「作家として認めない」と言いたがるひとびと
私はいちおう「作家」を名乗っている。
自分でも気恥ずかしいし、「言うほど作家か?」とは思うんだけど、まあ、いろんなものを書いたりたまに小説を出版したり、「作家」としてもう開業している(税務署に書類を出しましたよもちろん)というのは、これはとりあえずは「作家」というほか、ないと思うのだ。
作家、以外の言い方だったらどうなるんだろう……「小説とか文章を書くひと」? いや、でも、それはもう、「作家」なんじゃないかって。
たしかに「作家」ということの括りは曖昧だ。
ほかの職業や立場とは違って、正直なところ作家というのは「その日、作家になりたいと思った」らもう名乗れてしまうものなのである。
ゆえにたしかに、「ろくに文章を書かない『作家』」というのもいるし、「ろくに実績はないけどとりあえず『作家』」と名乗るひともいる(まあ、前者はともかく、後者にかんしてはときにはそういうハッタリが必要なことはわかるので、よいとは思う。場合と状況によるけれど)。
それゆえに「作家」という肩書きは警戒を生むということもわかる。
「作家」と名乗りたいような自意識をもっている人間じゃないか、と思われるのだ。きっと。
しかし、それにしたってそのうえで、思う。
相手のなにかを批判したいときに、「作家として認めない」という言葉を使うひとが、多すぎやしないか。
わからない。ふつうはあんまりそのように言われる機会がないのかもしれない。でも私はあった。けっこう、いままで、あった。
私は「作家になりたい」とはっきり言いはじめたのは大学一年生の十八歳のとき、そして商業デビューしたのが二十一歳のときのことである。書いたもので収入を得たのだからとりあえずは「駆け出しの作家」と言ったりもしてたのだが――そういうなかで、なんどか、なんども、「あなたを作家として認めない」みたいなことを言われた。
その理由というのはいろいろあったのだろう。
私が傲慢でだらしなくてどうしようもない人間だったから、というのがまずあるだろう。そういう人間が「私作家です」と言い出したら、なんかこう、いろいろとやかく言いたくなったのかもしれない。
私の作品がおもしろくなかったというのもあるかもしれない。カクヨムで私の小説を読んでいただいているかたにはわかっていただけるとは思うが、私の作風は、いわばニッチである。ぴんとこないひとにはとことんこないはずである。自分がぴんとこないことを理由に批判をする「読者」は、ふつうにいるのだ。
ほかにも、たぶんいろいろあったのだと思う。なんとなく思い当たるふしもあるし、自分自身ぜんぜんわかってない理由も、ときにはあるのだろう。でもそれはきりがないから、挙げるのはこのくらいにしておく。
だがなんというかそういうのを「作家」という「立場」と結びつけられるのはふしぎだ。
ほかの職業は基本的には「あなたをその職業と認めない」とか言わないだろう。
そしてたとえばクリエイト系であっても、画家や音楽家の場合は、あなたをそれとして認めないとか、言われるのだろうか?(自称、とかいう問題はあるにしても……)。
いや、ほんとうは、わかるのだ。
なんとなくだけど、そのふしぎさのわけ。
「作家」というのは、そのひとの人格性や、価値観というのと、深くかかわってくるから。
だから。
「作家として認めない」。
ふしぎというか、ほんとうはそれは理不尽なことだと思う。
「自分が、作家として認めない」と思うことは、百歩譲って仕方ない――しかし作家とはほんらいは、「作品をつくりつづけているひと」のことではないか?
それは事実以上でも以下のものではないのだから、認めようが認めまいが、ほんらいはその「事実」というのは動かせないしどうしようもないと思うんだけど。
そして、「作家として認めない」相手が、しかしそれでも自分を「作家」と名乗るのならば、そこにはある程度の根拠がある――つまりして「作家として認める」人間もいるはずなんだけど、その人間の存在は、はたしてわかっているのだろうか。
自分自身の狭い視野と偏った価値観で、自分自身が判断をくだしているだけじゃないか。
そういうのを自分で疑えないのはヤバいんじゃないかと思う。
そして、そういうのが疑えるのならば、「このひとのことを作家として認めない」と心のなかではつぶやけても、なかなか、そのまま口に出せるものではない――とか、思うんだけどね、……私はね。
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