終章

終章 01

終章




 住職は古びた日誌をぱたんと閉じて子ども達を見渡した。

 すっかりと日は落ち、外は夜の様相を呈していた。


「ねえ先生、光重はどうしたの?」

「これで終わりじゃないよね? ギヨレンはアラゼに攻めたんでしょ?」

「宣幸はどうしたの? 流斬星はお父さんに殺されちゃったの?」


 多くの謎が残る着地に住職は笑った。

 子ども達は歴史の教科書では知ることのできない、ある一人の開拓者――那曲光重<なくちゅひかりえ>――の話に熱中していた。

 住職は口を開いた。


「そのあと、那曲光重を見た者はいない。リリアもリュドミラもシグネも、フェオドラも」


 北部『アラゼ』の元幹部たちは、そのままそっくり進州・アガナから姿を消してしまったのだ。


「じゃ、じゃあ……リリアは死んじゃったの?」


 ある少女の問いかけに住職はちょっとだけ頬を緩めてから、顔を振った。


「彼女は生きているよ」

「どうしてわかるの?」


 慰めの嘘はいらないよ、と子どもたちは立腹気味に頬を膨らませたが、住職には確固たる自信があった。

 彼は、いまのいままで読んでいた本を子ども達に示した。

 その古びた表紙には『進州・アガナ開拓日誌』と題名が書かれていた。


「わたしが、このデルデ峠に寺院を構えて数年したとき、ある人物が訪ねてきた。長い青髪の学者でね。名を内山文京と言った」


 その言葉に子ども達は「あっ……」と身を引いたのが、住職にもわかった。

 内山文京は住職に『信州・アガナ開拓日誌』を託した。


「あなたのような、デルデの護り人にこれを託したい。これはわたしの意志でもあり、光重の想いでもある」


 文京はそう言って立ち去ろうとした。


 当然に住職は「光重はどこにいるのだ」「リリアは、生きているのか」などと問いかけた。

 青髪の密教学者は肩越しに振り返り。


「リリアはいまも元気にしている。光重と一緒に、遥か彼方で暮らしている。わたしもそこへ帰るが、各所に用事がある故に遠回りをしている。あなたの元へ寄ったのも、その用事の一環なの」


 彼女は光重の居場所は明かさなかった。

 健脚の学者は馬の手綱を握りながら、冬のデルデ峠を下山していった。


「それ以来、彼女はここに現れていない。けれども、わたしが光重やリリアが生きている事を信じる大きな理由は……やはり内山文京という学者の一言なのだ」


 住職の言葉に子ども達は「文京ここに来たの?」「やっぱり可愛かった?」「臭かった?」などと口々に質問を飛ばした。

 その中でひとりの少年が鋭い事を言ったのだ。


「どうして、先生の元に文京が来たの? それにリュドミラを奪われた南部『ギヨレン』は怒って北部『アラゼ』を攻めなかったの?」


 この言葉に子ども達は「そうだ、そうだ」と同意をしてから住職に向き直った。


 住職は「攻めたんだよ」と端的に答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます