ルーシェ①

皆さんお久しぶりです!


生存報告を兼ねた最新話ですw


就活やら卒業制作やらで今後も不定期投稿になりますが、気長に待ってくださると幸いです!



本文


♢ルーシェ


「はぁ、はぁ……ここまでの被害は?」

「はっ! 負傷者148名、死傷者は居ません!」

「そうか」


 黒い怪物を黒服の青年に託し、撤退をし始めてから暫く、道中、道を塞ぐかの様に襲いかかって来る魔物を討伐しながらも何とかシェルターまで辿り着くことができた。


 私がシェルターの中に入ると、それに続く様に騎士達も中へと入って来る。

 帝城の広間くらいある部屋の中にはすでに武装した人が何人かおり、その身なりからして恐らく冒険者であろうその者達もまた、私が率いて来た騎士たちと同様に手酷く怪我を負っていた。


 そんな彼等を尻目に私は、騎士達に指示を出す。


「回復魔術を使える者、それと回復薬に余裕がある者は直ぐに負傷者の手当てを!」


 私の指示のもと、騎士達は己のすべき役目を果たすべく、其々 行動を始める。

 その様子を見届けた後に私は、ひとり部屋の隅で腰を下ろし一息つく。


「はぁ〜……」


 呼吸を整え、落ち着きを取り戻す。するとそこに追い討ちをかける様に聞こえて来る負傷者達の苦痛の叫び、そしてそれと共に目の前に広がるのは地獄の様な光景――今にでもその命の灯火が消えてしまいそうなもの達の数と言えば如何程になるだろうか。


 死傷者が出なかったからと言ってそれを正直に喜べない状況であるのは、火を見るよりも明らかだ。


 どれ程夢であって欲しいと思っても耳元に突きつけられる周囲の苦叫がそれを許さまじと訴えてかけている様で、私はその地獄の様な現実から目を逸らす様にして膝を抱えて顔を埋める。


 暗闇の中、思い浮かべるのは一人の青年の事――アルスと名乗ったその青年の容姿はとてもあの黒い怪物の一撃を受け止めたとは思えない位の細身であり、私が幼い頃、お母様に読んでもらった本に登場する屈強な騎士とは余りにもかけ離れていた。

 しかし窮地に颯爽と現れたその様は正に物語の騎士のそれであった。

 そしてそれは、幼い頃に憧れ、夢見、大人になって叶わないものだと諦めていた理想が叶った瞬間でもあった。


 突然の出来事に驚いたと言うのも勿論あるが、あの時ばかりは今までに感じた事が無い程の胸の高鳴りを覚えたのだった。


「……」


 きっと彼は今も地上であの怪物と戦っている。そう思うと不安がどんどん募っていく。

 勿論、「大丈夫」だと言った彼の言葉を信じていないわけではないが、だからと言って心配や不安が全くないわけではない。

 何せ相手は災害級、本来なら一国が総力をあげてようやく相手できると言われている、今では文献などにしか詳しい詳細が記されていない、謂わば伝説とも呼べる存在なのだから。

 それを彼アルス殿は1人で相手をしている。

 無論、彼が負けるとは微塵も思ってはいないが、到底無傷で済むと言った希望的観測を抱くことは出来ない。

 それ故に、心許ない気持ちになるのは無理もない話ではないだろうか。


 そんな思いを嘲笑うかの様にシェルター内の重苦しい空気が私を煽り立てている様で、その度に何も為せなかった自分の無力さを痛感する。


 ただ座って待つだけの時間がこんなにも長く苦しいと感じてしまうのは生まれて初めてだ。


 早くこの時間の拘束から解放されたい――そんな時だった――。


 周囲の音で聞こえづらいが微かに聞こえた扉が開く音に、私は反射的に顔を上げるとそこに居たのは――


「っ!? アルス殿!」

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