帰省④
家族と再会を果たしたその日の夜は、もはや時刻が深夜をまわっている事すら忘れてしまう程に会話に身を興じていた。
それは実に二年ぶりの会話。
互いに話したい事はいっぱいある。特に両親の方はその想いが強いらしく、家の中に入り席に座ってからは、「今まで何もしていたんだ?」「どこに行っていたんだ?」「何故連絡をよこさなかった!?」とずっと質問攻めにあっていた。
それらに対して俺は最初に決めていたように言える範囲で全てを話した。
その後は、約束通りリリムの事を両親に紹介した。
最初こそ二人とも口をあんぐりと開けながら驚き固まっていたが、リリムの方から積極的に話し掛けているうちに彼女の事を受け入れ、気付いたら自分たちの娘のように可愛がり始めていた。
そして翌日。
現在俺は、父さんと一緒に家の裏庭に来ていた。
本来ならロッソたちと王都に向けて街を出ていた筈だが、両親――特に母さんからもう少し家に居てもいいんじゃないかと強く懇願されて、二年も音沙汰無しにしていた自分としてはそれを否定することが出来ず、こちらが折れることとなり、両親が落ち着くまで――最低でも一週間は街を出る事なく家に居ることとなった。
その事をロッソたちに伝えところ、ならば自分達もそれまでの間、街を回ったりして疲れを癒しながら待ってくれるとの事で、俺はその言葉に甘えることにして、暫くな間、家族と過ごすことにした。
「アルス、これ持て」
そう言って父さんは、木剣を渡して来た。
刃は至る所が欠けていて、持ち手部分には血で出来た黒いシミが点々と付着している使い尽くされた古びた木剣。
これは俺が幼い頃から父さんから剣術の稽古で打ち合いなどをする際にずっと使用して続けていたものだ。
これを俺に渡して来たということはつまり―――
「やるのか?」
「あぁ、昨日の話を聞く限り、お前が見た目だけじゃなく実力も成長したのはなんとなく理解した。纏う雰囲気も変わったしな。だがやはりそれが虚勢じゃないかこの身で確かめたくなってな。あと、俺のリハビリも兼ねてな。で、どうだ?」
「そうだな…」
思えば俺は父さんに一度も勝てたことがない。
当然と言えば当然だ。何せ相手は元冒険者。引退後もその実力を買われて街の衛兵を務めている存在だ。
しかし今の俺ならどうだろうか―――いや――どうだろうかなんてそんなの愚問だな。
今の俺なら絶対に勝てる。
「……俺、まだ父さんに勝ったこと一度もないよな」
「そうだな…」
「今まではそれは仕方がないと思っていた。何せ相手は元冒険者で今は衛兵として活躍している人だ。
でもそんな人だからこそ俺は憧れて、同じくらい強くなりたいと思ってその背中を追い続けていた。
あの頃はその背中が大きな壁のように感じた。
でも――今は違う。一心不乱に剣を振るっていたあの頃には無かった戦う術を身に付けた。
壁だと感じていたものが今は、あの頃より小さく感じるようになった。
だからさ――過去の清算をつけるとか大それた意味じゃないんだけど、背中を追い続けてきた者として此処で一度、その相手に己の力を示す事は新たな一歩を踏み出すのに必要な事なんじゃないかって思うんだ。
つまりなにが言いたいのかというと―――」
俺は手に持つ木剣の剣先を父さんに向けて宣言する。
「今日ここで俺は父さんを超える!」
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