最終章 僕のポケットは星でいっぱい

第66話 僕のポケットは星でいっぱい

「宇宙研究部は廃部にすることにしたんだよ」

「……えっ?」


 いや。

 いやいやいやいや。

 どういうことだよ。

 全然理解できねえよ。

 いったい全体、どういうことなんだよ。


「いっくんも池下も、伏見も高畑も居なくなってしまって気づいたんだ。僕達がやることは部活動よりも、もっと重要なことがあるんじゃないか、って」

「それが……もしや、生徒会ですか?」

「ご明察」

「生徒会の仕事を優先して、部活動を潰したんですか?」

「もともと僕と池下の個人的な活動だった側面が強かったしね。池下が居なくなったら、カメラ係も居なくなるし、一緒にUFOのことを語れる人間も居なくなるし……。だから、仕方ないことなんだよ。それは、そう受け取って貰えるしかない」

「そんな……」

「君は……そうだな。クイズ研究部とか入ったらどうだい? 確か、同じクラスの二人が部長と副部長を務めていたし、部員も募集していた。だったらその部活動に入るのが一番だと思うんだけれど」

「宇宙研究部を残すつもりは……毛頭ない、ということですか」

「うん。残念ながら、ないね」


 僕は落胆した。

 彼女達のために、居場所だけでも残しておきたいと思ったのに、それすらも奪われてしまうのか――と落胆してしまった。


「……どうした? そんなに落胆して。何かあったのか? そういえば、いっくん、君も一週間ぐらい休んでいたけれど、病気でも抱えていたのかな? だったら、その病気は治ったのか?」

「……分かりました。大丈夫です。ありがとうございました」


 僕は落胆したまま、図書室副室を後にした。

 きっと、部長――野並さんと二度と会うことはないだろう。

 これが、今生の別れって奴だ。

 そう思いながら、僕は最後の悪あがきと、ニヒルな笑みを浮かべた。



   ※



 その後の話を簡単に。

 僕はクイズ研究部に入部することになった。元々、この中学校は全員が部活動に入部することが決まりになっており、とどのつまりが、宙ぶらりんになっていた僕は、何処かの部活動に入るしか道がなかったのである。もう一つの選択肢といえば生徒会に入るか、という点が挙げられるけれど、もう野並さんの顔をあまり見たくはなかった。

 そして夜。

 僕はあずさから貰った星のペンダントを眺めながら、外を見ていた。

 今日も、きっと彼女達は空を飛んでいる。

 今日も、きっと彼女達は戦い続けている。

 今日も、僕達は知らぬままその恩恵を受け続けている。

 そう思いながら――僕はペンダントをポケットに仕舞い込んだ。

 星空は、このペンダントだけで十分だ。僕のポケットには星空が広がっている。

 そんなときふと、チカチカ、と照らす光が見えるのを気づいた僕は、それに手を振った。

 きっと見えることはないのだろうけれど。

 それは気のせいだったのかもしれないけれど。

 UFOは今日も僕達の平和を守っている。そう思いながら、僕は空から目線を外した。


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