ブレスレットを探して


「それじゃあ、とりあえず手分けして探そう」


 あたしは、女の子と手分けして、ブレスレットを探すことにした。


 河原は、背の高い草むらで覆われていて、探すのは大変そう。


 でも、絶対に見つけてあげなくちゃ。


 あたしは河原を半分くらいに分けたうちの左側を探すことにした。


 女の子には、右側の端から探してもらうように頼んで、捜索開始。


 探しながら、ランドセルの中からあたしは、杖を取り出す。


 そして、女の子には聞こえないよう小声で杖に言う。


「ねえ、困った人を見つけたから、ブレスレット探し手伝ってよ」


 でも、杖は相変わらず舌をチロチロ出すばかり。もう。


「協力してくれないと、いつまでも、あたしが一人前のまじょになれないじゃない」


 あたしの言葉に、杖が空中で上下に揺れる。なに、笑ってる?


 あたし、なんだかちょっとむっとした。


 こんなに人が一生懸命に頼んでるのに、それをからかうなんて。


「あーあ、しーらない。これじゃあ、あなたも世界一残念なまじょの杖で終わるよ」


 あたし、大きなため息が出ちゃった。すると、遠くから声がしたの。


「ごめんね、お姉ちゃん。わたしのせいで……」


「あやまらないで! あなたはちっとも悪くないんだからっ」


 あたしは言って、杖をにらむ。


 あんな小さい子が気を遣ってくれてるのに、あなたってヒトは……っ!


 それからあたしは、杖を完全に無視して探し始めた。


 こんな、言うこと聞いてくれない杖なんて、いてもいなくても一緒だもん。


 だんだん空の色が、オレンジ色から、紫色になって、真っ暗になり始めてきた。


 空が暗くなって、余計に探しにくくなる。


 それでも、あたしも女の子も諦めない。


 あたしが諦めてしまったら、女の子を諦めさせることになってしまう。


 そんなの、絶対に嫌!


 ぜーったいブレスレットを見つけて、おばあちゃんの待つ家に帰ってほしい!


 杖は、あたしの周りをぶんぶん飛び回ってるけど、無視。


 邪魔する気なら、先に家に帰ってくれればいいのに。


 その時、遠くから誰かの名前を呼ぶ声が聞こえてきたの。


 その声に、びくっとする女の子。も、もしかして……。


 女の子は、草むらに体を縮ませて隠れながら小声であたしに言う。


「おばあちゃんだ! どうしよう、このままじゃ見つかっちゃう」


 またまた泣きそうな顔をする女の子の肩に、あたしはそっと手をのせた。


「正直に、ブレスレットをなくしてしまったこと、伝えたらどうかな」


「え……」


 女の子がびっくりした顔をする。あたしは、女の子をまっすぐ見つめ返す。


「あたし、お母さんに買ってもらったブレスレットをなくしちゃったことがあるの」


 おじいちゃんの形見のブレスレットとは価値が違うかもしれないけど。


 そう付け足して、あたしは話し始めた。


 ずーっと前に、友達と色違いのお揃いで買ってもらったブレスレットがあった。


 キラキラした、クラックビーズっていう、ひびの入ったビーズのブレスレット。


 色が涼しげで、夏にぴったり! って感じのブレスレットだった。


 友達はすぐになくしちゃったんだけど、あたしは大事に大事に使ってた。


 ある夏休みの日のこと。家族旅行で、あたしはそのブレスレットをつけて行った。


 ホテルに着いて、お父さんと一緒に外にある釣り堀へやってきたとき。


 初めて見る釣り堀が珍しくて、いっぱい色々なところを見たくて走り回ってたら。


 ブレスレットが、あたしの腕から、飛び出してしまったの。


 あっとあたしが声をあげたのと、ほぼ同じころ。


 ちゃぽん、小さな水音がして、近くの釣り堀の水たまりから波紋が。


 言わなくても分かるかもしれないけど。ブレスレットを無くしてしまったの。


 きっとまだブレスレットは、ホテルの釣り堀の底に沈んでるんじゃないかな。


 その時のあたしのショックの大きさと言ったら!


 もちろん、大切にしていたブレスレットをなくしたことはショックだった。


 でもそれ以上に、買ってくれたお母さんに申し訳なくて仕方なかった。


 お母さんの待つホテルの部屋に戻る間、あたしの心は沈んでいた。


 どうしよう、きっと怒られる。


 もしかしたら、もう二度と何も買ってもらえなくなるかもしれない。


 お小遣いももらえなくなってしまうかもしれない。


 どうしよう、どうしよう。どう謝ればいいだろう。


 そんなことを思いながら部屋に帰って、しょんぼりした顔でお母さんに話した。


 そしたらお母さん、どんな反応をしたと思う?


 隣の部屋の人に怒られるんじゃないかってくらい大きな声で笑いだしたの。


 そして、にっこり笑って言ったの。


「とっても深刻な顔してるから何かと思えば、なんだ、そんなことだったの」


 そう言って、あたしの頭をよしよし撫でてくれた。そしてこうも言ってくれた。


「同じものは見つけられないかもしれないけど、新しいのを買えばいいじゃない」


 それから、もう一つ大事なことを教えてくれたんだ。


「あなたが無事なら、どうってことないわよ」


 あたしは、そこまで女の子に話すと、女の子に伝わるよう、ゆっくり言う。


「あなたのおばあちゃんも、そう言ってくれるんじゃないかってあたし思うんだ」




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