Ep.24 夏休み前の些細なお話

「フローラ、おはよう!」


「あらクォーツ様、おはようございます」


 ルビー王女とお菓子作りをした数日後、久しぶりにクォーツ皇子と花壇で鉢合わせた。

 朝日に照らされた茶髪はいつもより優しい明るい色に見えて、更には年齢もちょっと上がったこともありカッコよく見える。


 いや、元々イケメンだけどね。

 四年生にあがって顔立ちも段々“男の子”って感じになってきてるし。

 そんなクォーツ皇子が私の隣に立つと、ずいぶん背が伸びてきたなぁと思う。


「ところでフローラ、昨日くれたケーキ美味しかったよ。ありがとう」


「お褒めいただき光栄で……あら?」


 あれ、あのブラウニーはルビー王女が一人で渡しに行った筈じゃ……?


「昨日ルビーが嬉々として僕に渡しに来たんだよ、『フローラ様から教わったんです!』って。あと、ライトが君の事『菓子作り趣味みたいだぞ』って言ってたから」


「そう言うことでしたか」


 なるほどね。ルビー王女も頑張ったんだし、『私が作りました!』でも良かったでしょうに。

 でも、喜んで貰えて何よりだ。あ、そういえば……


「あの、そのお菓子を渡した後、ルビー様はどうされてましたか?」


「え?どうって、普通に僕と二人で帰ったよ」


「そう、ですか……」


 じゃあ、あの日私の課題にアドバイスをつけて、ついでに調理場を片してくれたのはやっぱりルビー皇女じゃないんだな。レインでも無かったんだよねー、一体誰だろ?


「――……と、言う訳なんだけど、どうかな?」


「えっ!?」


「フローラ……、僕の話聞いてた?」


 すみません、全く聞いてませんでした!

 私が黙りこくる様子を見て、クォーツ皇子が苦笑いを浮かべる。

 うぅ、四年生にもなって恥ずかしい……。

 しかも正確には高校生(しかも記憶戻ってからこっちの世界でも成長してるから下手したらもう大人)なのに!!


「だから、今回の件で皆に改めてお詫びをしたいからどこかに集まれない?って言ったんだよ」


「え、えぇ、わかりましたわ」


 ん?頷いたはいいけど、確かもうすぐ夏休みだから皆故郷に帰っちゃうじゃない、集まるって何処に??


「じゃあ、そう言うことで休み中に皆でミストラルに行くから、よろしくね。じゃあ僕今日日直だから行くから!」


「あ、は、はい。ごきげんよう」


 さっさと花壇の手入れを済ませ、駆け出したクォーツ皇子の背中に手を振った。


 ――……って、


「うち(ミストラル)に来るのーーーっっ!!?」







 ―――――――――


「はっ、ハイネ!聞いて!!」


きゃっ!?姫様、扉をそんなに勢いよく、しかもノックのひとつも無しに開くなんて!」


 『はしたないですよ』とハイネがお説教を始める前に、その豊かな胸に飛び付いた。


「ちょっ、姫様!?どうされたのです!あっ……、もしや、また何かされたのですか!?」


「いえ、そうではありません。ただ、ちょっと困ったことに……!」


 私の両肩に手を置いたハイネが、『困ったこと?』と怪訝そうに首を傾げた。


 私は、一度ハイネが淹れてくれた紅茶を飲んで気持ちを落ち着けてから今朝の話をハイネに伝えた。

 ちなみに、私は紅茶は断然ミルクティー派だ。


 一通り経緯を聞いたハイネが、困った表情で私を見据える。


「……姫様」


「はい?」


 その口は、何か言いづらそうな、でも言いたそうな感じで半端に開かれている。

 ……“真実の口”みたいだね、突っ込んだら真偽の質問されるのかな。


「――……姫様、まさか本当に噂の通りに他国の殿下方に色目を使ってはおりませんよね?」


「は……、はぁぁぁっ!?」




 ちょっと、何いかにも神妙な面持ちでふざけたこと聞いてくれちゃってんですかこのお姉さんは!


 第一、小学四年生の子供に色気も何もあるか!!ライト皇子に面と向かって“貧相な体格”とか言われちゃう私の幼児体型舐めないでよね!!


「ハイネ……、おふざけでも言って良いことと悪いことがありますわ。クォーツ皇子は私のガーデニング仲間(?)ですし、他の方々はあくまでクォーツ皇子のお連れ様としていらっしゃるのですから」


 あくまで姫らしくティーカップをソーサーに置きながらそう言えば、ハイネが絶妙のタイミングでおかわりをついでくれる。ティーカップが滅茶苦茶震えてるのには一切突っ込まない辺り、彼女のプロ根性が伺えるわ……。


「まぁどちらにせよ、他国の王子様方が我が国にいらっしゃるのであればそれなりの口実が必要となりますね」


「だから困ってるんじゃないの。何か良い案は無いかしら?」


「ございますよ?」


「えっ!?」


 あるの!!?


「夏休みの間に、姫様のお誕生日がありますから。そのパーティーを王様に開いて頂けば、お客様として正式にお招き出来るかと思います」


 なるほど、そんな手が!

 私の誕生日は、これまで私自身の意思で大規模なお祝いは避けてきた。

 前世の普通の女子高生としての記憶がある中で、たかだか自分一人の生まれた日のお祝いに舞踏会並みのパーティーなんてとてもじゃないけど無理!


 チキンとケーキと、ちょっとしたプレゼントがあれば充分!

 って思ってたから。


 でももうすぐ私も十歳で区切りの良い歳になるし、今回は“誕生日祝い”以外の目的もある。

 これなら、誕生日のパーティーを開いて頂くのも良いかもしれない。


「それに、王子様のお披露目にもなりますしね。姫様さえご不満がなければ、その方向で私共から王様にお話させて頂きます」


 そう、実は昨年、水の国“ミストラル”に待望の王子が産まれた。

 つまり、私に弟が出来たのだ。

 まだ一歳だからもちろん公式の場には出られないけど、誕生パーティーならお目見えくらいは出来ると思う。


 あぁ、考えてたら会いたくなっちゃったなー……。


「姫様?」


「えっ?あぁ、ごめんなさい。えぇ、その方向で話を進めて頂戴」


「畏まりました」


 さて、誕生日まであと二週間。

 それまでに、ちょっとふくよかになった身体を引き締めなきゃね……!




   ~Ep.24  夏休み前の些細なお話~



 『期待半分、不安も半分。大集合の夏休みの結果は果たして……?』



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