アダン会戦 05



 伝令が前線指揮所に入り、三度目の突撃が失敗に終わったことを内幸流斬星に告げた。その報告に流斬星は新たに選任した作戦参謀を頭ごなしに叱責した。そうしてから顔を赤くして大岡山宣幸に振り返る。


「宣幸、どうするんだ。やはりお前の計でなくては、兵を無駄に消耗するだけだ!」

「流斬星さま、予定より遅れましたが、本日の未明にはレドンド・キャノンの設営が終了します。すでに台座は完成し、あとはアダンの丘よりレドンド・キャノンが到着するのを待つのみです」

「あれで、あんな砦は一発か?」

「本来の使い方で大いに威力を発揮するでしょう」


 宣幸はここまで状況が悪くなるとは想像していなかった。

 兵力も魔導石の数も圧倒的な優勢である。本命のレドンド・キャノンもすべて健在だ。

 ただ、木造のデルデ砦ひとつでここまで抵抗されるとは思わなかった。

 万が一にもレドンド・キャノンで砦を無力化できないとなれば、こちらは不毛な消耗戦に突入するか退却するかの選択肢しかない。『退却』など流斬星が承知しないだろう。

 内幸流斬星の陣営は優勢な状況でありながら、極端に少ない選択肢しか敵から与えられていない。ここまで状況を絞られるとは宣幸も思っていなかった。

 籠城した相手を表に引きずり出すには補給路を断てばいい。

 レドンド・キャノンが失敗した際は、相手の補給路の寸断を計画するつもりだ。だが、那曲光重はデルデ連峰という山々に陣を置いている。この連峰を迂回するのは、並大抵のことではない。


「とにかく、レドンド・キャノンで撃ち抜けば良いのだ。見ていろよ、那曲光重……!!!」


 大岡山宣幸は静かに怒りの火を燃やしていた。




 レドンド・キャノンが破壊された、という報を受けて大岡山宣幸は飛び起きた。

 夕暮れからわずかな仮眠をとっていた最中の報告で、急いで前線指揮所へと入った。


「レドンド・キャノンが破壊されたのは間違いないのか?」

「ま、間違いありません……」


 伝令と作戦参謀の数名が蒼い顔をして宣幸を見ていた。


「奇襲を受けたというのか、後背から? 敵は砦に籠城しているではないか!」


 強くデルデ峠を含むデルデ連峰を指さして宣幸が吠えると、ある者が小声で反論した。


「アガナのセヴァート族です」

「……なにぃ?」

「巨大な熊に乗ったアガナの原住民が、レドンド・キャノンの輸送隊を襲ったのです。迎えの兵が行ったときには……もうアガナ人は逃げたあとでして」


 バカな、と宣幸はわずかによろめいた。

 アガナ地方とは、この進州のさらに北部――ひとつの海峡を越えたアガナ大陸の凍土に住む野蛮人の事だ。

 南雲館という名にあるように、前時代の領主『南雲氏』は海峡を渡ってきたアガナ人に大いに苦しめられた。南雲氏が進州の統治は不可能である、と白旗をあげたのは……アガナ人の影響である事は言うまでもない。


「セヴァート族と言ったな」

「え、ええ……。そう名乗ったと聞きました」

「セヴァート族はアガナ南部の原住部族だ。何回か進州北部に侵入して、地域領主の軍勢と衝突した事があると聞いたことがある」


 今回、内幸流斬星が進州南部『ギヨレン』開拓団として、こんな僻地に入ったのもアガナ人から開拓民を護りながら、進州を発展させるためだ。


 それなのに……。


「なぜ、アガナ人が那曲光重に協力するのだ!」


 ドンッ、と机を叩いたとき、顔を青くした流斬星がやってきた。


「宣幸っ! レドンド・キャノンがやられたと聞いたぞ!」

「その通りです、流斬星さま」

「ど、ど、どうするの! また突撃を敢行するのか!?」

「一度、厚治の父君に連絡をつけましょう。追加の攻城兵器を用意する必要があります」

「だ、ダメだ! 父上にこんな状況を知られるわけにはいかないよ! 退却もダメ! 勝たなくてはダメだ! 光重には勝たなくちゃ!」

「どちらにせよ、退却が出来ないのなら長期戦を覚悟するしかありません。これから敵陣の補給路を断つ方針で作戦を立案します。騎馬隊を中心とした機動作戦です」


 この発言に流斬星は少し安心したのか、「宣幸、頼むぞ」と述べた。

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