恋多き乙女、ありさちゃん

ありさちゃんに出会うまで。

 次の日の朝。


 あたしと黒原くんは、ありさちゃんが来るのを待った。


 ありさちゃんとあたしたち、同じクラスなんだ。


 ありさちゃんは、いつもチャイムが鳴る三十分前に来る。


 なぜかって?


 友達と恋愛トークをするためよ、もちろん。


 恋愛トークだけじゃない、流行りの服の話とか、色々。


 あたしにはよくわからないことばっかりだけど。


 女の子って色んな話題を持ってるからね。


 今、八時ちょうどになったところ。そろそろじゃないかな。


 そう思った時。


 廊下が騒がしくなる。あ、きっと、ありさちゃんたちだ。


 そう思って黒原くんと顔を見合わせたとき。


 教室の扉が大きく開いて、数人の女子が入ってくる。


 やっぱり、ありさちゃんたちだ。


「ところで、昨日の音楽ステーション、見た~?」


「見た見た! すっごかったよね!」


 何がすごいのかは、まーったく分からないけど。


 とりあえず、突撃だ。


 あたしと黒原くん、頷きあって、ありさちゃん一団に近づく。


 ありさちゃんたちは話に夢中で、あたしたちに気づかない。


 ありさちゃんたちの目の前まで来た時に、あたしは声を張り上げた。


「お話中、ごめんなさい。ありさちゃん、ちょっといいかな!?」


 あたしの声に、ありさちゃんたちが話をやめて、こちらを見る。


 うわあ、そんなにたくさんの目で見つめられたら、恥ずかしいよ。


 今まで、ありさちゃんとまともに話したことなんてないし。


 それなのに何で、ありさちゃんって呼ぶのかって?


 最初の自己紹介の時に、ありさちゃんがみんなに、そう呼んでって言ってたから。


 そんなあたしの視界の端に、絵美ちゃんが映る。


 すごく変なものを見る目で、あたしを見てる。


「ここじゃなんだから、場所を変えてもいいかな」


 あたしの言葉に、ありさちゃん、かわいい声をあげる。


「仕方ないなぁ。いいよぉ」


 そういうと、女子一団を抜けて、歩き始める。


 あたしと黒原くんは彼女を追いかけて、廊下に出た。


 廊下の端まで歩いて、ありさちゃんは止まった。


「それでぇ、どうしたのぉ」


 ありさちゃんの言葉に、あたしは聞きたかったことを尋ねた。


「ありさちゃんは、高園寺さんのおまじない教えてもらったことって、ある?」


「何よぉ、急に。何度も、あるけどぉ」


 ありさちゃん、髪が乱れてないか手元の手鏡でチェックしながら言う。


 やっぱり、あるんだ。


「やっぱり、高園寺さんのおまじないって、効くの?」


「うん、効果てきめんって感じ。でも最近は、効かなくなってきたかなぁ」


 ありさちゃん、ちょっとだけ不機嫌な声になる。


「高園寺さんのおまじないが良く効いたって話、誰かに話した?」


「ああそれなら、いつも一緒にいる子たちみーんなに、話したよぉ」


 そしたら、おまじない屋さん大繁盛するかなって思って。


 本当は、他の人には教えたくなかったんだけど……ね。


 ありさちゃん、少し悲しそうな顔で言う。


「でも、みんなが幸せになれるんなら、それがいいだろうって思って」


 あれ、ありさちゃんって、もしかしていい人?


 あたしが首をかしげてると、独り言のようにありさちゃんは言う。


「あたし、最近好きな人をすぐに変えるだめな人だって思われてると思う」


 うん、それはあたしも思う。


「それはあたしが一番よくわかってる。でも、やめられないの」


え? どういうこと?


 あたしはありさちゃんに向きなおる。


 きっと驚いた目をしてたんだろう、ありさちゃんが笑う。


「これは、おまじないに頼りすぎた罰なんだよ、きっと」


 あのね、とありさちゃんは小声で言った。


「好きな人がすぐ変わるのは、最近のことなの。これだけは信じて」


 ありさちゃんが、あたしの方をまっすぐ見つめる。


 うん、これは嘘をついているようには見えない。


「何か……、理由があるんだね」


 あたしが尋ねると、ありさちゃんは大きく息を吸い込む。


「これを聞いたらたぶん、二人は私が頭のおかしい人だと思うんだろうけど……」


 そう言って、ぽつりぽつりと話し始めてくれたんだ。










 






 









 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る