アラ・カチュー 04




 たいまつに照らされた死闘の輪で剣戟が爆ぜる。

 長物が発する空を切る音に続いて、双剣の太刀が一合、また一合と赤い火花を散らせていた。


「ええいっ、小賢しい邪教徒めっ!」


 長物を振り上げて突撃の気配を見せる怪力僧兵にフェオドラは一層の警戒を示した。

 この怪力僧兵は最強を自認するだけあって、強い。

 無造作に長物を振りまわしているように見えて、しっかりと型に沿って戦闘を展開している。フェオドラが間隙を縫って反撃に出ようとしたとき、すでにそれを予見していたかのように薙刀の柄が鼻先をかすめるような場面が多々あった。

 そんな怪力僧兵が必殺の突撃を試みたとき、鋭い刃が眼前を掠めた。


「ぐっ……!!!」


 顔を覆っていた布の一部が切られた。

 フェオドラは荒く肩を上下させながら、ほつれた布の一部を手で確認した。


「あなたは信徒としては三流かもしれない。でも、その信仰の心に等級を付与することこそが、愚かな行為だとわたしは知っています」


 彼女がそう言ったとき、怪力僧兵は「なに言ってンだ、テメエ……」と薙刀を構えなおした。

 フェオドラは無造作に顔を覆っていた布をはぎ取った。

 露わになる異界の女の顔に、僧兵は「あっ……」と息を呑んだ。

 それは彼女が箴言密教徒でも天現宗派ともまったく異なる宗派の人間であることが、外見で判断できたからだ。

 フェオドラは双剣を構え、地面を蹴った。

 たいまつの火が揺れる。

 振り下ろされた薙刀の一撃を避けると同時に、一方の剣を投げた。

 空を切って投擲された短剣は僧兵の脛に突き刺さった。


「うがあっ!」


 僧兵の姿勢が下がったところで、フェオドラは相手の腹にもぐりこむ要領で、下から剣を薙いだ。

 殺さない。光重の言う異教徒を狩る事の虚しさをフェオドラは理解していたから。


「ぎゃああああっッッ!!!」


 ひゅん、という音とともに僧兵の悲鳴があがった。

 両目を斬られた怪力僧兵は両手で顔を抑えながら、前のめりに地面に崩れた。

 腰を高くして絶叫する僧兵を見下ろしながら、フェオドラは言った。


「その力はもっと穏やかに、そして弱きものに使え。おまえも弱きものとして、永遠を生きよ。天元宗派の大男」


 彼女はそう言って残った剣で男のかかとを強く斬った。

 バチンッ、という嫌な音とともに踵から血を拭いた。人間の歩行に大切な踵の腱を彼女は斬り飛ばしたのだ。

 剣に生き、剣とともに力を誇示してきた大男から光と歩行を奪った。

 弱きに落ちてこそ、真の信仰心が試される。

 フェオドラはそれをしっかりと理解していた。だからこそ、命を奪わずに彼女は立ち去った。周囲で殺気立ち、当惑する僧兵たちを相手にしながら、彼女は立ち去ったのだ。


「僧兵の大将は倒れた! わたしに挑む者は、他にいないか!」


 そう宣言して。

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