青い服と日常と

 独りで食事をしていると、横に青い服がチラつく事がある。


 それは決して、毎回という訳ではない。


 本当にランダムに、急に現れるのである。


 例えば、昼にコンビニのパンを食べているとする。すると、フッと視界の端に誰かの服が映るのだ。


 それは薄青色の服で、何となく女性物の様に思えるのだが、確かな事は判らない。


 その服と自分との距離はとても近い。


 だが、青い服の見える方に顔を向けても、そこには誰も居ないのである。 


 いつからこの現象が始まったのかは、定かではない。


 大学生になるまではこんな事はなかった。


 さりとて、大学に入学した直後から始まったとも言い切れない。


 それは本当に、自然に、私の日常の中に入り込んで来た違和感としか言いようのない物だった。気付いたら、発生していた、そんな感じだ。


 友人に相談した事はない。


 食事をしている時に、時折、視界に青い服が映るだけなのだ。


 実害は全くないと言って良い。


 ただ、深入りはしない様にしている。例えば、タイミングを見計らって、青い服の主の姿を見定めようとしたり、手で青い服に触れて見ようとしたりはしない。


 そうすれば、何処となく危うい均衡を保っている何かが、簡単に壊れてしまう気がするのだ。

 

 それは、きっと自分の日常を壊してしまうに違いない、という確信が私にはある。


 勿論、根拠なんてないのだが。


 君子危うきに近寄らず。


 そんな諺もある。何もわざわざ、自分の日常を壊す必要もない。


 私は、その点についてはちゃんとわきまえているのだ。


 だから。

 

 私は今日も、食事をしながら視界の端に青い服を捉えている。


 だが、何もしない。


 そのまま、食事をし続ける。


 青い服の主は、私の日常に上手く入り込んで、絶妙な緊張関係を構築した。


 ならば、私はその緊張関係をも日常として取り込んでしまおう。


 青い服が真横に見える、そんな風景を……。 

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