5

 直後、飛鳥の勘が何かを告げる。

 予備のナイフを構えて、気配の方向へと刃を向ける。

「……またあんたか」

 金髪を、月光に反射させた男――枝垂goodあそこに立っていた。

「また会ったね、飛鳥」

 笑みを浮かべる枝垂の表情に気味の悪さを感じて、唾を吐きたい気持ちに駆られる。

「いくら私に反抗心があっても、君は根っからの暗殺者のようだね、飛鳥。頼まれた殺しは、断ることなく受けるんだから」

 そうだ。今回の仕事は、枝垂の手助けをするようなものだった。だが、飛鳥はそれを断らなかった。殺さなきゃ収入が減る、というのもあるのだから。

「なんの目的? 俺の前に何度も現れて」

「君に手を貸してほしいんだ。前回断られたけど、それだけで諦めるような男に見えるかい?」

「……見えないね。確かに、あんたは性格の悪い男だ」

 飛鳥の言葉に、枝垂は「ははっ」と笑うだけだ。

「緋澄唯人」

 枝垂の発した名前に、思わず飛鳥は瞳を揺らした。

「そいつが、私たちの組織を狙っている。理由は――恐らく敵討ち」

 敵討ち、ということは、緋澄の恋人を殺したやつが、枝垂の組織にいるのだろうか。

「よくある話だ、この凸風じゃあ。その手のトラブルの処理は、いつだって朝飯前だったろう」

「ああそうだ。だが、思ったより手こずっていてね。こっちの手駒が次々殺されてる。だから、君に助けを求めたんだよ、飛鳥」

 枝垂が、一歩足を踏み出す。反射的に、飛鳥は一歩後ずさる。その反応を見て、枝垂はどこか悲し気に目を細めた。

「君は変わったね。昔は私に従順だったのに」

「そうですよ、もう昔みたいに可愛い俺じゃないんですから」

「そうかい? 確かに君は変わったが……君はまだ、可愛いままだと思うよ?」

 ああ、やはり気味が悪い。こうやって、この人は他人をおちょくるのが好きなんだ。背筋が凍る。それなのに、額からは汗が一筋流れる。

「……いい趣味してるよ。こんなおじさんのこと可愛いとか言うなんて」

「そうかい? 部下からはあんまり評判良くないんだけどなあ」

「……」

 こっちの皮肉は真に受けられた。いや、こいつはそういう男なのだ。意地でも、誰かの思い通りにはなってくれないらしい。それは今に始まったことではないのだが。

「とにかく、またあんたは俺の邪魔をするのか?」

「邪魔だなんてとんでもないなあ。君が大人しくしてくれていたら、こんなことしないのに。君が悪いんだ」

「はあ、責任転嫁の天才ですね」

「天才だなんて、照れるなあ」

 本当に、ペースを狂わされる。何を言っても手ごたえのない返答が返ってくる。この人は、ただ目の前の人間を弄ぶことしか眼中にない、そんな質の悪い人間だ。

「俺はあんたに手を貸さない。何度だって言う。あんたとは、もう縁を切ったんだ」

「縁、か」

 言うと、枝垂は「ははっ」と笑った。一体何がおかしい、とこちらが問うより前に、枝垂は口を開く。

「私の『目』から、君は逃れることはできない。私に一度捕らえられた人間は、どこへ行こうと逃げられない」

 そう言って枝垂は、闇夜に瞳を黄鉛に光らせた。

「……本当に厄介だよ、PK型は」

 吐き捨てながら、飛鳥は言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます