予兆

 シャッターが全開になる。それと同時に散々待たされた闘犬ピットブルが怒りを爆発させた。Zに散々全身を叩かれて続けて怒り心頭だったらしい。


 アクセルベタ踏みでタイヤが煙を上げて空転する。そしてタイヤが地面を噛んだ瞬間に強大な馬力が伝達される。強固なボディで周辺に集まるZを瞬時に3メートル程ドミノ倒しのように弾き飛ばす。そのまま車庫の外に一気に飛び出す!


 外に出ていきなり旋回し、周囲に集まってきていたZの大群をバラバラに轢き倒し、弾き飛ばして道路に出て行く。暴れ狂う闘犬ピットブルのそのものの動きであった……。



(これがジョシュの言ってたステの運転なのね……メチャクチャじゃないの)

周囲の状況を見る余裕もなく、アニーは必死に保持ベルトに掴まりながら思った。ジョシュが嫌がるシュテフィンの運転技術に納得し、顔が青ざめた。


 幾ら頑強な車とは言えジョシュの顔が恐怖で引き攣る。

「ふぅ! アニー! すぐ運転代わってくれ! こんなの続けてたらこいつピットブルでも保たん!」

道路に出てすぐに後部座席で顔が真っ青のアニーに頼む。


(ピットブルの前に私達がヤバいよっ!)

 即座に車を止め、慌てて前に出てきたアニーが運転を代わる。シュテフィンは幾分すっきりした顔で後部座席に座った。


「……じゃ、ウエストジェイに行くよ」


 ほっとした顔でアニーが目的地を告げる。ジョシュが賛同し、ちょっとしたお願いをする。

「ああ、ついでに橋の上で派手にサイレンとクラクション鳴らしてやってくれ。皆に”出たよ‼”って教えてやるのと此方南方ににZ集めだ」


「了解」

 車はルート77を通り、キャスコベイブリッジに入る。車を止めて最大ボリュームでサイレンとクラクションを3分間鳴らした。それにより橋の両端には徐々にZの姿が現れ出す。



 だが、それサイレンの暫く後に予想通り返事があった。


 ――パーン! ――パーン! ――パーン! ――


 島の方から3発、等間隔で銃声が聞こえてきた。


「……皆、行ってくるッ! そしてみんなで帰って来る!」

アニー達は彼らの思いを受け取り、サイレンを鳴らしたまま走り出した。釣られるようにZがピットブルを追いかけ始めた。


 その頃、港にボートを着けてキャッスルが上陸した。サプレッサーをつけたワルサーPPKを片手に寄って来るZを鼻歌交じりで排除する。小さな3階建てのビルに音もなく入った。


 そしてZが通路や階段に居ない事を確認する。速やかに最上階の一室、コードキーのドアの前に立つとコードを入れてドアを開けた。


 ドアの付近のスイッチを入れ、中に入る。そこには事務机に旧式のPCとロッカー、そして電話が設置してあった。そこは教会の無人オフィスセーフルームで連絡や物資の補給、待ち合わせをする場所なのだ。


 PCの電源を入れるとパスコードを入れ起動させる。受話器を手に取り、番号を入れて相手が出るのを待つ。


 3コールで出た。怒れる中高年男性が罵声に近い言葉で電話を切りに掛かる。

「誰だ!? 今、取り込み中だ! 後にしろ!」

切られる前にカウンター気味にいつもの台詞を被せた。

「毎回言っているだろう? ニック、それは仕事が出来ないからだって」


 そのセリフでニックと呼ばれた男は驚いた様に聞き返す。

「え!? あ? ジョニー!? ジョニー・カスティーヨ!? 生きてたのか‼」


「ハッ! まだ生きてるさ。ところでニック、俺の戦友、ニック・ラヴェル志祭として話がある」


  数年ぶりの正常な声色にキャッスルは気分がよかった。そして教会在籍時の元同僚で、今は教会の幹部であるニック・ラヴェル志祭に状況を話す。

「粗方わかった。そんで、お前さん、ポートランドにそのまま居るのか?」


「あぁ、又、襲撃か秘密裏に潜入してくるかもしれんからな。出来れば出番が無い方が望ましい。それに見所のある新兵を拾ったしな……」

筋肉質の腕に巻かれた包帯を見てため息をつく。昔ならあの程度の雑魚は単騎で壊滅させた。今では腕も錆びつき、蹂躙できる体力もない。戦闘に携わるのであれば厳しいリハビリが必要だった。


「お? かつて全米屈指の巡回説強者サーキットライダー、ジョニー・カスティーヨのお眼鏡に叶うとは……何処の間抜けだい?」

 ニックの質問にキャッスルはジョシュの事を話した。もちろん、部隊殺しは吸血鬼の先制攻撃で壊滅と誤魔化して、拉致られた所を拾った事にしておいた。


「今、調べた。行方不明者MIAになっているな」


「それを俺の直弟子として再登録しといてくれ。今、修行で東海岸を南下させてるから」


「オッケー、やっとこう。お前も俺の予備役と言う事で配下にしておく。もちろん給料は出さんぞ」

ニックは笑いながら答える。端末を操作してすぐに処理してくれた。


「ああ、要らんよ。それと、を襲いそうな武闘派コロニー、教会と相手の最重要地点をメールで回せ」


「お!? 早速ルーキーをそこにぶっこみに行かせるのか? うちの援軍は要るか?」

嬉々として尋ねるニックにキャッスルは嗜めるように答えた。


「要らない。まだ修行中だぜ? それと俺らの所属とその行動は極秘任務扱いで頼む。修行にならん、そちらの攻撃情報だけくれ」

そう言って断った。援軍出せば教会を敵視するジョシュは良い気分にはならないからと慮った。


「わかった。ところでジョニー、ここに戻って来ないか? お前さんなら枢騎卿すうきけいどころか強皇最高の指導者クラスで帰って来られるぞ?」

教会には位階があり、新兵、雑兵、ハンターは下級兵士である。上級クラスには序祭じょさい志祭しさい志教しきょうまであり、その役割や能力で肩書きが付く。


 ジョニーやニックは志祭であり説強者せっきょうしゃと呼ばれる。担当エリアの最高クラスの戦闘力、指導力を持っている。また志教は枢騎卿、強皇に任ぜられ教会の運営に従事する事になる。


「悪いな、隠居の俺はしがない市民でいい」

キャッスルもまた教会には事件を起こして引退していたのだ。


「そうか……お前さんならこの腐り切った組織を再生と再構築出来るのに……あ、それとの計画が完成したぞ‼」


「例の? ……スレイヤー計画か!?」


 もし、ニックがその場に居たら絶句していただろう。その言葉を発したキャッスルの顔は現役時代よりも怖ろしい程、になっていた。


 かつて30年前、キャッスルことジョニーは教会の屈指のヴァンパイヤハンターだった。正義感が強く、また先進的で吸血鬼達でも人としてみていた。それでいて腐っていく組織や程度の低い教会員に対し我慢がならなかった。そして証拠と証言を集め、黒幕の主席枢騎卿と強皇の悪事を暴露・追及した。


 しかしその所為で隠して保護していた穏健派吸血鬼達を無残に嬲り殺された。失脚した強皇が発案したある計画の産物の為に……。改革派の中心人物であるジョニーに対する報復でもあった。

その実行犯、コードネーム:スレイヤー殺戮者は初期実験段階の薬剤による強化兵だった。強化に殺戮を重ねた挙句に暴走し、部隊味方を全滅させる。虐殺の報復に来たジョニーが辛うじて倒した。


そしてジョニーは絶望し、教会から去った。かわりにしがない漁師キャッスルがポートランドに住み着いた。



「お前が教会にいながら何故止められん! そのデータも入手出来たらくれ!」

キャッスルはその憤りをニックにぶつけた。だが、ニックは諦めた声で告げる。


「そういうがな、仕方あるまいよ。お前の去った後の改革派俺達は全員、援護の無い最前線に送られて死なないから俺の様に閑職データ室送りだ。今の強皇には太刀打ち出来ないのだよ」


「どこのどいつだ、そのクソ外道は!?」


「ヴォイスラヴだよ。お前を一方的にライバル視してた」


 キャッスルは記憶の中であの挑戦的な態度と野心が漲る笑みを思い出した。強皇・ヴォイスラブ、東ヨーロッパ支部の巡回説強者でバートリーの拠点を潰して出世する。そしてジョニーも居たメキシコにて発生した吸血鬼宗教団殲滅作戦で名を上げた。猛者中の猛者だ。


「あいつか……反吐が出るぜ」

キャッスルは受話器を握り締め、自分の中の怒りを殺す。いけ好かない奴がムカつく奴に変わる。


「兎も角、データや情報が入り次第送る。PCは?」

あのジョニーの不機嫌さを感じ取り、ニックは苦笑しながら話を進めた。


「俺のスマホに送れ、それとやはりジョシュはお前が指導員で登録しておけ。ヴォイスラヴクソやろうが嗅ぎ付けると面倒だ」


「ああ、そうしよう」

怒り心頭だがあのジョニー殺戮機械が冷静に配慮して動く。現役時代より考え方が洗練されたか? と思うニックであった。


「ニック」


「なんだ? ジョニー」


「他の戦友にも言っておいてくれ。クビになったら連絡くれ、飯でも奢るよ」

ああ、コイツは変わっていない。あのガサツで不器用だけど一本気で人懐っこいジョニーの野郎だとニックは妙に感動した。


「ああ、このだ。腹一杯たのまぁ」

お互い笑いながら電話を切った。


 そしてPCに向かい、各種のデータとジョシュの連絡先を入手する。そしてロッカーにおいてあった銀の弾丸2ケースとフルオートに改造されたAR-15を背負う。そして集中して壁越しに周囲の気配を読む。Zが居ない事を確かめてスッとその場を立ち去っていった。


――――――――――――――――――――――


 ジョシュ達はしばらく2時間ほど南下した。キャッスルが言って居たウエスト・ジェイエリアに着いた。


「ナビだとこの先に……あった!」


 海岸線の道路から少し入って奥まった所にそれはあった。怪しい風貌の片眼鏡を付けたラテン系のおじさんが貼られた看板パンサのコンテナボックスが有った。


大型コンテナが並ぶ施設内に車を滑りこませる。大型コンテナのユニット9を探す。それは1番奥に有った。


「あーこれか……」

 コンテナの前に止まり、ジョシュは車から降りた。アニーには屋根から見張りを頼んだ。

ドアの横に入力装置があり、教えられたコードを入力した。


「04108っと」

ジョシュは予め調べておいたZipコード郵便番号を入力する。ブシュッと空気が抜けると同時に扉がスライドしていく。コンテナ内には銃器と弾薬、資材がぎっしりと貯蔵されていた。


「グロック26に……うは、H&K MP7……大半は後ろに手が回る代物ばっかじゃねぇか」

 大半の銃器はフルオートに改造もしくはフルオートタイプになっていた。サプレッサー消音器付もあってジョシュは目を丸くした。これら全て全米で所持禁止の強力な銃器であった。


「おいステ、アニーと代わってやってくれ」

 シュテフィンは後ろでボケーっと銃器を眺めていた。それに気が付き、見張りを交代してきてもらう。


「何かあった? って、うはーぁ!? 何気にヤバげなもの多くない?」

(一瞥しただけで判るのが凄いな……。)

そのガンマニアっぷりにジョシュは苦笑する。


「とりあえず、確実性の高いフルオートの小銃を3丁、短機関銃ミニマシンガンを4、狙撃銃はドラグノフかぁ……じゃ、要らない。その7丁と拳銃は良いのがあったら貰っとけ」


「あんたは?」

早速、銃を手に取り品定めをしながらウキウキのアニーが聞いてくる。


「ライフルのどれかを使うさ」

ライフルを品定めしながらジョシュが答えた。銃はどれも高品質で、手入れが完璧に行き届いていた。


「私の拳銃はあげないわよ?」


「愛用があるからイラネ」

そういって外に出る。周囲に死臭はするものの、とりあえずは呻き声やゆっくりとした足音は聞こえない。


 シュテフィンが車の屋根に固定されたタイヤに腰掛て周囲を見張っていた。ジョシュはその下で車にもたれた。


「さて、どうする? これから?」

シュテフィンがおもむろに予定を尋ねた。


「とりあえずは国道ルート95に出て南下しながら目に付いた避難所を当っていく。ウォルさんの依頼もあるしね」

ジョシュは凝り固まった肩をほぐそうと腕を大きく回す。


「ふむ、途中、Zや道路封鎖されてて通れないとこ有ったよ?」


「そこは迂回する。連中吸血鬼も極端に車の傷や汚れが少なかった所を観るとそうしただろうしね」資材集めの時、ジョシュは時間を取ってアンリ達の車を調べていた。少しの情報でも貴重な証拠になる。


 そこに扉からアニーが顔を出す。ジョシュを見つけて声を掛けた。

「ジョシュ! 選んだわよ! はい運んで!」


「はいよ」

そういって中に入る。アニーは2丁の銃を抱えてきた。H&K HK417、最新鋭の選抜射手用小銃マークスマンライフル、耐久性や確実性は米軍採用で折り紙つき。……勿論違法改造フルオートだ。


「なにそれ? ARに近くない?」

HK417を見て不思議そうにシュテフィンが聞いてくる。


「全然違うぞ、まぁシルエット的には近いが……最新鋭の選抜射手マークスマン用だ」

ジョシュは銃を見て困惑してこたえる。しかし、相手がずぶの素人だと再認識する。


「マークスマンって?」

車内に入りジョシュが小銃を車内のボックスに立てかける。頭を掻きながら判りやすくシュテフィンに説明をはじめた。

「マークスマンって言うのは狙撃手と一般歩兵を兼任する奴だ。800m程度の狙撃もするが普通に攻撃も参加するそういう役割の兵士だよ」


「へぇ……万能選手だ」

シュテフィンが手渡された1丁を構えてスコープを覗く。周辺には動くものは無かった。


「そういう事」

 そこにアニーが重そうな50連発ドラム弾倉4つ持って出てきた。


「ぐぐ……そこ、くっちゃべっていない!」

文句を言うとすかさずジョシュは運ぶものを尋ねる。

「へいへい~、次は?」


「ShAK-12、それもサプレッサータイプ」

アニーが重たいものを持った両手の指をもみほぐす。そしてレアな銃の名を告げた。


「な……そんなものまであったの?」

ぴたっと立ち止まり、目を向いてジョシュが驚いて振り返る。


 ShAK-12はロシア製の自動小銃である。アンチマテリアルライフルのバレットM82と同じ50口径相当であった。


 この銃は対組織犯罪、テロ組織用に飛距離より威力重視の方針で開発された。射程100mなら壁とボディーアーマーごとぶち抜く破壊力。そして室内使用を前提に取り回しの良いブルバップ式に設計してあった。その物騒な銃は兵器といっても過言ではない代物になった。


師匠キャッスルさん、アンタもろじゃねぇかよ……こんなもんまで貯めこんで……」

 ShAK-12と専用弾薬を持ってそう愚痴る。そこでジョシュははっと気がついた。


「あ、今、銃器関係どれだけある?」

その問いにアニーが弾薬を置く。その場で指を折って数える……。


「えーとAR-15が3丁、バレット1丁、レイジングブル、M945、P210、グロック17とベレッタ92だけ」


「弾の規格も考えておかんとヤバイな……」

 その種類を聞いたジョシュが冷や汗を流す。気がついたのは弾の規格口径だった。

P210、グロック17、ベレッタ92は9mmパラベラム弾で共通だ。しかし後の4種類がまちまちであった。


 例えばバレットは12.7x99mm NATO弾で最大の弾だ。次いでAR-15は5.56x45mm NATO弾で量も最も多い。

拳銃ならレイジングブルは500S&W弾が大きいが弾は少ない。その次はM945の45ACP弾となる。


 それに今度はShAK-12の12.7x55mm弾とHK417用の7.62x51mm NATO弾が増える。いくらピットブルでも弾薬だけで過剰積載気味だった。


「どれか一つか二つばかし互換性のある共通口径にしないとな」

ジョシュは並べられた銃を吟味しながら呟く。


「ShAK-12、レイジング、バレットは無理ね。あえて言うなら拳銃弾9ミリパラベラム系だけど……あ、ちょっと待って」

そう言ってアニーがスッとコンテナに入ると2丁の短機関銃を持ってきた。



「マイクロUZIウージーか良く有るな、そんなもん……」


 マイクロUZIはイスラエル製の名機関銃ウージーを小型化させたものだ。小型化してさらに進化させたマシンピストルとも言うべき機関銃である。毎分1400発の弾丸をばら撒き、整備性、劣悪環境下での確実性は高い。そして9mmパラベラム弾を使用する点においてうってつけだった。


「2丁だけ?」

ジョシュは他にないか尋ねる。連射性能がいい武器は出来ればもう1丁欲しかった。


「うん、あとステアーTMPがあるよ?」


「それも貰っとこう」

アニーは中に入りTMPを持ってきた。そこの動きはまるで銃砲店のバイトらしく気の利いた機敏さだ。


「よし、アニー、ステと交代してくれ。資材を入れる」


「わかった」

 後部ハッチから退屈そうなシュテフィンが入れ違いで出てくる。



「やれやれ、荷物運びか……」

とほほとしょげながら呟く。見張りも退屈だが重労働も好きじゃない。


「銀のインゴットと弾薬関係だ。すぐ終わる」

 中に入ると銃火器の台や作業台の下から資材や弾薬を見つける。2人でコーティング済み弾頭や火薬缶、銀のインゴット等を半分ほど運び出して車に入れる。十分な補給が出来た頃には既にあたりは暗くなってきた。


 後部ハッチを閉めて、フロントガラスにカーシェードを張る。目覚めがZの顔は遠慮したかったからだ。3人は今夜の夕食の缶詰を食べながら協議をはじめた。


「ちっ、今夜はここで寝るか……」

 コンビーフを頬張りながら残念そうにジョシュが呟く。出口が1カ所なのは襲われた時に好ましくない。しかし、コンテナは簡易的な防護柵になるので路肩よりマシだった。


栄養ゼリーを口から放し、諦めた口調でアニーが答える。

「暗くなっては仕方ないね。Zが寄って来るだろうし、吸血鬼たちもどこに居るかわかんないしね」


そこにエネルギーバーを齧りながらシュテフィンがトマトジュースを飲むジョシュに尋ねる。

師匠キャッスルさんからメールは?」


「ないね。しかし、元教会員なのは驚いたが伝説って自分で言うか? 普通?」

ジョシュが笑いながら突っ込む。その弄りに2人も笑い出す。そして間をおいてアニーが問いかけた。


「さて、2人さん、反省点はなんかある?」


「ちょ~い、ウォルさんみたいだな」

真摯な顔でのアニーの問いかけにシュテフィンは避難所を思い出す。


「まぁ、今後は弾の口径とか補給品、食料等の配分を考えないとな」

 頭を掻きながらジュシュは先程気がついた点を上げる。


「この先、補給もままならなくなるしね。Zもわんさか出てくると思う」

アニーはチーズを齧りながら溜息混じりに答えた。



「弾薬と食料は速やかにコンビニ漁るか……擬似的な国歌作戦する?」

 ボトルのコーラを飲みながらシュテフィンが提案する。

郊外、若しくは店から離れた場所の放置車を見つける。その車のカーオーディオを一斉に最大ボリュームで鳴らしておいて逃げる。そこにZを集めておいてその間に店を漁って物資を回収する作戦だ。


「まぁ、とりあえずやってみよう。巧く行けば避難所もその時見つかるかもしれんし」

瓶詰めのトマトジュースを飲みながら提案にジョシュが賛成する。


「手探り、場当たりでやってみてダメなら?」


「運が良ければ生き残れる。運が悪けりゃ死ぬだけさ」

アニーの問いかけにジョシュが真剣且つ皮肉めいて呟く。だが、シュテフィンは違った。


「頭と知恵に連携で足りない運を引き寄せればどうにかなる。足掻きぬいて絶望は死んでからすればいい……」


「へっ、ちがぇねぇな……」

 シュテフィンの前向き? な言葉にジュシュ同意する。


(この2人、ダッサいバカの癖にくっさいハードボイルドを気取るのよねぇ……)

その2人にアニーは内心呆れた。


「とりあえず寝ようぜ。ただでさえ寝不足なのに、2日連続徹夜は勘弁だぜ」

 食べ終わるとジョシュはそう言って助手席で毛布に包まった。数秒で寝息を立てていた。


「はやっ! じゃ、僕は運転席で寝るからアニーは後部座席でよろしく」


「え? いいの?」

アニーは1人だけマットレスで寝るのが心苦しかった


「僕らのたっぱでは頭と足に棚が当るんでね。それじゃお休み」

シュテフィンも気にするアニーを優しくフォローする。そして毛布を被って寝てしまった。


「2人ともありがと、おやすみ」

少し感激したアニーは目を少し潤ませてそういって毛布に包まった。

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