。兎も角、地上に降りたら適当な人ごみに紛れて逃げ切る、今はそれだけに集中する


 後2階まで降りたところで後方のドアのランプが点灯すると警備員達が現れる


「あ! 動くな!」


 慌ててトンファー型の警棒を引き抜きながら追い掛けて来た


「うひー、女の子に追い掛けられてる方が幸せだったな」


 軽口を叩きながらスピードに任せて飛び降りるか?下をチラっと見るが、仮にクッション代わりの物があっても着地して起き上がる時間で追いつかれる即座に否定する、走り抜くこれしかない


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ラスト一階、踊り場まで到着した所で上から少女が降ってきた……


『な、なんだぁ?!』


 これにはマーティも上の階に居た警備員も目を疑った


 そして下のシーツやタオルの入ったリネン袋の上に少女が落ちる


 これには流石のマーティも慌てて助けに入る


「大丈夫? 立てるか?!」


「うん」


 ゆっくりと立ちながらほこりを払う


「なら、頑張って! もう少し走るよ!」


 後ろに到着した警備員達を見ながら手を繋ぐと二人は人混みを探して走る


「俺はマーティ、マーティ・ネルソン、君は?」


「私はソフィア、ソフィア・ブース」


 少女はそう名乗ると二人は一気に走り抜ける


「ソフィア、人混みに紛れて逃げるよ!」


マーティは先程仕入れた情報を使い巻こうとするが、既に限界に近い。そこにソフィアが提案する


「うん、それと良い所があるよ?」


「え?何処?」


「アタシんち!」


 そう言うとマーティの腕を強引に引っ張るとそのまま公園の林と草叢を突っ切り、反対側の高級そうなマンションに入っていった













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