第34話 番外編 次の日の湊音先生

 大島に勝手に乗り移られた湊音。夜には無事に元の体に戻っているが、全身の痛みと疲れが半端なかった。


 しかし記憶は全くない。恐ろしいことである。いくらなんでも恩師である大島でも許すことはできなかった。


 本人は十分反省しているようだが、大島の肉体は無いため、三葉に乗り移り、その彼女の状態で謝られたものだからなんとも気が抜けた感じである。



 次の日の朝、やはりまだ体が痛い。昔からの左手首の違和感もひどくなっている気がする。

「くそぉ、大島っ。こっち利き手なのに……」

 すると横で寝ていた彼のパートナーである李仁が目を覚ました。彼はバーテンダーもやっていて湊音が寝付いた頃に帰ってきたのだ。

「ミナ君、おはよ❤️」

「おはよ、李仁。今日は遅出だよね?」

 湊音が右手で李仁の頭を撫でる。愛しい人が横で寝ている、2人にとってすごく幸せなことだ。


 朝ごはんを食べ、湊音は出勤する。


「じゃあ、行ってくるね」

「うん❤️だぁいすき❤️いってらっしゃい❤️」

「僕も大好きだよ、李仁」


 玄関先で長く抱擁してキスをする。それが決まりなのだ。まぁこの2人のイチャコラは別のところで。





 職員室に行く前に部室に行く。剣道部の副顧問として部員たちの朝練やランニングの様子を見にいき、声をかけると

「湊音先生、昨日かっこよかった!」

 桐生のことかと湊音は苦笑いする。



 顧問室でトレーニングウエアを着て待ってたのは剣道部の顧問である冬月シバ。同い年で元刑事である。

大島の知り合いから部活動の顧問として呼ばれてもう六年が過ぎた。

「おはよ、湊音。疲れは取れた?」

「んー、左手首痛いよね。」

 するとシバは湊音の手首を手に取り、軽くマッサージする。

「昨日、自分よりも力あるやつと戦ったから無理したろ。マッサージ、気持ちいいか?」

 湊音はトロッと目を垂れ笑みがこぼれる。


「うん、気持ちいいよ。ありがとう」

 湊音はシバに体を寄せる。何を隠そう、2人はそういう仲だ。他に知られてはいない。


 湊音はふと不安になった。もしシバが自分になにかしたら大島にバレてしまう。

「ねぇ、昨日は僕とどんなことした?」のゆ」

 シバは首をかしげる。

「なんか昨日お前は冷たかったなぁ。一度もキスをしてくれなかった、くらいかな?」

 と、シバは湊音の唇に軽くキスをする。見つめ合い、笑う。ちょっと湊音はホッとした。


 そしていつも通り2人で筋トレをし、シャワーを浴びて湊音は職員室へ朝礼に行く。


 彼は不安でいっぱいだった。

「おはようございます……」

 とりあえず挨拶をして他の先生の反応を見るが特に変わってはいない。

 何も言われないから大島はやらかしてない、ということなのだろうか。湊音はホッとする。

 しかし職員用のiPadの操作がわからなかったのか手書きでノートに書きなぐってあった。

「大島、汚い字……」

 特徴のある字である。こと細やかにその日あったことや、やったことを書いてある。


 恩師であり、上司でもあった大島の直筆のノートに少し湊音はうるっときた。


「まだ一緒に教師やりたかったな」

 と呟くと教頭から


「槻山主任、今日朝礼担当ですよ。」

「あ、はい……すいません。」

 湊音は五年で学年主任を若くして務める立派な教師になっていた。




 昼は職員室で弁当を食べる。

「相変わらず美味しそうなお弁当ですね。」

 部下の高橋も弁当を開ける。


「高橋くんも彩子さんによる愛妻弁当、美味しそうじゃん」

「……これ、僕が作りました……そいや昨日はどこで弁当食べてたんですか?」

 湊音は大島がどこで食べたのか?いつも職員室で食べていたのだが……。


「それにしても昨日の昼休みの大乱闘……見たかったですねぇ。」

「大乱闘って……あ、それは……」

 湊音は困惑した顔でいると、他の先生も割り込む。


「湊音主任の顔つきもいつもと違って、口調も荒くて。いやー、すごかった!!!」

 と、スマートホンで動画を見せてきた。湊音は昨日の大島の行動を前のめりに見る。


 湊音はいつもとは違う口調、顔つきの自分を見て冷や汗が出た。

 桐生もそれに応えるかのように力強い攻撃をする。


「そりゃー左手首痛くなるわな……」

 すると教頭も割り込んできて


「おおお、さすが剣道部顧問。これだけ腕が上がったら大島くんも喜ぶな。」

 ……あれは大島なんだけどな、と湊音は思いながらも……


「そいや桐生くんがさっきも点検に来てたぞ。」

「……今、どこにいますかね?」

「今日は理科室とか音楽室だったかな。」



 湊音は弁当を慌ててかきこみ、職員室を出た。




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