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 目を覚ます。

 いつものように気怠く、ただ蒸し暑い夏の昼間だ。

 飛鳥は身を起こし、今何時か時計を引っ張って確認する。昼一時を過ぎたころだ。

 仕事は大抵、夜からだ。起きる時間は、いつもこのくらいだ。

 シャワーでも浴びよう、と俺はベッドから腰を上げる。

 と、もう一つのベッドの布団が、綺麗に畳まれているのが見えた。

「……あいつ、どこ行った」

 まあ、互いに干渉しないのがここのルールだ。緋澄がどこで何をしていようと、飛鳥の知るところではない。

 だが、それでも気になってしまった。

 飛鳥は、緋澄のことを知らなさ過ぎた。

 だからこそ、彼がどこで何をしているのかを、知りたくなっていた。

 飛鳥はシャワーを浴び、服を着替えた。適当な荷物を持って、部屋を出る。

 飛鳥の暮らす部屋の下の階にある喫茶店へと入ると、さゆりが待ち構えていた。

「あ、おはようございます、飛鳥さん」

「おはよ、さゆりさん」

 言って、誰もいない喫茶店の、一番奥のカウンターに座る。

「緋澄、来てない?」

「来ましたよ、今朝」

 やっぱりか、と飛鳥は目を細める。

「仕事の依頼? どこの誰殺しに行ったとかわかる?」

「少なくとも、仕事の依頼は何も出してませんよ」

 言いながら、さゆりはグラスを磨いている。

「ふうん、仕事じゃないのか……」

 だとしたら、どこへ向かった? 来たばかりの街で、あいつは何をするつもりなのだろうか。

 買い物か? いや、買い物は昨日行ったようだ。部屋に食料やら衣類の入った紙袋があった。

「ま、適当にほっつき歩くか」

「あ、お出かけですか?」

 飛鳥は、席を立って、背を向けたまま無言でひらひらと手を振ってみせる。


 凸風市は、四つのエリアに分けられる。

 街のメインストリートのある中央エリアに、港に面した港エリア、裏社会を牛耳る名家が並ぶ観音エリア、そして、犯罪組織や暗殺者の住まう南エリアだ。

 昨日行った買い物は中央エリアだろう。あそこは比較的治安も良い(といってもそれは凸風基準なので、日本全体で見ればばっちり治安は悪い)。

 南エリアは飯食って寝るだけのような場所だし、そこを用もないのにうろつくのは不審人物とみなされる。

 港エリアも、特に何もない。あるのは海と船と、密輸業者の事務所くらいだ。

 なら観音エリアか? とも思ったが、それこそ行ったって何もすることがない。自らを売り込みに行く、という手段を、暗殺者は取らない。そんなことをしなくても、依頼はすぐにもらえるのだから、する必要がないのだ。

 なら、行く先は中央区か。何をしに行ったんだろうか、と飛鳥は思案しつつも、中央区へと向かう地下鉄の駅へと向かった。


 中央区は、活気づいていた。

 凸風高校の制服を着た女子生徒たちが、今どき流行りらしいタピオカミルクティーを片手に談笑している。

 いくら治安の悪い街でも、ちゃんと教育設備は整っているらしい。そこに通う子供の大半は、観音区に暮らす名家の出だ。

 飛鳥も一応、そこの卒業生であるが、別に飛鳥は名家の生まれではない。昔、観音区のいいとこのお屋敷の養子になって、そこの高校に通ったのだ。

 もう何年も前の話だ。あのとき一緒に青春を謳歌した仲間たちは、何をしてるんだろうか。

 なんて考えながら、飛鳥は足を運ぶ。

 さて、どこへ向かおうか。

「あいつが行きそうな場所とか、何もわかんないんだけどなー……」

 アパレル系の店とか、あいつ行くんだろうか。

 まあともあれ、適当にぶらつくことにした。

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