Ep.67 異世界でも萌えのポイントは一緒らしい

「な、なんでライトがここに……?」


「それはこっちの台詞だ。ここは、校内じゃ常に人目があって気が休まらないから敢えて従者達しか利用しないこのエリアに来てようやく見つけた行きつけの店なんだよ。で、その店で『今日はやたら危なっかしい新人が居るな』と思って見てたらその店員がお前だったときの俺の気持ちがわかるか!?何がどうしてこうなったんだ、説明してみろ!」


「あ、あはは、いやぁ、正直私にも何がなにやら……」


 壁際に私を追い込んだまま捲し立てるライトの話的に、つまりこのカフェに最近よく来ると言う常連のイケメンさんはライトで、自分の所にばっか来る他のウェイトレスと違って忙しなく働いてるのが居るなと思って観察してみたら思いっきり知り合い(私)だったので慌てて追いかけてきたと、そう言うことらしい。

 ちらっと見上げた先には目が全く笑ってないライトの笑顔。わー、怒ってらっしゃるーー!

 壁際に押さえ込まれたまま、頭の中で“逃げる”、“言い訳する”、“いっそ(アルバイトの)仲間にする”の三枚のカードがぐるぐると回る。けど実質選択肢はひとつだ。

 掴まれた手首は痛くはないけど、振りほどこうとしてもびくともしない絶妙な力加減でしっかり拘束されている。つまり逃げられないし、まず普通の王子様はカフェのアルバイトなんて余程の理由が無いとやるわけがない。つまり、全力で言い訳するしかない!と腹を括ってキッとライトを見上げる。


「でも違うんだよ、これにはちゃんと訳が!」


「ほう……、じゃあ話してみな」


「元々はただの人違いで、新しいスタッフになる筈だった子に間違われて連れて来られちゃったの。でも、話を聞いてみたら店長さんが『最近来るようになったイケメンの常連効果でお店が混みすぎちゃって困ってる』って言うから気の毒だなと思って!」


「そんな常連居たか……?でも、人助けの為ならまぁ……」


 あ、この人その“イケメンの常連”が自分だってわかってない!意外と鈍いのかな、メインヒーロー補正?

 まぁそこはいい、ライトが怯んでる今の内に勢いで押しきる!!


「そう、人助けなの!あと、私達って普段は給仕してもらってばかりでしょ?だから、する側になるのはいい勉強にもなるかと思って!」


「うーん、そうだな……。いや、でもその勉強役に立つことあるか……?」


 私の勢いに押されて一瞬納得しかけたライトだけど、まだ冷静な部分があるのか悩んでいる感じだ。でも諦めない、押しきります!!


「それにほら!ここの制服可愛いからせっかくだしもう少し着てたくて!私は可愛い制服が着れて社会勉強出来て楽しいし、お店は新しいスタッフが増えて助かるならお互い得でしょ?」


「まぁ、確かにそりゃそうかもしれないが……」


 完全に毒気が抜かれたのか、私を押さえ込んでいたライトの手の力が少し緩んだ。でも、私の口は止まらない。


「でしょ?それに丸1日ここで働いたら、あわよくば噂のイケメンさんの顔が見られるかなと思って!!」


 って、でも結局そのイケメンさんはライトだったんだから私毎日その顔拝んでるんだよね。冷静に考えてみるとすごい贅沢だわ、ありがとうございます。なんて思っていたらそ、私の手首を押さえるライトの力が急に強くなった。


「らっ、ライト、急にどうしたの?痛いよ……っ、ー!?」


 ギリッと鳴るほど痛む手首に顔をしかめながら、何をするのだと抗議の意味を込めてライトを見上げて絶句した。さっきまでより目が据わってる!!え、なんで?怒らせるようなこと言ったっけ……!?


「ら、ライト、何か怒ってる……?」


「いいや?全然。でももう社会勉強は終わりだ、帰るぞ」


 嘘だ!!だってさっきよりワントーン声低いもん!!


「ま、待ってよ!まだお仕事中だしそんな無責任なこと出来ないわ!!」


 私の手をいつもより乱暴な仕草で掴んだままお店から離れようと歩き出したライトの腕を思い切り引っ張って、なんとか足止めしながら退路を探す。と、タイミングよくがちゃりと店の裏口の扉が開いた。


「ちょっとぉ新入りちゃん、フロントこみ合ってるわよ~?早く仕事に戻……っ、あらぁ」


 ひょっこり顔を出した店長が、端から見ると手を繋いで何やら揉めている修羅場状態の私とライトの姿を見てそっと扉を閉めた。待って店長さん、私達そんなんじゃないですから!!変な気を使わないで!!!

 と心の中で叫んでいたら、再び裏口の扉が開いた。今度はさっきと違ってかなり勢いよく。その中から、今度は高揚した顔でウェイター用の制服を持った店長が現れる。


「もうヤダァ新入りちゃんたら!この美男子と知り合いだったなら早く言ってくれたら良かったじゃないの!!ねぇ貴方、貴方もよければうちで働いてみない?お客様の美男子より、店員の美男子ウェイターのほうが更に集客効果あると思うの!!なにより貴方のその抜群の顔立ちと絶妙に引き締まった身体なら絶対この服似合うわ!!さぁ、早く着替えてちょうだい!!」


「えっ!?いや、ちょっと待ってください!俺はあくまで客として来ていただけで働く気なんか無いですから!」


「おぉ、さすが店長さん。自分の欲望に忠実……!」


「お前も感心してないで助けてくれよ!てか何この人、男!?それとも女!!?」


「どちらでもいいじゃないの、そんな些細なこと。逃げようとしても無駄よ、さぁ観念なさい……!」


 ジリジリと迫り来る店長から逃げて、今度はライトが壁を背に逃げ道を失う。


「するわけないでしょ!フローラ、こっち来い!逃げ……っ、いや、帰るぞ!」


「ちょっとお姉さーん、料理まだー?」


「ーっ!はーい、ただいま!」


「あっ、こら、帰るって言ってるのに!!」


 ライトが店長に捕まってる間に、これ幸いとフロントに戻った私は、再び1日だけのアルバイトに勤しむことに専念した。




「さぁ、新入りちゃんは仕事に戻ったわよ。貴方あの子の知り合いでしょう?ならいいじゃないの、1日くらい働いてくれたって!」


 ちゃっかり逃げたフローラの姿を穴があきそうな程にじっと見つめているライトに、尚も店長が制服を押し付ける。それをはね除けて、ライトは叫んだ。


「いややりませんから!俺、正直給仕はするよりされる方が専門ですし!」


「いいじゃなーい!そんなこと言わずに、ねっ!」


「ねえねえお姉さん、仕事何時に終わる?近くに良いレストランあるからさ、終わったら食事でもどう?」


「あ、あはは、ごめんなさい……」


 だからやらないって!と、更にそう断ろうとしたライトの耳に、明らかな下心を含む男の声が届いた。そちらに視線を向けると、フローラがまた見知らぬ男にちょっかいをかけられている。

 何を考えるより早く、店長の手からウェイターの制服を奪い取った。


「……やっぱりやります。着替える場所は中ですか?」


「え、えぇ……入ってすぐ右よ」


 『ありがとうございます』と短く言い残して足並み荒くライトの後ろ姿が消える。あからさまに苛立ったその様子に、思わずキュンとしてしまう店長が鼻息荒く悶える。


「やっだぁ、ヤキモチ!?ヤキモチよね!?あの子が軽くナンパされてるのを見ただけで一瞬で自分も一緒に働く気になっちゃうくらいあの子が心配で仕方ないのね!?でもまだ無自覚なのがまた美味しいわ!若いっていいわよねぇ……!」


「いいからくねくねしてないで兄貴も働け!!」


 それを見送った店長は、一人鼻息荒く萌えに悶えるのだった。しかしその店長の頭に、弟から飛んできたトレーが直撃したのはそのわずか3秒後の事だったと言う。






 店長さんがどう説得したか知らないけど、いつの間にかライトもウェイター姿で客席に出てきていた。いつもは下ろしている肩くらいまでの金髪を後ろでひとくくりに結んでるのがまた新鮮だし、仕事は私より呑み込みが早い。むしろ、いつの間にか私の方が、つまずいたところを然り気無く支えて貰ったり、落としかけたグラスを受け止めて貰ったりとフォローされている。

情けないやら申し訳ないやら……!いや、でも負けない!と必死に働いてる内に、気づけば寮の門限の一時間前。でも未だに店は激混みで、私たちは未だにカフェでコーヒーやケーキやパフェを配りに右往左往していた。ひーっ、流石に門限に帰れないのは不味いよーっ!と、ライトと視線を合わせたその時だ、地面から少し高くなってるテラス席の下……つまり、お買い物通りの方でバサバサっとなにかが落ちる音がした。

 なんだろう?と振り向くより早く、私とライトの手が誰かの手に掴まれる。顔をあげると、プルプルと肩を震わせるフリードさんが立っていた。


「ま、待つんだフリード、これには訳が……!」


「い、一国の皇子と皇女が、こんな場所で一体何やってるんですかぁぁぁぁぁぁっ!!」


 さっきのライトに詰め寄られた私みたく青ざめたライトが言い訳しようとするけれど、それを遮ったフリードさんの声がカフェ中に思い切り響き渡り、私達の1日アルバイトは幕を閉じたのだった。

 ようやく誤解だと気づき、私とライトの正体を知ったカフェの皆様(特に私を最初に人違いでつれてきた店長の弟さん)は平謝りで、逆に店長さんは『確かに普通の子達にしては華やかすぎると思ってたのよ、ごめんなさいね~。でも、お陰で新しいカフェのテーマが思い付いたわ!』なんてあっけらかんと笑っていた。真逆な兄弟だなぁと私たちもちょっと笑ってしまった。



「そういえばお前このまま帰ってきちゃってよかったのか?常連のイケメン見たかったんだろ?」


「あ、それはもう大丈夫。毎日飽きるほど見てるから!」


「はぁ?」


 夕暮れに染まる帰り道、私のその答えに未だに常連のイケメンが自分だったとわかっていないライトが怪訝そうに眉を寄せる姿にフリードさんと笑いながら、皆で寮までのんびり帰ったのだった。



 そんな真逆な兄弟からは、弟さんからはお詫びにと、そして兄である店長さんからはお礼にと、後日ラテアート用のミルクが作れる専用のスチーマーとおしゃれなティーセットが私とライトにそれぞれ届いた!私がカフェで働いた時に興味を持ってたのに気づいてくれたらしい、嬉しい!

 ……嬉しいけど、ミルクたっぷりのラテはカロリーの塊で、ダイエットの敵だから自分では飲めない。練習用に淹れたラテは、とりあえずメイドや執事の皆さんに消費してもらうしかないのであまりいっぱいは練習出来ない。意外と技術がいるものなので、上達にはまだまだ時間がかかりそうである。バイオリンの練習同様、こっちも気長に頑張ることにしましょう。



「あ……!新しいテーマって、まさか……これ?」


 そして後日、改めてテル先生のバイオリン工房に行くときにあのカフェの前を通りがかったら、お店の名前が『ドジっ娘メイドと完璧執事カフェ』になっていた……。


    ~Ep.67 異世界でも萌えのポイントは一緒らしい~


   『私、別にドジっ娘じゃないもん……!!』










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