Ep.50 救出作戦

 地面に投げ出された衝撃で手から転げ落ちた小瓶を見て、私に剣を突きつけたままのチュロス屋の店主が更に怪しく笑う。


「“ルナの涙”か……どうりで一昨日と昨日で髪色が変わってた訳だ。こんな高級品使ってまで正体隠してたってんなら、やっぱりあんたが依頼主の嬢ちゃんが始末させようと探してた皇女様か。これで手当たり次第にあちこちのガキを集めてくる日々ともおさらばだぜ」


「金髪の子供、金髪の子供って……!金髪の子供が必要な理由は何!?貴方たち一体何者なの?」


「何と聞かれて『はいそうですか』と説明する馬鹿が居るかよ。さて、結界で倉庫内にこっちからの物音は伝わらないとは言え、本部にご案内する前に騒がれちゃ面倒だからな、少し眠ってもらう。さぁ、お休みの時間だぜフローラ皇女!」


 そう言って男が取り出したのは、スタンガン。街で“金髪の子供”を拐おうと私を襲ってライトにやられたごろつきたちが持ってたのと同じだ。つまり、この人たちがライト達が追っていた誘拐事件の黒幕……!

 辺りが真っ暗なせいで、男が振り上げたスタンガンの先端の電流の光が良く見えることが余計に恐怖を煽ったその時、誰かが私と男の間に飛び降りてきた。反射的にスタンガンを放り出したであろう店主が振り下ろしてきた剣を別の剣が受け止める。そして、そのまま両手で相手の剣を押し上げながら、ライトが不敵に笑った。


「お休みするのはお前の方だぜ……!」


「なっ!ライト・フェニックス……!いつの間に!?」


「ライト……っ!」


「お前は下がってろ!」


 『すぐに終わる』。そう呟くが早いか、ライトは大人である店主の剣を思いっきり弾き飛ばした。年端いかぬ少年にへし折られた刃に、店主は慌てた様子でこちらに背を向ける。倉庫の中の男達に増援を求める気なのだ。多分、魔力は使えない人間なんだろう。教会の中でも、魔力持ちは本来ほんの一握りらしいから。


「待ちやがれ!……っ!」


 ライトが魔力でその男を足止めしようとして、止めた。倉庫の扉にある“火気厳禁”の印に気づいたのだ、これは、火薬等の爆発物を取り扱う施設に必ず記載が義務付けられているマークだから。炎の魔力が万が一引火したら、中の子供達が危険だと判断したのだ。その隙にも、店主は倉庫の扉に手を伸ばしている。


「……っ!逃がさないわよ!」


 私は咄嗟にさっき放り出されて足元に転がって来たスタンガンを拾い上げて、店主の背中に押し当てた。

 バリバリっという感覚と共に、店主が大きな悲鳴をあげて気を失う。その体が悪い男達が居る倉庫の扉へと倒れていくのに気がついたライトが、さっと私を担いだ。俵担ぎで。

 ちょっ、悪役皇女の分際でお姫様だっこしてくれとまでは言いませんけど担ぎ方が雑!って言うかライト、本当に力強いな!

 ライトは私を雑に抱えたまま、連倉庫側から死角になる大木の枝にかけ上がる。口を塞がれ『喋るなよ』と言われたので頷くと、私をしっかり抱えたままのライトは視線だけを私から倉庫の方に戻した。


 倒されたチュロス店の店主を見たいかついおじさん二人が異変に気づき中に報告に戻る。同時に、深夜0時を知らせる鐘が響いた。

 

「……時間ですが、ライト皇子は現れないな。どうやら我々のことに勘づいている邪魔者も近くに居るようだし、今回は撤退するとしよう」


「良いのですか?今回は本部からの指示の他に、こちらの国の商人の娘からの依頼もあったでしょう。ライト皇子が現れた場合、巻き込まれたふりをした自分を彼に助け出させたいと。その事もあって、フローレンス教会が集めていた子供達を奪ったと言うのに」


「気にすることはない、どのみち現れたときにはあの皇子は本物の皇子ならば本部に連れ帰るか、偽者ならこの場で始末するかの二択だったのが、あの小娘の介入でややこしくなったに過ぎないのだから。所詮皇子の容姿と地位に目をつけた成金の幻想だ。弱味を慰めて惚れさせるつもりだったのかは知らないが、彼の出生の秘密等を探れと言う方の依頼は達成して既に報告済みだ。受け取った前金分の働きはしただろう。取引は中止だ、執事と隠れているお嬢様にはそう伝えなさい」


「へっ、やるなぁ司祭様。あの可哀想な皇子の生まれについては、調べるまでもなくうちの教会の上層部が最初から知ってたくせによぉ。何せあの皇子の本当の母親は……」


「おい、口を慎め。かしこまりました、すぐに」


 ライトの、本当のお母さん……?それって王妃様じゃないの?

 なんの話かと首を傾げて、気づいた。私を抱えたままのライトの肩が、怒りで震えていることに。

 その間にも、頷いた男が水晶を取り出しそれに向かってなにかを話し始める。相手の声は聞こえて来ないけど、電話みたいな力を持つ通信機らしい。これも、一般には出回って無いものだ。依頼主とのやり取りを済ませて、『ご納得いただけました』と男が言う。


「さぁ、ではお暇するとしよう。お前達、荷物をさっさと船に積み込め。所詮親も居ない穀潰しだ、居なくなったところで誰も探すまい」


「はいよー。ったく人使いの荒れぇ……!おら、とっとと歩きやがれ!」


 泣いて嫌がる子供の一人を、男が蹴り飛ばした。手を縛られていて受け身が取れないその子が、地面に叩きつけられて泣き出す。

 

「酷いっ……!」


「……っ!あいつ等……!!」


 子供達を荷物みたいに乱暴に扱い、港の端に停留させた船に向かうために出てきた男達にライトが歯噛みする。今にも男達に攻撃を仕掛けそうになっているその腕に強くしがみついた。


「待って!相手は普通じゃない大人が三人だし、何より一番の狙いはライトなんだよ!私達だけじゃどうにもならないわ。フリードさんにここへの地図を残してきたから味方が来るまで待って……ひゃっ」


 その瞬間、港の一番端に停留していた船の汽笛が響いた。耳障りな重低音が、ビリビリと鼓膜を震わせる。


「おい、もう出港かよ!相変わらず上はせっかちだな……!どうする、全員積み込む時間はねーぜ!」


「仕方ない、明らかに魔力適正のない役立たずは、そこの使えない愚か者と一緒に海に沈めてしまえ」


 その言葉に、思考が止まった。

 私を抱えたままのライトが、ぐっと拳を握りしめる気配がした。トンと、私の体が木の枝に下ろされる。真剣な色を浮かべたライトの深紅の瞳が、私を真っ直ぐ見据えていた。


「フローラ、協力してくれ。俺があいつ等をどうにかする間に、ちび達の縄を切ってやって一緒に逃げてほしい。約束の時間より前に散々周りを調べたが、実行犯はあの四人以外辺りには居ないから、あいつ等さえ足止めすれば街の方へ繋がる道には敵は居ない筈だし、お前やちび達は俺が守るから」


 そう言いながら、ライトがロープを切る専用のナイフを私に握らせた。あの子達を助けるために、ライトはちゃんと必要なものを用意していたのだ。


「で、でも相手は三人だよ!?私じゃ戦闘には役立たずなんだし、これじゃライトが一番危ないわ!もし助けが間に合わなかったら……」


 確かにライトは普通の子供とは思えない、大人にも匹敵する強さを持ってる。それに、本来魔力を持っているのは貴族だけ、一般人には魔力による戦闘能力は無いから、3対1でも確かに勝機はあったかもしれない。彼等が本当に、“一般市民”ならばだけど。


「会話からして、あの人たちきっとアクアマリン教会の関係者だよ!教会ってどっちの宗派にせよ、幹部クラスには魔力持ちが居るって教えてくれたのはライトでしょ!!?危ないよ、一人で敵の足止めなんて絶対駄目!」


 子供達を死なせたくない。そのライトの気持ちは私だって痛いほどわかる。でもだからって、友達一人を盾にして逃げろなんて作戦、認められるわけないよ!

 しかし、食い下がった私にライトも負けじと声を張り上げた。


「自分の身が危ないからとか、そんな理由で悠長に待ってられるかよ!自分を慕ってくれる子供達ひとり助けられなくて何が皇子だ!!」


「ーっ!!!あっ……!ライト、後ろ!!」


「ーっ!フローラ、掴まれ!!」


 ざわっと私達が登っていた木の枝がざわめいた、私達に気づいた男の一人が襲いかかってきたのだ。

 ライトは自分一人で避けず、しっかり私を抱え直して、襲って来た男を剣で下に叩き落としてから地面へと着地した。突然現れたライトの姿に、今にも麻袋に詰め込まれそうになっていた子供達が安堵と喜びの声をあげた。逆に男達は、サッと顔色が変わる。


「体力馬鹿のガイアが一撃でやられるとは、やはり血統は紛れもなくフェニックス王家のものらしいですね……!それにしても、わざわざそちらから例の金髪の少女まで連れてきてくれるとは、感謝致しますよ皇子!」


 口調が丁寧な方の男は、二刀流だった。長さの違う二本の刃が躊躇いなく私達に襲いかかってくる。それを、ライトはしっかりと食い止めていた。


「感謝なんて要らないな、お前等はここで終わりだから。フローラ、行け!」


 私の目では追えない剣戟を繰り広げつつ、苦戦しているにも関わらず魔力を使う気配がない男が“無魔力”な人間だと判断したライトが叫ぶ。

 私は指示されていた通りに子供達皆の拘束を解きつつ、本当に大丈夫だろうかと彼を見たけど。その時にはライトは相手の刃を足場にして高く飛び上がり、自分の剣の柄で男の首筋を殴って一瞬で気絶させていた。

 こんなときに緊張感のない感想かも知れないけど思ってしまう、メインヒーロー……恐るべし!


「さぁ、残るはあんただけだ。お前達が知る教会の闇について、すべて話してもらうぞ!」


「ふふっ……、はははははははっ!」


 しかし、ローブの男は怯む所か、高らかに笑い声をあげる。その不気味さを、十六夜の月明かりが怪しく照らした。


    ~Ep.50 救出作戦~


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