1-15 取材デート 午前の部3



 ゲーセンを出ると、既にデパートの中は人で溢れかえっていた。休日の昼に相応しい混み具合。

 さっきまでは開店直後でガラガラだったのだが、こうしてみると結構長い間遊んでいたみたいだ。


「はー、楽しかった!」


 紅音が満足げに伸びをする。


 俺はあの後、様々なゲームで彼女にボコボコにされ、罰ゲームにプリクラまで撮らされた。

 初めて自分で体験したが、あれの加工技術やばい。めちゃくちゃ美肌になってて紅音に死ぬほど笑われた。


「また来ましょうねセンパイ!」

「…………気が向いたらな」


 紅音は自力で取った、人面猫とかいうキモかわいい(?)ぬいぐるみを抱いている。

 確か黒羽もそんな変わったものが好きだったな…………もしかして見覚えがあったのはそのせいか?

 どこかで彼が持っていたのを見たのかもしれない。今度聞いてみよう。


「…………はあ」


 にしても結構疲れた。

 黒羽と喫茶店に行くことはあっても、休日に誰かと外でこんなに遊んだのは久しぶりだったからな。


「少しゆっくり歩こうぜ。普通の買い物シーンだって作中に出すだろ?」

「そうですね。じゃあ上の階に行きましょ!」

「分かった。分かったから引っ張るのはよせ」

「ええー……」


 画面酔いで視界が少しグラついている。

 別に大したことじゃないので座れば治ると思うが、コイツのペースで移動しては悪化する一方だ。


 そうして、やけにテンションの高い紅音を落ち着かせていると、彼女は思い出したようにバッグから何かを取り出そうとし始めた。

 あ、これは分かるぞ。少し前に経験した。


「そんな時こそ────」

「リードは持たんぞ」

「まだ何も言ってないのに!?」


 バッグから少しリードが垂れているのを見ると、やはり予想は当たっていたようだ。

 伊達にコイツの先輩を何年もやっていない。そんなことに騙されるか。


「じゃあコレ持っててください!」


 すると今度は、首元からぶら下がっているものを差し出した。


「コレって、マフラー?」

「そうですよ。はい、端っこ持って」

「お、おう」


 彼女から有無を言わさず、長いマフラーの垂れている部分を手渡される。

 そのさも当然のことかのような動きに、思わず反射的に受け取ってしまった。


 よく意味が分からないまま、とりあえず言われた通りマフラーの端を握ったままにしていると、突然彼女が前方に走り出した。


「あ、バカ急に動いたら──」

「へぐっ」


 案の定、首元に巻かれてたマフラーがキュッと締まって、女子にあるまじき声が紅音から聞こえた。


 いやいやその行動は予想外すぎる!

 すぐに手の力を緩めはしたが、マフラーが伸びた時に彼女の身体がやや後ろに傾いたし、多少は締まってしまっただろうか。


 特に何も無いといいのだが………………。


「大丈夫か? 端持てって言ったのに、急に歩き出すからビックリしたぞ」


 心配して近づいてみると、紅音は膝立ちして俯いたまま動く様子を見せない。

 大丈夫かな?


「────ふ、」

「ん、どした?」

「ふふふへへへへへへへへへへへ」

「マジでどうした!?」


 突然笑いだしたかと思えば、口元から涎を垂らして恍惚とした表情を浮かべている。


 どうしよう…………頭をぶつけたわけでもないのに壊れたか? 人って首を絞めるとバカになるのかな。

 通り過ぎる人々の視線が俺と紅音に向くが、すぐに目線を前に向けて歩き去っていく。

 そりゃこんな大声で気持ち悪い笑いしてたら、誰だって横目で見ながら足早にもなるさ。


「とりあえず落ち着こう、な? ほらそこにベンチあるから座ろうぜ」

「ふ、ふぁい……」


 俺ははマフラーから手を離して、力が抜けている様子の彼女に肩を貸してベンチまで連れて行った。


 本当に今日は随分と様子がおかしいな。

 いやいつも変に違いはないが、今回のはもっと異質な感じだ。変態的な方向で。


「お前、今日はやたら俺に手綱を持たせるな。新しい遊び?」

「新しい遊びというか、悦びというか……」

「いや、やっぱ言わなくていいや」


 うん、これ以上聞いたら負けだな。

 素直にやめておこう。


「ふう……」

「落ち着いた?」

「ええ、そこそこ冷静になりました」


 そこそこかよ。

 とはいえ紅音は一度大きく深呼吸したおかげか、だいぶさっきの狂った状態ではなくなったようだ。


 それならここに座っているよりも、早くどこかで飯を食いながら休憩した方がいいだろう。

 そう思って、席を立とうとした。


「なら、そろそろ飯でも食いに────」


 すると、


「…………あ」


 不意に袖を後ろから掴まれた。

 もちろんそこに座っているのは紅音だけで、彼女は俺の袖を見ながら、何故か自分でも驚いたような顔をしていた。


「どうした、まだ休むか?」

「いや、えっと……」


 珍しく紅音が口ごもる。

 もしかしたら本当に具合が悪くて、それを素直に言い出せないのかもしれない。

 普段からアホみたいに元気な彼女からは考えづらいが、だからこそということもあるだろう。


 俺が心配して顔を覗き込むと、紅音が思い出したように言った。


「あ、そ、そういえば12時にコハク先輩と交代の時間でした! 私と待ち合わせした場所と同じ所にいると思いますよ!」


 12時…………?


「おま、そういうことは早く言えよアホ!」

「アホとは何ですか! 本気で罵るつもりなら牝犬メスイヌって言ってください!」

「何言ってんのお前!?」


 時計を確認して、既に12時を少し回っていることに気がつく。

 いやいや待ち合わせ時間をすっかり聞いてなかった俺も悪いけど、だとしても知ってたなら言えよ!


「コハク先輩には、私が謝ってたって言っといてくださいね〜」


 紅音がいつもの軽い調子で言う。

 少し心配な部分も残るが、意外とコイツはしっかりしてるから大丈夫かな。


「分かったよ、じゃあな!」


 俺は私に別れを告げて、すぐに来た道を戻ろうときびすを返した。


「センパ〜〜イ、今日は楽しかったで〜す! また明日〜!!」


 すると背後から、人目をはばからず大声で叫びながら紅音が両手を振っていた。


「しっしっ!」とジェスチャーで止めるように伝えるが、むしろ反応したせいで身振りが大きくなった気がする。

 すれ違う人がなんだなんだと俺と彼女を見てくるが、脇目も降らず、逃げるように角を曲がって集合場所に向かった。


「やっぱりアイツに心配なんてするんじゃなかった……!」


 絶対、明日は1発ゲンコツ食らわす!

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