ガルダの楽園 13



 長室館の港に入港した船から光重はリリアとともに下船した。

 上陸するなり厚治国の兵士に取り囲まれ、捕えられた。

 内山文京は船に残り、そのまま慶国へ向けて出発した。

 光重はリリアとともに内山源流道の手に落ちる事を選択した。リュドミラを箴言密教の偶像として扱っている以上、『若野林屋襲撃事件』に関連しているふたりをただではおかないはずだ。

 強硬手段に出るというのであれば、春塵から貸与された濶剣『カドガ』が煌めく事となる。

 けれども、内幸源流道は光重に対して敵意を示さなかった。


「源流道殿は光重<ミツシゲ>殿の実力を非常に評価をされておられる」


 そう言った手紙が兵士を通じて読み上げられ、二日後の謁見に臨むことを要請された。光重は「帯剣を許して頂けるのであれば、いつでも」と返答した。

 その日は兵士達に連れられて長室館の宿場に泊まった。

 出された食事には手をつけず、窓の外へ捨てた。翌朝、カラスと数羽の小鳥が死んでいた。

 光重とリリアは露店商から餅や団子を買って、これといった事も話さずに散歩などをして時間を過ごした。ときどき手をつないだり、肩を寄せたり、ちょっと距離をとったり。そんなちぐはぐな間柄で、夕暮れ時に別の宿場に泊まった。

 また食事には手をつけなかったが、翌日の朝の庭に死骸はなかった。もったいない事をした。




 謁見は約束通りに行われた。


 殺気立った気配が各所から感じられていたが、誰一人として光重に躍りかかってくる者はいなかった。

 内幸源流道は、かつて内幸道場で見たときと同様に不機嫌そうな顔をしていた。

 そうして彼は言ったのだ。


「生きておられたのだな、光重<ミツシゲ>よ。不幸が重なり、あの惨劇が昨晩のように思い出される」


 しらじらしい言葉を吐いてから、源流道は本題を切りだした。


「我が息子の流斬星<きらら>を覚えているか。いま、流斬星は進州開拓の長として『ギヨレン』に入植している。近く北部『アラゼ』への入植も検討しているのだが、いかんせん人員が足りぬ。ただの人足ではないぞ。優秀な指揮者となりうる者の人員だ」


 これは明らかな罠であった。

 広大な進州は長年の入植計画が幾度も頓挫するほどの『危険な極地』であった。

 比較的に環境が穏やかな南部『ギヨレン』は、これまでの入植計画でなんとか人々が生活基盤を築けるまでになっている。その地に内幸流斬星が入植しているというのだ。

 一方の北部『アラゼ』は、未だに厳しい環境が根強く残っている。

 アラゼとギヨレンはデルデ連峰によって隔たり、北部『アラゼ』の方が山脈にぶつかった雪雲が強烈な雪を降らせる。そのため越冬が極めて難しいのだ。

 光重は源流道の狙いは『人柱』である事を理解した。

 アラゼへ光重を入植させ、頃合いを見て南部『ギヨレン』の軍勢を率いた流斬星が北部『アラゼ』を制圧する。理由はなんとでもつけられるだろう。異教徒として天現宗派に無礼な行動をとったとか、反逆の疑いがあったとか……でっちあげることぐらい、内幸家は容易にやってのけるだろう。

 光重の隣で話しを聞いていたリリアは「絶対に断って。無理だよ」と小声で告げてきた。しかし、光重は顔をあげて源流道を見据えた。


「その任、わたくし『那曲光重<なくちゅ ひかりえ>』がお受けいたしましょう」


 この言葉に源流道は「おや」と思ったらしく「そうか。いや、それは立派な心がけじゃ」などと言葉を詰まらせた。

 そうして光重はふたつの条件を出して、源流道はそれを呑んだ。

 ひとつは開拓資金の支援だ。またもうひとつは、人員の確保と準備期間として一年を頂きたい事を告げた。


 この申し出に源流道は即答しなかったが、黙考の末に承諾したのだ。


 こうして那曲光重は進州北部『アラゼ』開拓団長を正式に任ぜられたのだ。誰がどこからどう見ても、『殺される運命』にある、悲しき開拓団長の任である。

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