それからどしたの

 リリムとロッソ達と合流した後に、ロッソが地下シェルターとやらに行かないかと提案して来た。

 地下シェルターはこの街にとっての避難所であるらしく、なんでも、そこに知り合いが避難いているかもしれないとの事だ。

 恐らくその知り合いとやらは、彼等が街中で叫びながら名指ししていた「シスター」なる者の事だろう。そしてそれは、この街に入った時に彼等が見せたあの度を越した動揺ぶりの原因であるのは間違いないだろう。

 街を前にした時から彼等はその「シスター」なる者の安否が気になって仕方がないのだろう。そして、それ故の提案であるのは、此処まで共に行動し、その様子を見てきた俺とリリムが気付かない訳がない。寧ろ、俺らの事は置いて先に行けば良いものを、こんな時でさえ気にかけて声を掛けてくれるその様に、少し好感を持ったくらいだ。


 取り敢えず断る理由もないので俺はその提案に乗り、ロッソの案内の下、彼等と共に一先ずこの街の住人が避難しているであろう地下シェルターに向かう事にした。


 キマイラの死骸に関しては、身体がデカすぎる故に処理が面倒だと感じ、取り敢えず放置する事にした。

 幸い此処は外では無く、街の中である為、死骸から溢れる血の匂いを嗅ぎつけて魔物がやって来るなんて事は無いだろう。それに見たところ、《魔物の大進行スタンピード》によりこの街に襲撃して来た他の魔物達も、冒険者や騎士団、そしてリリム達の尽力のおかげで全て討伐されており、尚更問題ないだろう。

 ただ、その死骸の数が多すぎて、そこから出る血などの死臭が辺りに充満しており、息をする度に其れが鼻から侵入して来て、鼻が曲がりそうな程キツい。

 恐らくこの臭いが直ぐに消えることは無いだろう。そして、しばらくこの街はこの死の悪臭が蔓延する中での生活を強いられる事になるだろうが、まぁ、頑張れとしか言いようがない。後は、キツいと思ったら無理に外へは出ずに自粛する事をお勧めするよ。


「それにしても、本当にあの怪物を倒すとはなぁ」

「なんだ、疑ってたのか?」

「いや、そうじゃ無いけどさ、だってアレどう見ても災害級だったぜ? それを一人で相手するなんて正直、現実味が無さすぎるって言うか……うん、凄すぎって事だ!」

「「「それな!」」」

「あとリリムちゃんも凄かったよね!」

「ああ、確かにあそこまで強いとは思わなかったぜ」

「驚いた……」

「そうね。正直コレ、私たち要らないんじゃない? って思ったわ」

「「「それな!」」」

「あはは、良かったなリリム、お前褒められてるぞ」

「うむ! 妾と主人ならばアレくらい出来て当然なのだ!」

「「「「おぉ〜!」」」」

「アレを前にそこまでの自信があったとは、やっぱスゲェなお前ら」

「ねえねえ、もしかしたら私たち今、伝説の1ページ目を目撃しちゃたんじゃない!?」

「……確かに、後でサインでも貰おうかしら」


 ロッソ達のその称賛ぶりにリリムは、まるで後方腕組みおじさんかの如く、頷きながら満足そうにその会話を聞き耳を立てている。と言うかアルジェンドさんよ、君ちょっとキャラ壊れかけてない? 君はクールな感じでやって行くんじゃないの? いや、別に一言もそう言われても聞いてもないけど。でも人の人物像ってのは自分でなく他人が決める物だと、俺はそう思っている。だから、勝手にそう言うイメージだと決めつけてた俺にも非があるかもしれないけどさ……なにちゃっかりサイン貰おうとしてるの? 俺、別に芸能人でも何でもないんだけど……でも、まぁあげるけどさ! 何なら「アルジェンドへ」って名前付きであげちゃうけどね! おまけに握手付きで! 


 ……とまぁ、そんな感じで俺は彼等の様子に若干引きながらも歩いていく事暫く――俺達はようやく目的地である地下シェルターに到着した。

 と言ってもまだ中には入っておらず、今いるのはその扉の前。

 しかし扉と言っても、良くある壁に設置されている物ではなく、どちらかと言うと、日本とか、地球で良く見るマンホールの様に地面に設置されている。ただ、それと違うのは形が円形ではなく正方形、それも大きさが4倍近くある。そして、その素材は鉄で出来ており、かなり厳重に設置されていて開けるのに最低でも二人は必要だろうな……と思ってたら何とスライド式だった。正直これには驚いたと言うより、若干の変な期待があった分、その結果に拍子抜けしてしまった――"あ、それスライド式なんですね"と――。





 扉を潜り、地下シェルターへと向かう階段を降りて行く。


 地下通路の薄暗い雰囲気に呑まれてか、終始だれも口を開く事もなく、唯、コツコツと地面を叩きながら階段を降りる音だけが辺りに響いている。


 その階段は安全面を考慮してか急斜面でなく、緩やか。それでいて、壁には手摺りも付いており、かなりバリアフリー化されている。それに加えて距離自体も左程長くなく、降り始めてから一刻も待たずして終わりを迎えた。そしてその先に出迎えていた今度は普通の扉を、先陣をきっていたロッソが開き、いよいよ地下シェルターの中へと入った。



 地下シェルターの中はそれはもう広い部屋であった。

 どのくらい広いのか、その正確な数字は分からないが、例えるなら学校の体育館の半分くらいの広さはあると言って良いだろう。


 その広い部屋には避難してきた街の住人で一杯であった。

 大人数である故に生じる騒音の所為なのか、俺たちが中に入ってきた事に気付いたのは、ほんの僅かな人数であった。

 するとその中の一人がこちらに向かって駆けてきた。

 近づいてくる程にその者の容姿がはっきりとする。

 その者は修道服に身を包んだ妙齢の女性であった。

 それは如何にも「シスター」と言った感じで、彼女こそがロッソ達の探し人であるのは火を見るよりも明らかだった。

 その証拠にロッソ達のどこか張り詰めていた表情は崩れ去り安堵へと変わっていた。


 それから無事に再会を果たした彼等は、まるでその存在を、温もりを確かめるかの様に強く抱擁を交わし合い、それを祝福するかの様に地下シェルターの湿気の籠った嫌な空気も、その時だけは、暖かく、そして優しく彼等を包み込むのであった。

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