第10話 知らなかった姿

 やはり四足歩行は慣れないものだが、こうしないと動けないものだ。


 もし実際俺が四足歩行してたらとても滑稽なことだろう。でも赤ちゃんもハイハイをする時は四足歩行だ。

 いや、やはり40過ぎたおっさんがハイハイしてるなんて。無理がある。


 軽くジャンプする。ヒョイっと。わぉ。尻尾フリフリ。ほおおお、こう動くのか!!!


 いや、楽しんでる場合じゃないぞ。


 襖を傷つけないように上手に襖を開ける。俺が車椅子で移動できるようにとリフォームしたのは正解だった。スムーズに開く。


結局リフォームして数ヶ月で死んじまった俺の代わりに三葉はローンを返してるんだろうな。

 ごめんな、本当に。医療費もかかったしな。保険入ってても……しんどいだろう。


 ようやく台所に行くと、三葉が俺に気づいてくれた。目線は低いから見上げると必ず三葉のパンツが見ることができる。ラッキー、てスケキヨは毎日これだったのか?ずるいな。

「おはよ、スケキヨ。にゃおゼリー食べる?」

 スケキヨの好物だ。袋からチューっと食べるやつだ。

 俺は空腹感はない。死ぬとそういうのは無くなるのか?そして、にゃおゼリーは美味しいのか……。


 それよりも……相変わらず三葉の服がセクシーだ。総花柄の胸開き、ミニスカワンピースだ。

 化粧もバッチリ決まってるじゃないか……やはりデート、だからか?俺の時もしっかりメイクして、セクシーな服を着てくれていた。結婚してからも。それが彼女の完璧なスタイルだった。


 三葉の細く白い右腕に抱えられて左手には、にゃおゼリー。これ、食べなかんのか?パクっ。


 あ、味覚ある!ある!!うまい!うまい!!!!こんな美味しいものスケキヨは食べてたのかっ!!!!!

 作ってくれたメーカーの方々にはお礼を言いたい。


 て、5年ぶりに食べたものがキャットフード。お腹は空くことなかったけどな。

 毎朝ちゃんと三葉は仏壇の前にご飯を置いてくれたんだ。でも食べることはできなかった。たまに置かれる俺の好物の生姜焼き、ビール、季節のイベントがあればそれにちなんだ食べ物、旬なものも置かれた……食べることはできないのに、いつも欠かすことなく置いてくれた三葉。

 今朝はフレンチトーストか。それを食べたい。仏壇に持って行かずに乗り移ったスケキヨに食べさせてくれ。


 俺はスタッとテーブルに乗り、フレンチトーストに手を伸ばすと

「スケキヨ!これは和樹さんの。」

 あうー、ダメなの?俺はスケキヨの中にいるよ!少しでも食べさせてー!


 ダメだ、いくら喋っても

「ニャーニャーニャー?ニャニャニャニャーッ!!!」

 ニャーでしか言えない。悲しい。三葉は俺を置いて仏前に供えてくれた。その気持ちだけでも嬉しい。ありがとう。


 一人でニュースを見ながらタブレットの新聞に目を通しながら朝ごはんを食べる彼女。

 付き合っていた頃、時事や芸能に政治…色んなことを知っていて、かと言ってその知識をひけらかす訳でなくて、相手に合わせて聞き手に回ったり付け足したり。


 ながら食べは行儀悪いがそのためにはこういう習慣があったのだろう。俺と結婚してた頃はそういう姿を一切見せないから本当に完璧な女性だったな。


 でも寂しいだろ?しばらくはスケキヨに乗り移ってそばにいてやるからな。


 でも猫じゃなくて、彼女を支える人、男……再婚相手……



 んんんん、それも考えなくてはいけないのか?


「はぁー、株価下がったのかぁ……。」

 んー、なんかこういう姿見るのもあれだな、見られたくないだろうからやっぱり朝だけはここにいないほうがいいか。

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