anti vice《bay side》

佐倉こんぶ

第一部 Scarlet memory isn't rust.

第一章 roommate

1

 窓の外から差し込むのは夏の日差しだ。

 外を見下ろすと、ひび割れたアスファルトと水たまり、それと、ゴミ捨て場で眠る男や何やら荷物の詰められたリヤカーを引いている男。

 そんな混沌とした街が、ここ、凸風市の日常だ。

 飛鳥朋行は起き上がると、いつものようにシャワーを浴びにバスルームへと向かった。

 脱いだ服を無造作に洗濯機の中に放り込み、バスルームに入る。蛇口をひねれば、熱い湯がシャワーヘッドから溢れ出した。

 汗を流し終え、飛鳥は濡れたままバスルームを出た。綺麗に洗濯されたバスタオルで体を拭くと、目の前の鏡に映る自分の顔を見た。

 目元を隠すくらいに伸びた前髪と無精髭。目頭と目じりには、細かい皺が寄っている。

 歳は四十をとっくに過ぎ、二十代のころにやたらハンサムだイケメンだと持て囃されていたあのころの若々しさなんてものはない。

 確かに、四十一になった今でも若い娘から声をかけられたり、なんてことも無いわけでは無い。それでも、飛鳥のその顔には、あのころの情熱のようなモノはとっくに消えていた。

 これが歳を取るってことか、と飛鳥はため息を吐いて髪を拭く。

 体を拭いて、新しい服に着替えようとする。だが、今日は真夏でやたらと蒸し暑い。むしろ服なんか鬱陶しいくらいだ。

 とりあえず、下だけでも履くか、と白いチノパンを取り出す。髪を拭きながら、上半身裸のまま飛鳥は洗面所を出た。やたらと広い部屋は殺風景で、あちこちに洋服が散乱しており、流しには昨日の晩勝手食べた空っぽのコンビニ弁当が置いてある。

 今日は何か仕事が入っているだろうか、と思いながら洗面所を出る飛鳥の目の前に、一人の少女が現れた。

 少女、と言っても、どうやら未成年ではないらしい。どう見たって中学生くらいにしか見えない彼女が、「ちょ、飛鳥さん服着てくださいよ!」と叫んだ。その腕で大きな網籠が抱えている。

「あーごめんごめん、暑いから服着たくないんだよ」

「いや冷房点けてくださいよ! あと、服着てください!」

「いや、冷房点けたら電気代上がるじゃん……あと服は着たくない」

「今日は飛鳥さんに紹介する人いるんで、服着てください」

「え? 客が来るの? おじさんに?」

「お客さんじゃないです。今日からここに住む人を連れてきたんですよ」

「え?」

 その少女――円城さゆりの言葉に、飛鳥は驚きの声を上げる。

「いや、ここ俺の部屋だから」

「ええ、知ってますよ。今日からここで飛鳥さんとルームシェアしてもらう人を連れてきたんです」

 入ってください、とさゆりがその人物に促す。

 それが最初の出会いだった。

 孤独の暗殺者は、もう一人の孤独の男と出会った。これから先の人生でも、きっと飛鳥はそのことを思い出すだろう。

 これが始まりだ。

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