出撃

 

 アンリ吸血鬼達撃退の翌日の朝、アニーはシャワーを浴びて、髪を整えた。ジーンズにスニーカー、タートルネックのセーターに厚手のジャケットのいでたちに装備を背負う。女性専用詰め所から出て一路、湾岸事務所に向かった。


 北国のメイン州では既に冬の入り口に入り、ひんやりした潮風が徐々に身に染みてくる。

事務所のドアを開けるとコーヒーマグ片手のウォルコットがいつものように机に座っていた。


「おはよう、アニー」


「おはよう御座います。ウォルコットさん」

 挨拶が済むとウォルコットはコーヒーを入れるため席を立つ。


「ウォルコットさん、私……」

涙目になりながらアニーはバレットを横に置いて絶句した。


「アニー、やはり行くのですね」

全てを察していたウォルコットは微笑みと溜息混じりにそういった。


「我侭言って申し訳ありません。私、弟を探さないと……」


「それ以上言わなくていいですよ。私が同じ立場ならそうする。逆に付いて手伝って上げられないを恨めしく思いますよ」

優しく微笑むウォルコットをアニーは呆然と見つめた。その後ろから溜息交じりの突っ込みがウォルコットに入る。


「おい、ウォル、なんかカッコいい事言っているけど、そこ、自分ぢゃなくてだぞ?」

 ガチの突っ込みをしながらトラビスとオルトンが事務所に入ってきた。


「え? トラビスさんにオルトンさん?」


「昨日の時点でお前さんが単独でも動くのを俺たちゃ全員わかっていた。皆で一緒に付いて行って相手クソ野郎共をボッコボコにしてやりたいが此処の護衛がある。……すまん!」


「アニー、その子バレットは君の相棒なので大事にしてあげて下さいね? 威力も距離全ての性能も申し分ない子です。メンテはまめにね」

トラビスやオルトンは渋い顔でそう言った。本当は一緒に行って護りたかっただろう。その意志の名残を感じた。



「ありがとう、皆さん、マーティ必ずここへ連れて還ります!」

涙が止まらないアニーは頭を下げながらそう決意した。


「それと俺達が出れらない代わりに俺達推薦の志願兵2名付ける。……寝込み襲ってきたら撃って良いぞ?」

にやりと笑うトラビスに一抹の不安を覚えるアニーにウォルコットが声を掛ける。


「アニー、探索ついでにお願いがあります」


「なんですか?」

鼻をグズらせながらアニーが聞き返した。


「もし、内陸部で避難所があればうちに来るように誘導してください。志願兵に私達のメッセージ動画も渡してあります」


「え? 大丈夫ですか? ここもジリ貧なのに!」

流石にウォルコットもずっこける。その返答に苦笑しながら続けた。


「確かにジリ貧ですが……以前提案されたステの案を改良しましてね。海賊育成バッカニア作戦に入ろうかと……それで人手も要りますしね」


「なにそれ?」

 アニーが困惑する顔を見て、ウォルコットは自分のネーミングセンスの無さを自覚した。


 島々を跨ぐフェリー船を強襲陸揚艦代わりにして近隣の町、店舗の物資を奪う。その資材を使い島々で農耕して自給自足する。その案を聞いてアニーはさらに困惑した。


「え? 海賊行為?」

トラビス髭面の元海兵隊員は兎も角、大人しく、道義を大切にするオルトン元警官ウォルコットお役人は似合わない行為だと思った。


「まぁ、還って来た時のお楽しみだな」

髭面の中年海賊見習いのトラビスは笑った。


「とりあえず装備一式と備品とそれなりの訓練もしたチームが港に居るからいきますよ」

オルトンが優しくバレットケースを持つと、皆で港にアニーをエスコートする。


 ボートに待っていたのは予想通りの2名だった

「おい、豆軍曹! 本土戦場は厳しいぞ? 覚悟はいいか?!」


「アニ~、がんばろ~ね?」

ボートの上で両腕を組み、戦闘服姿のジョシュが踏ん反り返る。隣ではなよなよ~と手を振る同じく戦闘服のシュテフィンが居た。……


(アタシ、生きて帰って来られるんだろうか?)

漠然とした不安が幾重に取り巻くが……一念発起してボートに乗り込む。


「もー、……野郎共、オール持って傅け! 私を守護せよ!」

自棄のやんパチで強引に流れに乗る。


「「ア~ラホ~ラサッサー!」」

それどこの掛け声よ! と突っ込みをスルーして2人はオールを漕ぎ、スムーズに離岸する。


「ジョシュ! ステ! くれぐれも手を出すなよ! タマぁ無くすぞ‼」


「アニー、イラつくからってアホの2人に無駄弾を撃つなよ!」


「皆、無事に帰って来るんだよ‼」

港にローデスやダン、マニエルおばさん達が見送りに来た。


「うるせー! 手を出すかっ!」


「あれ? 僕の心配してくれないんですか~? !」


「お黙り‼ 撃つときゃ並べて1発で仕留めてやんよ! おばさん行ってきます!」

3人共に激励にらしい言葉を返す。冷風とともに、ボートは死臭渦巻く本土に向かって行った。


 その後姿を見送りながら苦虫を大量に噛み潰した顔でウォルコットは悔やむ。

「トラビス、私は悔しい。若い彼らを死地に追いやる事しか出来ないとは……」


「ウォル、俺やフランクでさえ一緒になって暴れてやろうと思うが……彼奴らの戻る所を確保してやらにゃならん。だが、此処が安全になれば、お前さんが止めても俺があいつ等を探しに行くぞ」


「ウォルさん、彼等の無事と健闘を祈るしか出来ないですよ。今は……」

裏腹に付き添ってやりたい気持ちでオルトンは二の腕を強く握り締めた。幹部達や島のみんなは彼等の背中を切なそうに見ていた。


 一行が港に到着する寸前にボートが1艇、桟橋に停泊していた。目を凝らすと腕に包帯巻いた男、キャッスルが待っていた。


「おはよう、キャッスルさん」



「お゛ばよ゛う゛、お゛ま゛え゛だぢでがげる゛の゛が?」


(アニーはこれが噂のキャッスルさんの地声がなりごえか……)

気を付けないと何言っているか判らない。と会話に集中した。


「ええ、マーティを探しに行くんです!」


「ぞう゛が……コホン……そこの若い元教会員!」


「ん? ! はいィ? !」

咳払いと喉を慣らした後、キャッスルはジョシュに対しごく普通の声で話し出した。3人が面食らう。


「眷属級を始末したのは見事だった。だが、まだまだ経験が足りん!」

キャッスルが腕を組んで一喝するが、ジョシュ達はまだ開いた口が塞がらない。


「んな? ! アホかい! 俺は新兵だっつーの! しかもこれが初陣だ!」

いきなりのまともな声での駄目出しに驚きながらもジョシュが突っ込む!


「マジか? ! 初陣で兜首か眷属斬り? !」

ジョシュの返答にキャッスルも愕然とする。その豹変の様子にシュテフィンがドン引きしながら尋ねる。


「あの……キャッスルさん? もしかして教会本職の方?」


「ああ、俺もだがね。今は引退してしがない漁師だ」


「なんでまともに喋れるのにだみ声で話すの?」

呆れたアニーが質問をぶつける。


「引退後の吸血鬼連中の報復から身を護る為さ、経歴や顔、声さえも変えないと連中は何処にいるかわからん」


「納得……」

 ジョシュは引退後の教会員の生活を全く聴いた事が無いのを思い出した。皆、痕跡を完全に消す。……死んだかどうかも判らないほど……。


「ジョシュといったか? お前が抜けた経緯は俺も聞いた。奴等お前の配属チームは糞外道だ。誤って殺めた人達への悔悟や贖罪の念が無いのは教会の本来の教えに反する。粛清に値し、始末は道義だ」

 多分、トラビスが話していたのを聞いたのだろう。真面目な顔をしてキャッスルは冷静に語った。


「そりゃ、どうも……けど俺は教会には戻りませんよ? もう沢山だ」


 神妙な顔でジョシュはそう告げた。静かに肯きキャッスルはそれで良かろうと返事をした。


「とりあえず何処へ行く?」

キャッスルが今後の予定を尋ねた。


「市内で準備整えたら南下して各避難所でコロニーの情報を捜索します」

ジョシュは目線でアニーの同意を得ながら話す。


「そか、妥当な線だ。郊外の南、ウエスト・ジェイのコンテナブロックに寄れ、俺が使ってた武器庫がある」

キャッスルが頷き、自分の武器庫の場所を教えた。


「対連中ヴァンパイア?」


「それ以外に何があるんだ? コンテナは真空保存してある。武器も未だに使えるはずだ。その他、弾薬や銀素材もある。それも持ってゆけ。コンテナはユニット9、パスコードは島のZIPコードだ」


「素材入手に困ってたからありがたく使わせて貰うぜ」

素直にジョシュは感謝した。


「気をつけていけ。お前らのボートはこの桟橋下にカバー被せて隠しておく。戻ってきたら使え、それと教会の動きもかなり活発になってきてる。お前らのバックアップケツ持ちがする。俺の部下弟子として登録しておく。俺から教会指令オーダーアドレスでコロニーの情報を送るから通るようにしておけ」

しかし、ジョシュはそれを聞いて顔色が変わった。教会に戻る気はないのだ。


「ああ、心配すんな。形式だけだ。事が済んだら戦死者登録するから問題ない」

それを察したキャッスルが破顔して後処理を提案する。


「了解、後は任せたぜ! 師匠!」

納得したジョシュはキャッスルに手を挙げる。


「おう、マーティを無事連れて帰ってこいよ! なんかあったら言って来い。危なくなったら海兵ゴリラとSWATの騎兵隊を連れてが来てやンよ」


 キャッスルは笑って手を上げて見送った。港に接岸するとジョシュはちと待ってと言って港の奥の建物に走り去っていった。依然隠しておいたSWAT専用車両、ピットブルVXを乗ってきた。


「よし、はやいとこ荷物を入れてくれ」

運転席から顔を出してジョシュが急かす。自分達の荷物を入れてアニー達が乗る。すぐに出発して市内に入り、ジョシュが今後の計画を話し出す。


「暫くはコイツが俺らの移動要塞仮住まいだ。連中だけならどうとでもなるが、数で押してくるZが相手だとこのままでは俺達も即お仲間になる」


「それで防御を高めると……?」

助手席に座り、話を聞いていたシュテフィンが意図を察した。


「正解、ただ防御だけでなく継戦能力を付け足すがな」

 そういって速やかにジョシュは車両をハロルド銃砲店に横付けする。


「アニーはZの見張り、ステは手伝いを頼む。余っている機材と充填機運ぶぜ。まだこの後、資材と車両の改造があるから急ぐぞ」

その後、3時間掛けて市内を回ることになるとはアニー達も知らなかった。


 夕暮れ、ポートランド市警の自動車整備工場に辿り着いた。オルトンから予め聞いて置いたのだ。一行は車を入れると工場内のシャッターを下ろす。


 隣の部屋は工作室と事務所になっていた。3人は室内を見て回り、室内をうろつくZを駆逐して安全を確保する。


 工場は倉庫に隣接してあった。広めの作業場は3台の車両が同時に整備出来た。施設内の自販機をバールで壊して食料と飲料を確保した。発電機と作業用コンプレッサーをつけて作業に入る。


 ジョシュは倉庫とピットブルから改造資材をシュテフィンと2人がかりで引っ張り出す。


「アニー、手袋とサングラス防護眼鏡して工作室のグラインダーで弾頭に薄く2本の筋を付けてくれ」


「え? 全部?」

ジョシュの注文に暇そうにしてたアニーがキョトンとした顔で聞き返す。


「45ACP、9ミリ、12.7ミリ全部1/3程度で良いよ」


「付けてどうするの?」

奇妙なことをやらせるので不思議に思ったアニーは尋ねる。


「銀コーティングした時の目印と銀の付着点にする。火花とグラインダーの歯に気をつけてな」


「わかった」

答えを聞き納得したアニーは黙々と作業に取り掛かった。焦る気持ちを抑えるかのように……。


 そうしてジョシュはシュテフィンと車両の改造に取り掛かった。SWAT専用車両であるピットブルVXは大概の銃火器の火力を防御できるようにしてある。その強固なフロントガラスに手を加える。

周辺に拾って来たH1ハマー用のバンパー・グリルガードに改良を加える。極細めに編み込んだ金網を張り付け、視界を保った防護アーマーを製作する。そしてその下に衝撃吸収材を取り付ける。これで叩き割られたり、引き剥がされにくくなった。


 厳重に運転席と助手席のドアごと溶接して出入は後部と屋根のハッチからにする。後方タイヤに防弾用鉄板を張り付けて多少の防護策を設けた。

それでタイヤやオイルにバッテリー、冷却水を新品に交換する。屋根の上にハッチの邪魔に成らないように盾代わりの予備タイヤを2本括り付ける。これで半年はメンテナンスの手間が省けた。


 3時間程度で車両改造を終わらせた。これ以上の騒音を防ぐため発電機と作業用のコンプレッサーを切った。後は電気ランタンを使い弾薬製造に取り掛かった。

ジョシュは私物のザックから黒い湯呑みの様な壷を取り出す。


「アニー、これ持ってて、バーナーで銀を溶かす」

壺をアニーに渡して、工具置き場からガスバーナーを持ってくる。


「なに? これで銀が溶けるの?」

え? っと驚くアニーに見ていた大学院生のシュテフィンが解説する。


「銀の融解温度は961.8度、工業用トーチ程度の火力があれば余裕で解けるんだよ」


「へぇ……」


「これに昨日、班長達と回って集めてきた銀製品を入れてっと」

ザックの奥に詰込んであった銀アクセサリーを溶解用坩堝るつぼに大量に入れてバーナーで焙る。暫くして銀が溶け始めた。


「あ、ホントに溶けた!」

坩堝を見ながらアニーは驚いた声を上げる。


「純度を気にしなければこの工程で溶け出すのさ」

黒鉛棒を片手にジョシュはドヤ顔で掻き混ぜる。そして完全に溶けた事を確かめた。


「さっきの弾頭の先に銀をつけよう。壷はそう簡単に冷えない炭化珪黒鉛製なので焦らずにトング使ってやってくれ」


 2人にトングを渡しながらジョシュは焦らず、ゆっくり、気をつけてと念を押した。暫くして外でかすかに唸り声が聞こえる。


「さっそく嗅ぎつけやがったか」


 耳を澄ませたジョシュはZと判断した。だが、それを無視して3人は作業に黙々と没頭する。

しばらくして3人がかりで3千発程度の銀コーティング弾頭が出来た。


「ふぅ……これどうするの?」

アニーは肩を回しながら気合を入れなおす。ジョシュに次の仕事を尋ねる。


「今度は充填作業だ。弾頭が冷えたら薬莢に無煙火薬ガンパウダーと雷管詰めて終わりさ」

溜息をつきながらジョシュは車両に据付けた作業台の充填機に向かい椅子に腰掛ける。


「ん? ちょっと! これどうなっているの?」

 アニーが驚くのも無理はない。


 ピットブルVXはアニーがグラインダーと格闘している内に改装が終わっていた。かなりの防護性とそれなりの居住性、銃の整備作業が出来る構造になっていた。弾薬充填機つき作業台が設置され、簡単な工作が可能になった。反対側の椅子にクッション代わりのマットレスが張られる。棚には常備薬と工具等、この短時間では上出来の部類だった。


「ジョシュさんや、冷蔵庫が無いのが痛いな」

 作業を手伝ってオイルまみれの顔でシュテフィンが笑った。


「長丁場になるのなら考えるさ」

充填機のレバーを引きながらぶっきらぼうにジョシュはそう答えた。


「そう……なるのかな?」

俯きながらアニーは呟いた。情報が無さ過ぎて当てのない旅になるのだ。


「多分、大丈夫でしょ~」

慌ててシュテフィンが取り繕うがジョシュが冷静に指摘する。


「気休めはやめとけ、ピットブル持ってくるとき連中が乗ってきた車を調べた。みなバラバラだ。ナンバーは最長でニュージャージーから来てる。最悪そこら辺までいかにゃならん」


「マジで? !」

その情報にシュテフィンどころかアニーも目を向いて驚く。


「俺が教会の養成施設に居た時、東海岸の連中のねぐら、連中はコロニーと言うんだが、最大級なのがニューヨークとボストンの2つ、後は大都市圏に点在していると覚えさせられた」


「マーティはその周辺どこかに?」

凹みそうな顔でアニーが尋ねる。だが、行かねばならない。


「その公算が大きいな。アップルドア襲撃からの時間差と今回の動き、それと被害者を陸路で運んだと言う点からね」

ジョシュは冷静に分析する。


「とりあえずは避難所とか目撃者や被害報告を聞いて手がかりを集めなきゃ」

特大のオイル缶に腰掛けシュテフィンが考えながら呟く。


「それじゃ明日から移動を開始するから、お前ら先に寝ててくれ。俺は弾込めしながら見張りするわ」

充填機でせっせと弾込めしながらジョシュは2人に休息を勧めた。


「えぇ? でも……」


 ジョシュ1人だけ働かすのは悪いと思い、2人は顔を見合わせる。ジョシュはレバーを止めてシビアな現実と皮肉を口にした。


「今の内に言っとくけど、安心して寝られるのは暫く無いと思ってくれ。大量のZが取り囲んで車体をバンバン揺らす所で寝られるか? 俺はに寝かせてもらうがな」

そうウインクするとジュシュは弾込めに集中した。2人はゴメンと言うと運転席と助手席に座り毛布に包まり眠りに付いた。


 朝……アニーは気持ちがいい日差しでお目覚めとはいかなかった。寝不足で腫れた目のジョシュに起こされた。


「もうそんな時間?」


「今、隙間から外を見たが結構、集まって来てるぜ。まったくヤレヤレだよ。あんだけ皆で苦労して必死こいて排除したのにな……」

毛布に包まり、夢見心地のシュテフィンを叩き起こす。半ば呆れるようにジョシュは告げた。


 先日、皆でマックワース島に大量にこの近辺のZを封じ込めた。しかし、この数日の大騒音や戦闘行為ドンパチは他のエリア、地区からZを呼び寄せる効果をもたらした。建物周辺にはかなり増えて来ていた。


 工場内のシンクで顔を洗い、歯を磨きながら3人は今後の方針を協議する


「出だしから強行突破しちゃう?」

 もはやお約束のシュテフィンの強攻策に2人は突っ込みを入れた。しかし、出て行くことには賛成した。


「とりあえず、アニーは運転手、俺がシャッターの操作、ステは後部ドアで俺を引き上げ役でOK?」

手短にジョシュが役割分担を決めるとシュテフィンが待ったをかけた。


「いやいや待て、ここは俺が運転手で……ダメ? ……お呼びでない?」

交互にジョシュ、アニーの拒否の表情を見て落ち込む。


「ここは地理にも明るいアニーさん一択だろ~?」

ジョシュがアニーを指名した理由を上げるが、その本人は困った事を呟く。


「あら? 私、キャッスルさんのコンテナの場所わかんないわよ?」


「マジか、調べる……」


 アニーの発言を聞き、ジョシュはナビの地図で調べた。するとウエストジェイに1軒だけ【パンサのコンテナボックス】が有った。


「ここか?」


「さあねぇ? とりあえず行くしかないね」

とりあえず3人はそこに行く事にして最終準備を始めた。使えそうな物は持っていく。


 取引に使えそうな物なら尚更だった。……オイル缶、トイレットペーパー、バール等の工具類を屋根に積みこむ。残りのオイルをシャッターの下からタイヤに掛からない範囲に流す。ついでにシャッター内側にも撒く。


「さて、出掛けるぜ。とっととマーティ連れ戻して還ろうぜ」


「うん」


「あいよ」

ジョシュはそう皆に声を掛けてから配置に付くように指示した。


「さて、どうなりますやら……」

足元に流したオイルが付かないように缶の上を伝い歩く。入口近くのシャッターの開閉スイッチに触れた。

 

「アニー! エンジン掛けてくれ! 行くぞ!」

そう声を掛けてスイッチを上昇に入れ、その場から離れた。シャッターが少しずつ上がる。

その途端、狭い隙間からスィーッとZが腹ばいで入ってきた。オイルが裏目に出たのだ!


「ぶっ? ! マジか!」

それに気がつき、驚いたジョシュが起き上がろうとするZの背骨へ飛び降りた。それも踵に全体重をかけ、圧し折る。


「グェ!」


 着地と同時にZが呻くとその頭部を踏み潰す。さらにそこから飛んで車両の後ろに辿り着く。

待ち構えていたシュテフィンが伸ばした腕を掴み、ジョシュを引き上げドアを閉じた。


「アニー! オッケー!」

後部ドアを閉めて慌ててシュテフィンが運転席のアニーに声を掛ける。だが、アニーの絶叫が返って来た。


「まだ、シャッターがまだ完全に開いてない! ぶっかっちゃう!」

シャッターはまだ40センチも開いてなかった。すでに腹ばいのZが這いずり入って来る。


「アニー! ギリギリまでバックしろ!」


 こういう荒事が得意なシュテフィンが助手席に座るとそう指示する。車が2メーターほどの距離を後退し、工具棚にぶつかる。


 その頃には120センチほど開いていたがまだ50センチほど足りない。最もそこまで開くとZが大量に入ってきた。


「シャッターをブチ破って出た方が良かったろ?」

シュテフィンがドヤ顔で聞いてくる。

「アホ言ってろ。上から銃撃して時間稼ぐ」

 それに突っ込みいれながらジョシュは屋根のハッチに手を掛けた。

するとシュテフィンがZとガラス越しに対峙する恐怖と戦うアニーの肩を優しく叩く。


「アニー、荒っぽくなるから運転手代わるよ」


「え? 良いの?」


 後ろのジョシュに聞くと渋々ながら頷いた。困惑しながらアニーは嬉々とするシュテフィンに運転手を代わる。


「おい、大丈夫か?」

その状態に不安を感じながらジョシュは声を小さくする。シュテフィンはふっと微笑み、助手席に座れと指示を出す。


 まだ、シャッター全開まであと10センチ、既に目の前も周囲もZだらけで車体を一斉に叩き、揺すりはじめた。ジョシュは助手席に座り金網越しにZと対面する。


 だがガラスには強固に取り付けられた金網フロントガードと衝撃吸収材がその衝撃から余裕で車体を護っていた。その風景を見ながらシュテフィンがジョシュに向かいしみじみと実感して言う。


「なぁ、ジョシュ、防護性能上げといてよかったな……」

軋む事もなくバンバンと叩かれても軋み音もない防護性にシュテフィンは同意を求めた。


「ああ、バンパーガードを無理して着けてよかったぜ……」

引っ掛かれても極細めの金網では指先が掛からない。それを見てジョシュも同意する。


「ちょっと! マジで大丈夫!?」

2人は顔を見合わせ、へへっと笑い合うとアニーが心配して声を掛けてくる。


「さて、行きますか?」


「オーライ、派手にブチかませ!」

2人は前を向いて同時に叫ぶ。シャッターは既に全開近い。


「「アニー! しっかりつかまっとけよ‼‼」」

アニーは前を向き、保持用のベルトにしがみ付き、歯を食いしばった。















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