アダン会戦 06



 宣幸は焦っていた。


 この日の深夜に敵の補給路を寸断するための作戦を流斬星に上申した。それはデルデ連峰を迂回して、敵の後背補給路を叩くというものだ。過去の情報をもとに、地図に経路を記して敵陣の補給拠点となっているであろう地域や村を示した。

 数名の騎兵隊長と猛者を呼び寄せて、流斬星の前で作戦内容を説明した。

 しかし、その作戦概要を説明している最中に――。


「――補給の馬車が奇襲に遭いました!」


 再びアガナ人の奇襲を受けて補給物資を奪われてしまった。大熊に乗ったアガナ人の女が先陣をきって突撃してきたのだ。その報告を聞いたある兵士が、レドンド・キャノンを襲ったアガナ人に間違いないと断言した。


「すぐに警戒部隊を編成する。アガナ人を殺せ!」


 補給路に警戒の兵士を送った一時間後、今度はデルデ峠から突撃の気配を察知した。松明の光がぞろぞろと出てきた。それから突撃の雄叫びが響き、深夜の空に弓矢の雨が野営地近くに降り注いだ。

 慌てて陣営の防御を固めたが、峠の中腹で小競り合いが起こった程度で戦闘は終わった。そうして夜明けとなった。


「流斬星さま、ご相談があります」

「……なんだ、宣幸」

「御父君に連絡をつけさせてください」

「ダメだって言ったでしょ」

「早期に戦乱を終結させるために、リュドミラを使いたいのです」

「……なっ!」


 この発言に流斬星は動揺した。


「流斬星さま。これは戦です。我々の被害を抑えるために、使えるものは使うべきです」

「ダメ! それはダメ! リュドミラは父上が大切にしている偶像だよ。こんなことのために借りる事なんて出来ないよ!」

「あなたの父君がリュドミラを本国に囲っているのは、こうした事態の時に使うためです。リュドミラの首元に剣を突き付けたとき、那曲光重は抵抗をやめるでしょう」

「そ、それは……」

「持久戦になれば、いささかこちらが不利になります。その不利を跳ね返す力を持っているのがリュドミラです。それをお忘れなきよう……」


 宣幸はそう言って、デルデ連峰の迂回路の説明を再開した。

 騎兵隊長たちは不穏な空気に顔を見合わせたが、宣幸は気にすることなく話を続けたのだ。

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