Ep.39 確かに読んでと言ったけど

 友達がたくさんいる学校生活は楽しい。

 フライとも無事仲良くなって、秋が終わって冬が来て。皆で雪遊びをした日にライトが雪のお城の中なのに皆が寒がってたからって変な気を聞かせちゃって氷で出来てる暖炉に魔力で火をくべちゃって、お城が溶けて水浸しになったり。また春が来れば、校内にもお花がたくさん咲いたからお花見したり押し花を作ったり、そんな些細で平和な日々が流れて、あっという間に私達は五年生になった。


 そして現在は夏休み、私は当然故郷であるミストラルに帰ってきている。最近は、お城を囲うように宙に浮かんだ特殊なリングからカーテンのように流れ落ちる見事な滝を眺めつつお茶が出来る空中庭園がお気に入りだ。

 二枚重ねのガラスの合間にバラの押し花が挟み込まれた乙女チックなガラステーブルで、フライに先日貰った“教会”とやらの資料を読み漁る。


「『無属性魔法と言うものは、別名“日用魔術と呼ばれます。防御結界、空間転移魔方陣などがこの類いです。これらの魔術は通常の魔力保有者では扱えません』……成る程」


「お前……本当に理解しながら読んでるか?」


  また今年も私の誕生日に託つけてミストラルに遊びにきたライトが、向かいの席でワンホール丸ごとのケーキを楽しみながら苦笑する。馬鹿にされた気がして、フライの手書きの『幼児でもわかるレベルにしたから大丈夫だからね』と渡された手帳片手に手を振りながら抗議した。


「も、もちろん!つまり、何かを防御したり、空間を歪める結界とか、見たことないけどある場所から遠くにパッと移動出来るような魔法の使い方を知っていて、実際に学院や各国のお城なんかに結界をかけてくれてるのが、この資料に載ってる二宗派の教会の方々なんでしょ?あれ?でもこっちの教会のマークは私見たことないな……」


 フライが完璧に模写したであろう、手帳に記された教会の宗派を証明するシンボルマークは二つ。教会のマークなのでどちはもベースは十字架だけど、左のマークは白い十字架に天使の翼が生え、全体に淡い色合いの花と新緑の蔓が絡み付いた物。こっちは見覚えがある。ミストラルの城下にもある、“聖・フローレンス”の宗派の方の印だ。色が全体的に淡いので、優しい印象を受ける。

 問題は右だ。銀色の十字架に黒い翼、その周りには貝殻、いかり、あとは濃淡もサイズもさまざまな泡をまとった、美しくクールな印象を受ける印。宗派の名前は……とページを捲ろうとした所で、15センチの苺ショートを見事完食したライトが手帳を覗き込んでくる。

 美味しいって言ってくれて嬉しいけど、ちょっと甘いもの食べ過ぎじゃないかしら?と思う私に向かい合いながら、ライトの指先が手帳に記された右のマークをトントンと叩いた。


「あぁ、フローレンスと対立してる“アクアマリン”のシンボルマークだな。ミストラルでは受け入れられていない宗派だから見かけないんだろう」


「対立?聖職者なのに?」


 首を傾げた私を見て、ライトは苦笑を漏らした。


「厳粛に慎ましく、孤児や迷えるものの救済に当たるフローレンスとは逆に、アクアマリンは教会特有の結界や転移魔法等の知識を売りにしてかなり稼いでるからな。フローレンスの方は特に敵意は無いようだが、アクアマリンは昔ながらの潔白な生き方を美徳とする代わりに常に金銭不足なフローレンスを見下している。だから仲が悪いんだ」


「宗派争いってことね、教会って言うからもっと平和な場所なのかと思った」


「清濁呑み込む度量くらいはあわせ持っておかないと今のご時世生き残れないのさ。……と言いたい所だが、アクアマリンはフローレンスに対して圧倒的に信者が多いが、同時にきな臭い噂も多い。聖職者と言うのは貴族の権限だけじゃ御せない場合も多いし、無闇に関わるなよ」


 『うちの城下にあるアクアマリンの教会も最近動きが怪しくて』と嘆息したライトは、なんだか遠い目をしていた。アクアマリン教会に嫌な思い出でもあるのかな?と思ったが、言いたくなさそうなので聞かないことにする。

 丁度会話が途切れたそのタイミングで、城から空中庭園に来るための扉がバーンと開いた。


「ねーさま!絵本読んでください!!」


「クリストファー殿下!!今フローラ様は来客中ですので邪魔をしてはいけません!」


 飛び込んできたのは、最近お喋りが楽しくて仕方ない可愛い年頃に成長したクリスと、私の里帰りで一緒にミストラルに帰ってきたメイドのハイネだ。我が弟ながら、テチテチ歩きが可愛いわ!私も長期休みしか一緒に居られないクリスとの時間は大切だし、許可してあげたいけど……と、向かいに座ったライトをちらりと見る。苦笑したライトが、サッと立ち上がった。


「来客と言っても俺だけだろ?構わないさ。ほらクリス、おいで」


 私達の方に駆け寄る途中でハイネに抱えあげられてしまったクリスの手から落ちた絵本を拾い上げたライトは、ハイネの方に手を広げて見せた。去年からライトが遊びに来る度構ってもらってすっかり懐いたクリスは、パッと瞳を輝かせてライトに抱きつく。子供っぽい一面もあるけど、ライトは実は面倒見が良い優しいお兄ちゃんだった。(実際には一人っ子だけど)

 クリスを片腕で抱き抱えたライトが長椅子に移動したので、私もそちらに移動する。クリスを真ん中にして、三人で並んで座る形になった。

 絵本の表紙を確認したライトが、おやと言った様子で瞳を瞬かせる。

 

「これ、教会が崇拝してる聖霊の伝説の絵本だろ。丁度教会の話をしてたところだし良い内容なんじゃないか?いい選択だぞ、クリス」


「はい!ははうえのお部屋でみつけました。ねーさま、読んで!」


「ふふ、はいはい」


 キラキラした眼差しでクリスが差し出してきた古びた絵本を受けとる。この世界では割りとメジャーなおとぎ話らしいんだけど、なんでか私は一度もこの物語を読んだことがなかった。

 全体的にほんわかした淡い色味のイラストが、フローレンス教会の方のシンボルマークを思い起こさせる。でも絵の印象に反して、内容は意外と濃いみたい。

 道を踏み外して破滅の道を歩みだした世界を救う為、聖霊様から力を与えられた4人を主役にした冒険ものだ。結構面白い。黙々とページを捲り続ける。


「あ、あの、ねーさま?」


「おいフローラ、お前それじゃ意味が……」


 フライと一緒に迷いこんだあの薬草園で一瞬見た妖精さんのことが気になってあれから色々調べたけど、この世界って魔物はもちろん、妖精とかの可愛いファンタジー生物は存在しないみたいなのよね。でもこの絵本を読んでると、聖霊が本当にどこかに居るような気がしてくるわ。居るなら会ってみたいなぁ、聖霊。


「ら、ライトにいさま、ねーさまが……」


「……あぁ、わかってる」


 なにやら隣が騒がしい。くんっと袖を引かれた気がして絵本から隣に視線を移せば、困った顔のクリスと目が合う。


 マズイ!と気づいたけど、もう私の手元にある絵本は最後のページまで進んでいる、今さら遅い。


「フローラ……、“読み聞かせて”やれよ」


 長ーいため息をついたライトが、呆れたようにそう言った。


  ~Ep.39 確かに読んでと言ったけど~

  

  『黙読したんじゃ意味がないよね、ごめん!』




  

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