Ep.48 悪役令嬢っぽい小道具(自称)

 なんやかんやと始まる前から色々あったけど、ようやく今回ライトの国に遊びに来た本来の目的であるフェニックス建国祭が始まった。

 この日のために特別な許可を得た飲食店等が宮殿の広い庭園から街中に至るまでずらりと並んでいる景色をみるだけでワクワクしてくる。

 早く見に行きたいけど先にライトの剣術大会優勝を祝おうと、私はライト、フライ、クォーツ、ルビーと一緒に、近くの出店で買ったタピオカミルクティーで乾杯をした。


「ライト、おめでとう!」


「あぁ、ありがとう!手応え無さすぎて拍子抜けだったぜ」


「……その手応えない相手の中に、漏れなく僕も入る訳だけどね」


「おい、誰もそんな事言ってないだろ?拗ねんなよ。お前の場合、剣より刀の方が扱い上手いじゃん」


 昔の日本風なお国柄であるアースランド出身なクォーツは剣より日本刀の方が得意らしいけど、今回の大会は剣じゃなきゃ参加できなかったらしい。この三人、本気で戦ったら誰が一番強いのかなー。

 優勝の旗片手に笑うライトの背後で、ズーンと落ち込んだクォーツが嘆く。ライトのフォローも効果ないみたい。彼は初戦敗退だったのだからそりゃショックだったんだろう。相手が年上で、しかも現役騎士団長の息子さんじゃ仕方なかった気もするけど。

 可哀想にすっかり落胆したクォーツは、気晴らしにとバザーの方へお買い物に去っていった。


「フローラお姉さま、私達はなにか食べ物を頂きに参りましょう」


「うん!いいね、行こ!」


 クォーツが去り、ライトは剣術大会不参加だったフライに何で出なかったのかと絡み始めたので、私とルビーの女の子ペアは、宮殿の広い庭園に期間限定で立ち並ぶ食べ物屋さんの方を見て回ることにした。

 道中、ピンクと水色のストライプ柄屋根の屋台を見かけたから、あのチュロス屋さんも建国祭に参加してるのかな。


「いやぁ、本当にライト皇子はお強くていらっしゃる。5つも歳上である我が兄が敗れるとは……先程の決勝では感服致しました。ねぇ、エルマー兄上」


「あぁ。お生まれから不利でいらっしゃった貴方がこれだけの力を得るには、さぞ人並み外れた努力をされてきたことでしょう。流石ですね、ライト皇子」


 なんて思いつつ、すでに持ちきれないくらいの戦利品(おいしいもの)を入手した私達がライト達と別れた場所まで戻ると、そこではライトが見慣れないお兄さん二人に絡まれていた。

 敢えてライトを殿下じゃなく、敬意をはらわずに皇子と呼んでいる嫌味たらったらな二人のうち一人は、剣術大会の決勝でライトにこてんぱんにされた人だ。負け惜しみ?大人げないなぁ。嫌味を言い返そうとしたフライを『相手をしてやる価値もないから』なんてなだめつつ受け流しているライトの方が、よっぽどしっかりしてる。

 しかし、そんなライトの冷静さも勘に障ったのか、眉間にシワを寄せた二人の嫌味は止まらない。どうしよう、止めに入るか、誰か呼んでこようか……そう思った時だった。


「子供とは思えないふてぶてしさだな、憎たらしい。いかに強かろうが聡明だろうが、所詮は王妃様の実子でない偽者の癖に。大切にされていないから、陛下も貴方をスラム近くで起きている誘拐事件の調査なんかに平気で向かわせられるんだろう」


「……っ、何だと!?」


 男の言葉に、それまでどんな嫌味にも反応なしだったライトがバンッと机を叩いて立ち上がった。

 聞こえてきたあんまりな言葉に、私もルビーも耳を疑う。色々引っ掛かる内容もあったけど何よりあの態度が腹立つ、嫌な奴!もう許さん!と、ちょっと怖いので勇気を出すため鞄から武装の為のあるものを出して優雅にパタパタさせながら、私は激昂して立ち上がったライトの隣まで足を運んだ。ルビーがぎょっとした顔をしたけど、気にしない。


「……先程から聞いていればずいぶん無礼な物言いですこと。誘拐事件の調査、よいではありませんか。民のために自ら動けるのは素晴らしいことです。溢れる才覚に溺れず努力を怠らないライト様を、己の実力不足で妬むのはお止めになったら?そう言う男性はモテませんわよ!」


「……っ!フローラ……って、お前それ……っ」


 ビシッと指を指しながら、キッパリそう言ってやった。

 ライトが私の手にある物を見てポカンとなる。もちろん気にしない。

 いきなり乱入してきた私に嫌味な男二人は毒気を抜かれたのか、ちっと舌を鳴らして謝りもせず逃げてった。


「ありがとな、助かったよ。ところで、ひとつ聞いていいか?」


 特に大きな騒ぎにならずにすんだことでほっとしていたら、ライトが私の手元を指差す。


「なんで喧嘩に乱入してきたのにうちわ持ってんだ?」


 そう、私は今、ミストラルの自室から持ってきたうちわで自らを優雅に扇いでいた。


「武装の小道具だよ!こうやって扇いでれば、ロマンス小説に出てくるみたいな強そうなご令嬢に見えるかなと思って!」


 うちわ片手に胸を張った私に、ポカンとなってから皆が一斉に吹き出す。


「お前……っ、それうちわじゃなくて扇子だろ!ロマンス小説読まない俺でも知ってるわ!!」


「……ふふっ、ははははははっ!うちわ……!悪役令嬢になりきるための小道具であえてのうちわ……!いいね、本当に君と居ると飽きないよ……!」


「い、いいじゃん!うちわしか持ってなかったんだもん……!そうだ、ドレスだから良くないんだよね、服装を浴衣にすれば合うんじゃない!?うちわ!」


「フローラお姉さま、そう言う問題ではございませんわ」


 ルビーにまで冷静にそう突っ込まれ、轟沈した私なのだった。





 その後、せっかくカッコよく意地悪な人たちを追い払ったのに爆笑された私がすっかりへそを曲げたのを見てライトもフライも、更にはいつの間にか戻ってきてたクォーツとルビーにまで『美味しいものを食べたら機嫌も治るよ』とか言い出した。失礼な、美味しいもの与えとけばご機嫌になるとでも思ってるのか!大正解よ、美味しいものはいつでも大歓迎です!!

 ライトが『また同じ店があったぞ』と連れていってくれたワゴンのチュロスは大変美味しゅうございました。

 常連さんなのか、あの時私が指差しちゃったいかついおじさん二人と屋台のおじさんが私とライトの顔を覚えててくれてて、わざわざおまけで一人一本ずつ多めにくれたから味も制覇しちゃった。もうお腹がパンパンだ。

 よそ行きの寝巻きに着替えて、客間のベッドに身を投げる。


「あーっ、色々あったけどたのしかったぁ!」


「それはようございましたね、姫様。では、私どもは明日の帰国のための手筈を整えて参りますので本日は下がらせて頂きます。明日は船の時間も早いですし、お早めにお休み下さい」


「はーい!おやすみなさい」


 ハイネを筆頭にメイドの皆も居なくなって部屋が静かになると、もの寂しさからかさっきまで忘れていた不安がふと胸に甦る。昼間のライトの事だ。


 もうすっかり忘れがちだけど、ここは元々乙女ゲームの世界で。ライトはメインヒーローで、将来はヒロインの運命の相手に申し分ない完全無欠の王子さまになる人だ。もちろん、血筋だって、本当のフェニックスの皇子で間違いない、その筈である。攻略本にも、ノベライズにも、アニメの方でも、ライトが“偽者”だなんて描写はただの一度もなかった。


 でも、あの時ライトに生まれのことで嫌味を言ってた二人はフェニックスの公爵家の息子、身分的には王家に次ぐくらいの高い人達が、いくら子供相手の負け惜しみでもあんなこと言うかな?

 何より、平気なふりをして笑っていたライトの瞳に一瞬にじんでいた涙が、どうしても忘れられない。


「……ライト、大丈夫かな」


 あんな言い方されて、まだ10才の少年が傷ついてないわけない。誰かに愚痴れれば、ちょっとは楽になるんじゃないかな?と思った私は、こっそり客間を抜け出してライトの部屋に向かった。場所は知らないけど。


「あれ?変だな、外に出る門の方に来ちゃった」


 部屋の場所がわからないからライトの魔力を探って歩いてたんだけど、何故かたどり着いたのは外へ繋がる門。しかも、ライトがシスターさんと会うのに使っていた、孤児院代わりの教会に一番近い門だった。

 なんでここに来た、私?と首をかしげていたら、不意に門の周りがガヤガヤし出した。反射的に、草むらの影に身を隠す。


「おい、居たか!?」


「駄目だ、城内にはお姿が無い!一体どこへ行かれてしまったんだ……!」


 同じ装束をまとった兵士たちが口々に叫ぶ。どうやら、身分が高い城内の誰かが居なくなってしまったようで、ひどく焦っている声だった。

 私はと言えば、その居なくなった“誰か”が誰なのかピンときてしまって、嫌な予感に背筋が冷える。


「あぁ、どうしたら良いのだ!部屋が荒らされた形跡はないのに、ライト様が失踪されるだなんて!!!」


 私の嫌な予感を裏付けるように、門から外に飛び出していく兵士がそう叫んで消えていった。


  ~Ep.48 悪役令嬢っぽい小道具(自称)~

 



 


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