第17話 俺のいる前で

 三葉は放心状態で家に着き、倫典もついてきた。和室に入ると足元にはスケキヨがいる。

「ニャーニャー」

 自動で餌をセットして出て行ったが、残ってるじゃないか。食欲ないのか?まずは減っていたが。

「スケキヨ、お前も元気ないな……。今晩はお前おとなしくしてなよ。飼い主様が調子悪いんだ。」

 言われなくても空気の読める猫だから大丈夫だ。


 今ここで仏壇に戻るか、スケキヨに乗り移ってもいいが、記憶がない状態で倫典と会話したら辻褄が合わなくなるだろう。彼もいい加減帰るだろうから帰ったら……


「三葉、さっき兄貴からメールが来た。火曜日の早朝なら診てくれるそうだ。」

 ……優しいな、こいつは。三葉は机の上にあったメモに


『左胸にしこりあり。火曜早朝に県病院婦人科、大森先生に連絡』

 肉体は違っても俺の字は角ばってしまう。


 他にも書いておこう。倫典は台所の方にいる。今日会ったことを書いておかなくては。


『倫典とモールでデート。

 車の中で悠子の結婚の話をするが、彼女が幸せならそれで良いと彼は言う。

 本屋で李仁と会う。明日サイン会で準備をしていたらしい。本をもらった。倫典がタバコを吸っている間に李仁と二人で本屋横のカフェに行く。

 帰ってきたらスケキヨが餌を残していた』

 と、箇条書きで残しておこう。



 ん?なんか眠くなってきたぞ。ま、まさかこれは……これは……








 台所から倫典が戻ってきた。

「三葉?大丈夫か?」

 ……俺は仏壇に戻っていた。視点は仏壇から眺めるかたちである。三葉は机に突っ伏していたが目を覚ました。

「あれ?倫典?わたしどうしちゃったの?」

「やっぱ疲れたんだ、布団ひいて寝よう」

「シャワー浴びないと……」

「ダメだよ、また朝。今は寝なさい。」

 倫典は押入れから布団を出してひいた。三葉、やはり俺が乗り移ると記憶がないのか。ごめんな。ゆっくり休んでくれ。


 彼女は俺の書いたノートを見つめる。

「なに、これ。……わたしこんなの書いた記憶ない……」

「さっきまで書いてたよ?覚えてないの?やっぱり早く寝るんだ。……」

 と、倫典は三葉を布団に押し倒す……って!おい!このシチュエーション!!!!


「きょ、今日はやらないからな。とにかく寝るんだ」

「倫典……わけわからないけど……なんかわたしドキドキしてる」


 ま、まさか……


「三葉、ダメだよ……」

「倫典……」

 ダメとか言いながら絡んでますけど?おい、お前らよくも俺の前で……


 すると三葉は俺の方を見た。?気づいてるのか?ん?


 バタン。


 俺の目の前が真っ暗になった。あ、仏壇閉められた。


「どうしたの?閉めちゃって」

「なんか、見られてる気がして……」

「ここでやるの初めてだよね……見てるわけないよ。」

 ……残念ながら扉を閉められても声は聞こえるんだよな。


 目の前で寝取られるのって……とても悲しい……


 あ、三葉に乗り移って倫典を殴る手もあったがな……







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