第11話 とりあえず、今の状況が分かりません。(その1)

 「あざとい」ってどういう意味だろうと思って調べてみたら「思慮が浅い。あさはかである。子供っぽい」って出てきた。うーん、思ってたのとちょっと違うかな。でも……


あざとすぎるよっ、グィネヴィア!!!!!


 なになになに、国中のお嬢様達がこぞって何年も前から楽しみにしていて、ここ数日は興奮してろくに眠れなくて、ちょっと無理してでも精一杯のお洒落をして、(もしかして王子様の目にとまったらどうしよー!!!)なんて儚すぎる期待に胸をときめかせながら、朝も早よからお城のまわりを不審者みたいにうろうろしてたっていう一生に一度の機会に、遅刻してくるだとぉ! 

 しかもしかも、当の王子に名前まで覚えられてて、「姫」なんて親し気に呼ばれて、「なに遅れてんだよー、お前のために舞踏会開いたのにさぁ」的なこと言われて、もう夜もとっぷり更けているってのに「ごめん、寝坊しちゃった」って、昼寝!? それとも夜寝なの!? 

 皆お城に到着するまでにたいがい疲れ果ててて、折角の気張ったお洒落もちょっとへにゃってなっちゃってて、靴擦れとかすげー痛いのに、近所の自宅から走ってきました的なていで、着こなしがいかにも難しそうな、ほんとに綺麗な子じゃなきゃ逆に服に着られるっていうか的なレモンイエローのサテンドレスを身に着けて、汗ひとつかかずに爽やかに現れるって、お前、いくらなんでもそれは……


「最高すぎる……。」


 思っていたことが声になっていたらしい。私が縮こまっていた柱の前に立っていたお嬢様がぎょっとしてこちらを見た。ベールが顔を隠しているのをいいことに、私は知らんぷりをする。ちょっと興奮しすぎた。危ない危ない。


 私は、素早く深呼吸をして、「好きだ―っ」と叫びたい気持ちを、叫ばなくても耐えられるくらいに落ち着かせた(誰もいないところにいったら10回くらい叫ぶつもりだ)。そして、ドキドキする胸のあたりをぎゅっと握りしめながら、改めて柱から身を乗り出し、グィネヴィアの方を盗み見た。


って、なんでこっち見てんねんっ!


 先ほどまで赤い絨毯のこちらとあちらで、誰もが嫉妬してハンカチを噛み千切りたくなるようなやりとりを王子との間でしていたグィネヴィアは、今は、まっすぐ私の方を見ていた。私と目があうと(というかベール越しなので、目が合ったかどうか彼女は分からないはずだが)、グィネヴィアの顔がぱあっと輝く。そして、赤い絨毯の先にいる王子でなく、広間の隅の壁と柱の間にいる私目がけて、すごい勢いで向かってきた。


(わわわ、来るな来るな。こっちじゃない、王子の方を見ろっ、グィン!)


 私は心中で叫ぶ。ちらりと王子の方をみると、なんと、パーシヴァルもあの立派な椅子から離れ、こちらにずんずん向かっているではないか。


 ん? 私、挟み撃ちにされてる?


 ……なわけないか。私は、自分の額をぺちりと打った。グィネヴィアが私の方に向かって動いているので、王子がグィネヴィアを追って、その行く先である私にショートカットしているのだ。三角形の二つの角にいたグィネヴィアとパーシヴァルが、残る角の上に立っている私目がけて三角形のニ辺の上を動いているような感じだ。


 なにはともあれ、悪役令嬢わたしが色々働くまでもなく、王子はグィネヴィアのことをすでに知っていて、どうやら憎からず思っているらしいし、逆もまたしかり、だ。私の出る幕はない、となれば……


逃げちゃおうっと。


私は広間の入り口とは反対方向、つまり庭園の方向へダッシュした。




 






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