第12話 生徒会選挙⑥

 そして、一週間後。公開演説の日がやって来た。


「……早かったね、ここまで来るのも」


 体育館には既に大勢の人間が押し寄せていた。みんな、生徒会選挙には興味があるらしい。ってか、興味がなければここまで来ることはないだろうし、そもそも放送部がアナウンスしているしな。これで行かなかったらよっぽど興味がない人間なんだと思う。

 僕はというと、あずさと一緒に会場入りしていた。部長と池下さんは既に裏手に待機しているのだろう。応援してあげよう、とあずさが言っていたけれど、そんな余裕はなさそうだった。


「アリスは?」

「そういえば、居ないわね。……興味ないんじゃない? 未だこの学校に来たばかりだし」


 と言っても、僕と大差ないはずなんだけれどな。僕もここに来てやっと一ヶ月が経過したって感じだし。というかもう七月なんだよなあ。海開きにプール開きも行われた時期になってきて、暑さも群を抜いてやって来た感じがある。何というか、この暑さじゃやってられない状況だ。

 体育館にはクーラーがない。窓を開けているとは言え、風が通るのは疎らだ。はっきり言って、蒸し風呂状態と言っても過言ではないだろう。


「えーと、これから、公開演説会を開始致します!」


 そう言ったのは、新聞部の栄だった。そういえば公開演説会は新聞部の主催だったか。


「今回は二名の立候補者の演説が行われます。始めに、野並シンジさん、続いて金山瑛里沙さんが演説を行います。時間はそれぞれ五分間ずつ。簡単に自己紹介も行われますが、それも加味しての時間となりますので、ご注意くださいませ」


 つまり十分間少々のために我々生徒諸君は集まらされたというのか。

 何というか、効率が悪い。

 それを誰も否定しないのが間違いのような気がするけれど、まあ、それは言わないでおくことにしよう。


「それでは、先ずは、野並シンジさん! よろしくお願いします」


 そう言われて、壇上に立つ部長と池下さん。

 ……あれ? そういえば池下さんは何のためにいるんだろう? 五分間しか演説の時間は設けないって言っていたような気がするし、それ以外の時間は特に何も言っていなかったような気がする。となると、やっぱり池下さんが居る意味が分からないというか、何というか……。


「えーと、ここに居る人の殆どが『はじめまして』になるのかもしれません。でも、名前だけは知っているという方も居るかも知れませんので、一応ご挨拶させてください。初めまして、僕の名前は野並シンジと言います」


 一息。


「僕が会長になったらやることは一つです。……部活動の充実です。具体的に何をするのか、という話ですが、例えば学校に部費の増額を検討して貰えるようにするとか、部活動同士の交流をもっと増やすとか、そういう類いになると思います」


 そこで、部長は全員をぐるっと見渡した。

 さらに、話を続ける。


「この学校には、個性的な部活動が多く存在していることは、部活動に入部している皆さんが良く知っていることだと思います。しかしながら、その部活動内部では分かっていても、部活動外部の人間には分かって貰えないことが多々あると思います。僕だってそうです。僕が所属する部活動は、皆さんご存知かどうか分かりませんので、言っておきますと、宇宙研究部という部活動です。宇宙を研究するってどういうことだ? と思うかもしれませんが、はっきりと言います。僕達は、UFOの秘密を探っています」


 そこまで来て、くすくすと笑い出す生徒が増えてきた。

 そりゃそうだろう。この場で、UFOのことを口に出したら笑ってしまう人が出てしまうのも分かる。

 しかし、部長はさらに話を続ける。


「今の言葉を聞いて、笑った人間はどれだけ居るでしょうか。笑ってしまう人間がどれくらい居るでしょうか。答えは分かりません。けれど、彼らはその部活動の真意を分かっていないから、そういう風に笑えるのだと思います」


 さらに、深呼吸一つ。


「問題はそこです。部活動のことは知っていても、その深部まで知ることはない。それを僕はなくしたい。部活動によって生まれる垣根をできる限り小さいものにしたいと考えています。もし、このことに賛同出来る方は、是非野並シンジに投票をお願い致します」


 そう言って、頭を下げる部長。

 最後に、池下さんがマイクを取る。


「推薦人の池下です。こいつ……あー、いや、彼とは同じ部活動です。とても真面目な人間です。人柄だけは良い人間だと思っています。そして、今彼が言ったことは実際にやってくれると思っています。ですから、是非投票お願いします。以上です」


 至って真面目なことだった。

 真面目なことを真面目な人間がやって真面目に終わらせただけだった。

 そうして二人は壇上から降りる。拍手を受けて。喝采だった。



   ※



 それから。

 二人目である金山さんの演説が行われた。推薦人は会計を務める小田井さんだった。

 金山さんの演説は至ってシンプルなもので、生徒会のオープン化と、生徒の学習制度の充実を図るものだった。しかしながら、どちらかといえばその制度の充実とオープン化は、学校側に訴えなければ意味のないことであり、簡単には解決出来そうにないものだった。

 ただ、部長の言ったことも何もなしに実現出来るのかと言われるとそれはそれで困る話だけれど。

 要するに、二人の意見は、どちらも学校側の協力が必要。

 そしてそれを誰が行えるか、という問題に限ったことだった。

 投票は一週間後。

 定期試験が終わって、夏休みまであと少し、という期間でのことだった。



   ※



 これから先はエピローグ。

 というよりもただの後日談。

 結局、投票により勝者は部長となることが決まった。

 ……ややこしいので、ここは名前で言った方が良いだろう。勝者は、野並さんに決まった。

 そして、金山さんは再び副会長に就任。そして前々から言っていたとおり、部長は会長になったけれど、その仕事を殆ど全て押しつける(全て押しつけると、それはそれで会長の座が危ういらしいので、一部の業務は自分がやることにしたらしい)結果となった。


「ま、宇宙研究部の活動には差し障りのないようにするつもりだから、問題ないよ」


 そう言ってくれるなら、それはそれで有難い話だと思った。

 え? 話を流したけれど、試験の件はどうなったのか、って?

 それは言わぬが花、と言ったものだろう?

 僕はそう言って逃げることにするのだった。



   ※



 会長が野並さんになって、また変わったことがあった。

 それは、定期的に金山さんが宇宙研究部にやってくるようになったことだ。

 金山さんは部活動には入っておらず(生徒会に入っている場合は、部活動に入っていなくても問題ないらしい)、実質宇宙研究部に入部したことになるらしい。というか、そういう契約を交わしていたらしいのだ。いつの間に。部長も抜けがない性格の持ち主だと思う。

 そういう訳で、この部活動も部員が増えてきた。

 あっという間に、夏が始まり、夏休みがやって来る。

 僕がこの中学校で迎える、初めての夏休みがやって来る。


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