1-14 取材デート 午前の部2


「さて、まずどこに行く? 部活の備品とか買いに行くか」


「うーん……それは多分大丈夫じゃないですかね。ほぼ活動してませんし」


「……それもそうだな」


 俺と紅音は駅前のデパートのエスカレーター近くで立ちつくし、これからの予定を立てていた。

 恵には備品を買うためと言ったが、確かに考えてみれば買い足さなければいけないほど使ってない。


「昼飯にもまだ早いしなぁ」


「そっすねー」


 取材とは言っていたが、こうも行くところがなくてはどうしようもない。

 始まって早々、俺が行き先について考え込んでいると紅音が「あっ」と小さく声を出した。


「何かいい案でも?」


「ゲーセン行きましょうよ! 帰り道にないから最近行ってなかったじゃないスか」


「ゲーセンかー」


 そういえば中学の頃はコイツと、部活がオフの日とかに行ってたこともあったなぁ。

 帰り道にあったからか、恋白が一緒じゃない日に限ってやたら絡まれた覚えがある。


「ちょうどそこにありますし、入ってみましょうよ」


 んー、まあ別に他にすることがあるわけでもないからいいか。


「うん、じゃあ暇つぶしにやってみるか」


「やったー!」


「おい危ないから引っ張るなって!」


 紅音は俺の制止など完全に無視。

 まるでお気に入りの場所を見つけた犬のように、彼女は俺の手をグイグイ引っ張りながらゲーセンの中に入った。


 正直、本当にリードつけて大人しくさせてやりたい気分だ。

 でもそれをやったらコイツの思うツボだから我慢……!


「どうしたんですか? 変な顔して」


「ああいや、ちょっとした気の迷いだ」


「? まあいいですけど、とりあえずアレやりませんか?」


 そう言って紅音が指さした先には、ゲーセンおなじみのUFOキャッチャー。

 しかも結構大きなぬいぐるみが入ってるやつだ。


「このぬいぐるみ、前から狙ってたんですよね〜」


「これを…………?」


 よく近づいてみると、彼女が狙っていると言ってるのは『人面ネコ』という世にも奇妙なストーリーに出てきそうなやつ。見た目は名前そのまんまだ。

 俗にキモカワイイと言うのか知らんが、俺にはカワイイ成分があまりに不憫に見える。


ちまたの女子高生には結構人気あるんですよ?」


「巷の女子高生ねぇ……」


 猫の首から上にオッサンが付属したような人形の、どこをそんな気に入るのか。

 しかし誰かが好きって言ってた気がするんだけど、はて。誰だったかな?


 俺がそんなふうに考えごとをしていると、紅音がいち早く200円入れた。


「あー、ダメっす。全然取れませんー!」


 珍しいことに、紅音が頭をグシャグシャして嘆いている。

 驚いた。ゲームと名のつくものは全て完璧にこなしそうな彼女にも、まさか苦手なものがあったとは。


「センパイ取ってくださいよ〜」


 紅音はそれからも何度かチャレンジしていたが、どうにも引っ掛けどころが悪いらしく、上手く持ち上がりもしなかった。

 見た感じだとアームは弱くないみたいだし、そう難しくはなさそうなんだけどな。


「よし任せとけ」


「お、やる気ですね! 頼みます!」


 今まで幾度となくコイツにからかわれてきたが、今日こそはセンパイの矜恃プライドってやつを見せてやろう。


 チャリン、と景気良く500円玉を入れて3回分の権利を手にする。

 まずはスタンダードに、重心が一番偏ってる頭を巧く持ち上げてみよう。


「……………………」


 横方向の調整はおおよそ完璧。

 あとは少しやりづらい縦方向の調整だが──────よし、ちょうどいい!


 ウィーン……とUFOキャッチャーのアームが下がるのを期待して眺める。

 アームは俺が狙ったドンピシャの位置で人面ネコのハゲ頭を捉えて持ち上げ──────。


「あっ」


 コテン、と落ちてしまった。

 僅かに重心を捉えきれていなかったのか、ずり落ちるような感じだ。

 くそ、人面ネコのくせに生意気じゃないか。


「次こそは!」


「あー、センパイそれは……」


 気を取り直してさっきと同じように頭を狙ってアームを動かした。

 紅音が何か言っているような気がしたが、もはや気にならないほどの集中力……………………だったのだが、


「む、無理だ……」


 頭を捉えるところまでは出来たのだが、また先ほどと同じように落ちてしまった。

 もしかしたら頭を持ち上げるだけじゃ無理なのか? これ以上やってもキツそうだ。


「────はあ。やっぱセンパイはダメダメっスねー」


 早くも挫折しかけていると、紅音がため息混じりに俺を押しのけて台の前に立ち、100円玉を投入した。


「あ? お前だってさっき俺よりダメだった…………じゃ……ん?」


 そう指摘しようとしたが、目の前の光景に思わず言葉を失った。

 彼女が欠伸あくびしながら動かしていたアームは、迷わずスーッと人面ネコのタグの隙間へと吸い込まれていき、何の抵抗も無しに持ち上げてしまったからだ。


「ほいっ」


 そのまま危なげなく運ばれた人面ネコは、まるで自ら望んでいるかのように穴へ真っ直ぐ落下した。


「え、さっき全然取れないって……」


「あんなの演技に決まってるじゃないですか。バカなんですか?」


 取り出し口から人面ネコを救出した彼女は、さっきまでの悔しそうな顔はいざ知らず、いつものニヤけた顔になっていた。


 もしかして、騙されてた?


「センパイ。困ってる女の子にUFOキャッチャーで人形をプレゼントするのは、二次元では基本中の基本ですよ? 主人公に求められる必須スキルです」


「いや知らねえよ」


 確かに言われてみれば、アニメ主人公ってやたらUFOキャッチャー得意だけども。

 俺はただのモデルに過ぎないから期待しないでほしい。


「まあセンパイだし仕方ないですね。じゃあ次は格ゲーやりましょ!」


「それ絶対ボコされるやつ……」


 人面ネコを抱えて走る彼女は心底楽しそうな笑顔だが、俺はこの後の展開が予想できて今から泣きそうだよ。



 …………もちろんボコボコに完封されました。

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