第24話 過去に浸る

 家にいったん帰って……湊音に乗り移った状態で。倫典が玄関先で三葉にスケキヨ渡して。スケキヨは三葉に軽く叱られていた。

「もう、心配したんだからっ!」

 三葉の叱り方はドSの俺でもそそられるから、今すぐにでも乗り移って叱られたい…あ、これじゃMじゃないか?いや、そんなことない。


 俺がスケキヨに乗り移って勝手に遠くまで行ったんだ、スケキヨのことは許してやってくれよ。


 湊音は、さっきの悠子みたいに抱きつきたかったけど今の肉体ではありえないので必死に抑えた。

「湊音くん、どうしたの?なんか私、ついてる?」

「え、いえ……」

 見つめすぎだったか。だって好きだから。名残惜しい。



 倫典と街を歩く。たぶん彼は俺を街に出したかったのだろうか。今度は猫じゃなくて湊音の目線で見る街である。

 5年ぶりに見る街はそこまで変わりはないが無くなった店もあれば新しい建物や店もある。図書館もそのまま。商店街が廃れていたと思ったが空手道場が入ってたり、可愛いカフェ、サンドイッチ屋さん、そこそこ店も入っている。

 え、ここ……本屋さんになったのか?昔何屋さんだっけ?気になって入ったら狭いながらもいろんな本が置いてあり、隣はカフェも併設されていて。

 雑誌はやたらと分厚いと思ったらなにか挟まってて、カバンとかポーチが付録として入ってるのだ。ほぉ。すごいな。

 本も久しぶりに触れたが最近の本は装丁にこだわっているのか。本の触り心地、紙質……ああ、本の匂い……

 ふと横を見ると倫典が笑ってた。

「周りから見たら変態っすよ、大島さん。」

 るせぇ。


 この道もいろんな店が増えたな。昔からあるお店も残ってる。駅より向こうの焼き鳥居酒屋はまだやっているのだろうか。

 たまに湊音と仕事帰りにそこ行ってさー、愚痴言いながら焼き鳥頬張ってさ。どて煮食ってさ。最後は笑ってタクシーで帰る。


 教え子が教師になって戻ってきて同じ職場で教鞭に立つ、そしてたまに切磋琢磨し生徒達や親達、教育委員会に揉みに揉まれ……

 楽しい時だったなぁ。


「大島さん、ニヤニヤしすぎです。ほら、あそこの店員さんもこっちみてる……」

 はっ、、つい過去に浸っていた。レジにいる店員は湊音と目が合うと逸らす。


「まぁしょうがないよねぇ。昨日もモールでめっちゃウロウロしてたし。まさかまだ色々未練残ってて成仏できないってやつ?」

 ……わかんねぇよ。五年までこうやって移動できるようになって……未練って言っても、何もできぬまま死んじまったから色々ある。


 いつまでこんなことしてられるのだろうか。またいつか終わりが来るかもしれない。それまでに何をして何を残せるのか……。


 と、ついでにとってしまった本が

「終活ノート」

 ……今更かよぉ〜。死ぬ前に書きたかった。今書いていいものなのか?


「でも何かをしたいとかある程度決めた方がいいんじゃない?別にそのノートじゃ無くても、ほらあそこにある普通のノートに書き出すとかさ。」

 ああ、そうか……でも誰が管理するのか?倫典が、僕?と首をかしげる仕草をした。

 今のところお前しかいないだろ。


「じゃあこのノート買って、横のカフェで書きましょうよ。」

「おう。……あ、湊音、財布どこにしまってるんだ?」

 湊音は服やカバンを探った。いつも俺はズボンの後ろポケットだったからな。でも今身につけているボディバッグの中か?


「勝手に湊音のお金使うのやばいって。今日は僕が買うから。」

 と、倫典がそう言った時にボディバッグの中の財布に触れた瞬間、何かもう一つ触れた。


 ん?なんだ?カバンの中から何かが落ちた。



 と同時に目の前が真っ暗になった。

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