第14話 妻の過去を知る男

 スーツを着た長身の男性。李仁だった。

「李仁、また明日さ飲みにいくよ」

 と倫典はお酒を飲むジェスチャーをする。李仁はバーテンやめたんじゃなかったのか?


 相変わらず夜な夜な飲んでるのか、倫典は。誰と飲んでるのか。三葉の前で堂々と言えるからやましいわけじゃなさそうだが。


 て、二人の会話聞いてる場合じゃなかった。李仁に乗り移ろう。李仁をじっと見つめる。


 李仁は三葉を見てキョトンとする。






 乗り移れっ!!!














「三葉さん、なに?なにかついてるぅ?」

 はぁ、はぁ……ダメか。ダメなのか。視点が変わらない。体を見ると三葉のままだった。倫典も三葉の顔を見て心配そうにしている。


「三葉、別にやましいことないから。ただ、飲むだけだからさー。それとも一緒に行く?」

 いや、そう言うわけで李仁を見てたわけじゃなくて。誰にでも乗り移れるわけじゃないのか。んんんん。


 それよりも飲んで遊んで貯金はあるのか?倫典は。三葉と結婚しても夜な夜なのみに行くのか?結婚してから落ち着くのか?

 俺は結婚してからはちゃんと遅くなる時は連絡してたし、寄り道もほとんどしなかった……うん。


 信用できん。三葉のままついていくのもいいけども他の人間に乗り移れたほうが、倫典の行動を観察できるんだが……。くそぉ。


 倫典がカバンからスマホを出す。着信があったようだ。


「会社から電話だ。せっかく土曜日休みもらったのに……三葉、待ってて。あ、李仁もまたな!」

 と、電話に出ながら走っていく。方向的には喫煙所にも向かっているようだが。


 李仁と二人きりになってしまった。彼は仕事で来てたのか?荷物いっぱいだが。

「明日の準備してたんだけどちょうど休憩したかったから、カフェで座って待とうか」

 ……まあそうするか。俺も三葉も昔タバコ吸ってたけど不妊治療の一環でやめたんだけど、あれは健康に悪い。財布にも悪い。やめて正解だったな。倫典もそれに気づいてくれ。



 カフェに李仁と向かい合わせで座り、コーヒーを注文した。

 三葉と李仁の関係性……いまだに謎だったが、俺が生きてる頃聞いた話だと昔からの知り合いだって……二人きりの時にはどんな話をするのだろうか。


 普通に黙っているべきか、何か話すべきか。わからない。

 俺が死んでから最初の頃や三回忌の頃は湊音と家に来てくれたんだが……仕事が忙しいからと最近顔見てなかったが少し丸くなったな。

 初めて会った時はまだ彼も30代前半でお人形さんみたいに綺麗ですらっとしてたが、月日の流れというものは残酷である。まぁ元がかっこいいからいいのだが。


「どしたの。ジロジロ見て。」

「な、なんでもない」

 李仁は表情を少しキリッとさせた。いつもの俺の知ってる柔らかく女狐みたいな顔のやつの顔ではない。


 男の顔だ。


 三葉に、こんな顔をするのか。何の関係なんだ、お前らは。


「今、トモ君いないんだし。普通にしてれば?」

 普通って何だよ。普通って!!!てか喋り方もいつもと違う。三葉に馴れ馴れしいぞ。


「相変わらず露出の多い服着て。どうせデート終わったらホテル行くんでしょ?」

 おい、ここは公共の場だぞ。と、あらためて三葉の服を見ると確かに……露出が多い。これは前からだぞ。俺と結婚してた時も。


 俺らは……その、俺の体のせいでエッチを最後までしたことがなかったから……わからんが、デートの終わりはそう締めるのか?そういうものなのか?


 そうだ、俺が乗り移ってるときは……三葉の魂はどこに行ってるんだ?もしその辺に漂ってたら返事をしてくれ!なぁ、三葉!!



 ……て、返事は返ってこない。そうだ。こいつに倫典の様子とか聞けばいいんだ……仲よさそうだし。三葉の知らぬ顔を、聞けば……



 なんか……スマホを覗くよりも怖い。怖すぎる。妻の過去を探ることは。

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