キサラおばさんとキクコおばさん

 紫の髪の毛を長ーく伸ばした女の人だった。


 キサラおばさんと違って、優しい顔をしていて、小さな眼鏡がのってる。


 絵本に出てくる、やさしいまじょのイメージそのものって感じ。


 年齢は……、キサラおばさんと同じくらい、なのかな。


「キクコ……」


 キサラおばさんが、びっくりした顔してる。


「久しぶりですわね、キサラさん」


「あ、ああ……」


「少し、おじゃましますわね」


 キクコおばさんはカウンターに並んだ椅子のうちの一つに腰掛ける。


「アンタたち何してるんだい、紅茶か何か入れておやり」


 キサラおばさんに言われて、あたしと黒原くんは慌ててカウンター内に入る。


 目に入った紅茶パックをつっこんで、キクコおばさんの前に出すと。


 キクコおばさんは優しく笑ってお礼を言ってくれる。


 あ、今からでも変えられるならあたし、キクコおばさんの弟子になりたい。


 そんなことを思ってしまった。


 それがばれたのか、キサラおばさんが不機嫌そうに言う。


「やめてキクコのとこに行きたいんなら、いつでも許可してやるよ」


 ぎくっ。


「ま、まさか。キサラさんのところが一番ですぅー」


 あたし、心にもないことを言った……かもしれない。


 キクコおばさんはコロコロ笑う。


「あなたさえよければ、いつでもウチにいらっしゃいね。歓迎します」


「それで? キクコ、アンタこの子をクビにしたのかい」


 話をそらすように、キサラおばさんが星谷くんをあごでしゃくって言う。


「ええ、そういうことになりますわね」


「それじゃ、コッチで預かっていいのかい。性格難ありってワケじゃないんだろ」


 キサラおばさん、その人、性格難ありです。


 思わず言いそうになる口を、あたしは抑える。


 星谷くんにとって、この場は大きなチャンスだ。


 じゃましたら、あたしも絶対後悔するわ。


「それなんですけどね。やっぱりこの子はウチで面倒見ようと思うのですね」


 キクコおばさんが笑って言う。


「なんだい、それじゃあこの件は解決じゃあないかい」


 時間の無駄をしたじゃないか、とキサラおばさんが文句を言う。


「いえ、そのままこちらに戻ってきてもらうというわけでは、ないんですね」


 ここで言葉を切って、キクコさんは微笑みをたたえながら星谷くんを見た。


「星谷くん。あなたがまじょを続けたいのなら、一つお願いがあるのですね」


「お願い、ですか」


「そう、お願いです。頼まれてくれますか」


 キクコさんのお願いってなんだろう。


 難しい、お願いじゃないといいんだけどね。



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