第三章 ガルダの楽園

ガルダの楽園 01



 目が覚めたとき、光重は死後の世界を疑わなかった。

 ちらちらと重い雪が紫色の空から舞っている。

 周辺は雪山で、自分は大きな筏のような台座に乗せられて運ばれている。台座は巨大な牛のような動物に繋がれ、のっしのっしと力強く前に進んでいた。長くて太い毛に覆われた巨大な牛は、これもまた大きな二本の角を生やし、雪の白さを全身に付着させながら前を往く。

 その周辺を小さなイタチのような生き物やネズミのような生き物が、しきりに雪原をちょろちょろと走っていた。空にはワシのような巨大な鳥が甲高い声を発しながら旋回していた。


「死んだのか、僕は……」


 ぽつりとつぶやいたとき、綱を引っ張っていた牛たちに紛れて、ひとりの少女が振り返った。


「山で意識を失っていたのだ、旅人よ。おまえは慶国人か」

「えっ……」


 光重はぽつりとつぶやいたのが慶国語であった事を理解した。

 それからしばらく思考する間を置いてから。


「慶国人だ。助けてくれたのですか」

「ザルマーニからやってくる旅人は少ない。あの山は人を殺す険しい場所だ。敢えてそこからガルダを目指されていたので、心配になって出迎えた」


 背丈から見て、まだ十二歳程度だろうか。その割に口調もしっかりとしており、雪原のなかにあってか、眼光がひどく鋭く感じられた。

 もっとも驚いた事は、少女は半裸であり、裸足だった。

 長い袈裟を下半身から上半身へ巻き、右肩は露出した状態でガルダの雪山を歩いていたのだ。

 光重は虚ろになりつつある意識の中で、ぐっと目に力を込めて覚醒を試みた。それから彼女に問いかける。


「倒れる前にあなたを見たような気がする。あなたは光り輝く輿に乗った神様に見えました。そして事実、僕の命を助けてくれた神様となりました」


 光重の発言に少女は眉を寄せて眉間に皺を作った。

 彼女はそれに対して何も言わず、動物たちと一緒に光重を乗せて急峻な山肌を下って行った。

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