竜胆色の灰と雪 進州・アガナ開拓日誌

HiraRen

序章

序章

序章




 デルデ寺院の集会堂にはナタが刺さった不気味な髑髏が飾られている。

 頭蓋をカチ割るようにナタが突き刺さっているのだ。

 日曜学校の生徒であった元服前の少年は、勇気を出してその由来を住職に尋ねてみた。精悍な顔つきをした坊主頭の住職は、じっと窓の向こうを見つめていた。まだ冬場の雪が残る、峻厳な峠があった。


「かつて、アダンの丘からデルデ峠にかけて大きな戦いがあった」

「歴史の授業で勉強しました。アダン会戦ですね?」


 少年の言葉に住職は小さく頷いた。

 子ども達は住職の座卓の前に集まってきた。

 冬以外に開かれる日曜学校は、ふもとの集落の子ども達にとって特別な存在であった。複数の村や集落には学校がなく、教育の機会といえば住職が無料で開く日曜学校だけである。

 デルデ寺院はデルデ峠の中腹にあり、豪雪地帯であるために冬場は雪に閉ざされて学校も閉校する。そのため、雪のない時期に子ども達は日曜学校を楽しみにやってくる。

 読み書きを習い、計算を覚え、隣村や集落の友達と再会しておしゃべりをする。

 デルデ寺院は子ども達にとって、そういった温かい場所だった。

 だからこそ集会堂の不気味な髑髏は彼らにとって七不思議のひとつとして認識されていた。

 住職は穏やかな所作で立ちあがり、蒸らした土瓶と湯呑を盆に載せて戻ってきた。大小様々な湯呑を子ども達に配りながら話し始めた。


「ある青年の話だ。いま、わたし達が住んでいる進州を、ゼロから切り開いた若者が主人公の話だ」

「……青年って、なんですか?」

「二十代で元服した人の事だよ」

「遅れてたんだ。その人」

「そうだ。でも、両親もいない、悲しい子どもだった。ささ、温かい飲み物を入れよう。ほら、そっちの子たちもこっちへおいで。この髑髏の話をしてあげるから。いやいや、怖がらなくていいんだよ。温かい飲み物があるんだから、怖い話も怖くなくなる」


 住職はそう言って子ども達に土瓶から湯気のたつ飲み物を湯呑へそそいだ。

 その間にも子どもたちは住職の座卓の前に次々と集まってくる。


「先生っ、早く早く! おしえてよ!」


 ある少年がそう言ったのに頷いて、住職は語り始めた。


「少年の名はミツシゲと言った。『光る』に『重ねる』と書いて『光重』だ。みんなもわかったと思うけど、仏門より頂いた名だ。本名や幼名は、なかった」


 住職はそこまで言ってから腕を組んでしばらく黙りこんだ。


「まずは、この髑髏が生まれたアダン会戦の話をしようか」

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