1-12 チーズケーキは好き?


 そして約束の休日。

 普段は昼頃まで寝ているのだが、今日は紅音と午前中に買い物に行く約束をしたので早く起きたのだ。

 まあ俺は取材のこととか考えずに、ただ楽しんでいればいいか。


「確か9時に駅前集合だったな」


 ベッドに寝転んだまま時計を見て、まだ余裕があることを確認。

 着替えも済ませたし、このまま時間までベッドで本でも読んでいようかな。


 コンコン


「ハル兄、ちょっといい?」


「どうぞー」


 ノックをして入ってきたのは、俺の妹のめぐみ。風呂上がりらしく、Tシャツ1枚のラフな格好で、濡れたサイドテールを揺らしている。


「今日1日暇だから漫画貸して…………ってどこか出かけるの?」


「ん、まあ部活の後輩と買い物にな」


「ああ。紅音さんか」


「そうそう」


 まあ午後になったら恋白と会うことになってるが、それはわざわざ言わなくてもいいか。

 とりあえずは紅音への取材協力を済ませなきゃな────いや待てよ?


「…………あれ、恵って紅音のこと知ってたっけ」


「ぎくっ」


 おい今すごくベタな声が聞こえたぞ。

 コイツまさか何か隠してる?


「い、いや前にハル兄がバイト行ってる時にね! そのー、ゲームをしに来たみたいで、そのとき話したの!」


「へー、何を話したんだ?」


「何でもいいでしょ。いちいち詮索しないで」


「えぇ……」


 俺がバイト行ってるときに来た…………まああり得ない話じゃないな。

 しかし嘘が極端に苦手な恵の反応からして、何かを隠しているのは間違いない。

 でもまあ俺が本当に困ることなら教えてくれるだろうし、そこは信用してるから別にいいか。

 恵は基本的には昔のように、お兄ちゃん大好きなはず(だと信じたい)。最近は精神的に成長したからか、あんまり構ってくれないからなぁ。


「…………なに、ジロジロ見て」


「いや、大きくなったなぁって」


「どこ見てんの!?」


「いや待て違う! そういう意味じゃない!」


「うるさい死ね!」


 恵は胸元を抑えながら、真っ赤になって俺に罵声を浴びせた。それもちょっとは思ってたけど、流石に口には出すつもり無かったんだぞ……?

 昔は「ハルお兄ちゃんを寝取る!」って、マジ何処で調べたのか分からないこと言ってたのに。冷静に考えるとヤバいな。


「昔は素直で可愛かったのに……」


 兄的な意味でね。

 容姿的にはむしろ今のが可愛いけどさ。


「─────────なの?」


「ん、今なんて言った?」


「う、うるさい! いいから早く漫画貸して!」


「はいはい……」


 絶対今なんか言ってたのに、全く俺の妹は恥ずかしがり屋だな。

 俺は気だるげにベッドから立ち上がって、本棚の前に立った。


「んで何の漫画がいい?」


「何かテキトーにオススメので」


「それ1番困るやつな」


 一応テキトーに探してみるが、大体のやつは既に読んでるだろうしなぁ。

 たまに俺のベッドで勝手に寝転んで借りてるときあるし、何が初見かすら分からん。


「少女漫画とか無いの?」


「少女漫画か…………お、あるぞ」


 俺は本棚の上の方から1冊の漫画を取り出した。


「え、初恋ラバーズ!? ハル兄これ持ってたの!?」


「ああ、友達がそれ好きでな。無理やり渡されたまま返すの忘れてた」


「ハル兄は読んだの?」


「いやまだ読んでない。今やってるドラマ観てからにしようかなって。確か録画してたろ?」


 黒羽がやたら推してたし、そろそろ見ないと怒られそうだ。

 ちなみに俺はドラマと原作なら、ドラマを先に見る派です。だって原作の方が内容細かいし、その方が2度目でも飽きないじゃん。


「じゃあ今日の夜に観よ……………………い、一緒に!」


「え、でもお前昨夜も見てなかったか?」


「いいの! 何度でも見れる名作だから!」


 そうか。まあ午後から恋白と買い物に行くにしてもそんなに長くはならないだろうし、特に問題は無い。

 というより恵から誘ってきたことに心底感動してるので、問題があっても断ることは無いな。


「おっけ。なら今日は早く帰るとするよ」


「当然よ。早く観てもらわないと貸してもらえないからっ」


「なんだそういうことかよ……」


 てっきりデレたのかと思ったじゃんか。


「恋白とも会う予定あるし、呼べば来るかね?」


「ハル兄、まさか1日に2人の女の子と取っかえ引っ変えデートするつもり……?」


 恵が汚物に向けるような目で俺を見てくる。

 うん、確かに内容はあながち間違ってないけども。言い方が悪い。


「いや漫研の取材で行くだけだから。部活の備品を買ったりするんだよ」


「ふーん?」


 恵は未だに信じてくれてないらしい。

 別に思われる分には勝手だが、せっかく妹がデレ気味(?)なのにこのままでは良くないな。


「あ、あとケーキも買ってこようかなって。ほら恵が食べたいって言ってたやつ」


「ほんと!?」


「本当だとも」


 確か恵が食べたがっていたのは、駅前にあるケーキ屋のチーズケーキ。夕方から販売される、テレビで話題になった数量限定のやつだ。

 もちろんそんな予定はなかったけど、恋白に頼んで付き合ってもらうしかないな……。


「うへへへ……」


 恵は乙女にあるまじきヨダレを垂らしながら、下品な笑い方をしている。

 どんだけ駅前のチーズケーキ食べたいんだよお前。


「じゃあ俺はそろそろ行くから、楽しみに待ってろよ」


「うん! 行ってらっしゃいお兄ちゃん!」


 俺が部屋を出ようとすると、そんなにケーキが嬉しいのか、笑顔で手を振って送ってくれる妹。




 …………今の「お兄ちゃん」呼びは指摘せずに心に刻み込んでおこう。多分言ったら殴られるし、警戒して二度と呼んでくれなくなるから。

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