4

 夜がやってくる。

 ここ二日間、魔ともに仕事ができないでいた。

 一日目は緋澄に先を越され、二日目は突然現れたかつての上司、枝垂に先を越された。

 今日こそは暗殺者としてちゃんと仕事をしたいところだ。自分で殺さないと、自分のところに金は入ってこない。つまり、二日分の収入を失っているのだ。

 今夜の現場は、中央エリア。昼間は繁華街として栄える街。それが、陽も落ちたこの時間になれば、その顔を変える。

 深夜二時。街灯だけが道を照らし、車もほとんど通らない。高校生がタピオカミルクティーを買っていた店にもシャッターが下り、野良猫が道端のゴミをあさっている。

 上着のポケットに手を突っ込み、飛鳥は人のいない中央エリアの歩道を歩く。

 与えられた情報が確かなら、このあたりでヤクの売買が行われているらしい。昼間はそんなそぶりを見せないが、ここだって凸風だ。

 クスリは、組織の大きな資金源になる。敵組織に金が流れることを良しとしない犯罪組織から、この売買を潰すよう依頼が来たのだ。

 依頼主はというと、案の定枝垂の組織に連なる組織の頭だ。

「こういう仕事だよな、暗殺者の仕事ってのは」

 あくまで、一つの道具。

 それを時たま思い出させてくれる仕事は、いいものだ、と飛鳥は小さく笑った。


 指定された場所へと向かう。

 雑居ビルが立ち並ぶ路地裏に、ざり、と足音が響いた。それは飛鳥のものではなく、全く別の誰かのもの。

 遠目からその様子を観察する。人数は二人。一人は売人で、もう一人はヤク中の男だろう。手は震え、足取りは怪しい。

 飛鳥は一歩足を踏み出す。上着の中に忍ばせたナイフを取り出すと、飛鳥は足を止めずに売人の元へ歩み寄る。走っては警戒される。クスリを買いに来た客と思わせていれば、相手は警戒などしない。

 飛鳥の足音に気が付いた売人は、振り返る。その、なんでもない表情のまま、売人の男は顔を固める。そして、首元から赤い血を吹き出させて無機質に倒れた。

 任務終了か。売人を一人殺すだけの簡単な仕事だった。

「ひ……ひぃぃぃぃいいいいいい!」

 ヤク中の客が、腰を抜かしてアスファルトを這いつくばっていた。こいつは放っておいていいか、と飛鳥はナイフに絡む赤い血を掃う。それと、返り血を浴びてしまったようだ。頬にかかったべたついたそれを拭う。

「……帰るか」

 その路地を去ろうと、飛鳥は元来た道を振り返る。

 が、その直後だった。

ぱん、と何かが爆ぜる音。それが銃声だと気付くのに、一瞬遅れた。

音の方向は、飛鳥の背後。音の感じからして、かなり近い。明日かは振り返り様にナイフを投げた。ナイフは、クスリを買いに来た客の頭に刺さり、そのまま男は倒れた。右手に銃を持ったまま。

「全く……」

 飛鳥はため息を吐いてナイフを抜き、ついでに銃も男の手から没収した。

「素人がこんなの使っちゃ危ないでしょ……」

 銃を片手に、飛鳥はすでに息のない男を見下ろして言うのだった。

「というか、こんなものどこで手に入れた?」

 いくら凸風でも、一般市民が容易に拳銃を手に入れることはできない。拳銃を持つのは、大きな名家の人間か、密輸業者とのかかわりを持つ暗殺者くらいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます