絵美ちゃんとあたし
その時、また店の出入り口の扉が開いたの。
慌てて振り返るみんな。
そこに立っていたのは、なんと絵美ちゃんだった。
とっても疲れた顔をしている。
あたしは、絵美ちゃんに駆け寄ろうとした。
そのあたしの腕を、突然キサラさんが掴んだ。
「キサラさん、離してください。絵美ちゃんのところへ行かないとっ」
絵美ちゃんにいっぱい謝って、あたしの今の正直な気持ちを伝えないとっ!
そう告げて、あたしはキサラおばさんの顔を見上げる。
その表情を見て、あたしはびくっとした。
その表情は、あたしが最初にこの店にやってきた時の顔そのものだった。
くちびるをきゅっと結んで、すっごい怖い表情を浮かべて。
今はその顔をまっすぐに、絵美ちゃんへ向けていたんだ。
あたし、最初キサラおばさんの顔を見た時、思ったんだ。
本当はこの人、誰とも関係を築く気はないんじゃないかって。
まじょ候補を探してるって言いながら。
本当は誰も候補にする気はない。
そう心の中で言ってる気がしたんだ。
「やっぱり、立夏ちゃんは、私のことが嫌いなんだね」
絵美ちゃんの言葉で、あたしははっとする。
「そんなことないよ絵美ちゃん! 今でもあなたはあたしの大切な友達だよっ」
あたしの言葉は、絵美ちゃんの心には届かなかった。
まるで絵美ちゃんの近くにだけ、言葉をはね返す透明な壁があるみたいに。
そしてその壁が、言葉が通り抜ける直前に。
本来の意味と変えた言葉を、絵美ちゃんに届けてるみたいに。
「私は立夏ちゃんの、一番の友達じゃなかったんだね」
そう言われて、あたしは困ってしまう。
前までは。
まじょになるまでは。
あたしにとっての一番の友達は、絵美ちゃんだった。
でも今は違う。
別に、絵美ちゃんが嫌いになって順位が変わったわけじゃない。
順位をつけること自体を、やめたんだ。
だからあたし、それを言葉にする。
絵美ちゃんに伝えるために。
「あたしは、友達に順位をつけるのを、やめたの」
あたしはゆっくりと言う。
「まじょになって分かったの。順位なんて必要ない、みんな大切な友達だって」
「順位は、必要よ。私が立夏ちゃんの一番じゃないのなら、絶交だよ」
絵美ちゃんの言葉がぐさりとあたしの胸につきささる。
一番、聞きたくなかった言葉。
そばに行って取り消してもらおうと思ったけど、また腕を掴まれる。
キサラおばさんの方を見ると厳しい表情のまま、首を横に振っている。
行っちゃダメだよ。
その顔が、そう言ってる。
あたしからの反応が思ったものと違ったのか、一瞬絵美ちゃんは無言になった。
少しして、絵美ちゃんは別の言葉の刃を向ける。
「それに自分がまじょだってこと、教えてくれなかった。ひどいよ」
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