1-9 シュガー・ボーイズトーク (黒羽視点)



 休日の昼下がり。

 ボクはスマホを片手に握りしめて、部屋に置いてある大きい鏡を前に格闘していた。


「ふ、服これでいいかなぁ……? でもオシャレして気合い入ってるみたいに思われるのもなぁ……」


 何故こんなことをしているのかというと、ボクの中学時代からの友人である陽斗からとあるメッセージが来たことが原因だ。

 まあ休日に喫茶店で会う約束くらいはよくあることなのだけど、昨夜のは少し違う感じだった。


『大事な話があるから、明日の14時にいつもの喫茶店に来てくれないか? お前にしか話せないことなんだ』


「うぅ……」


 これはもう大事な告白に呼び出されてるとしか考えられない文面だ。

 とはいえ陽斗が同性愛者なのかと言えば、多分そうではない。

 ということは気づいたんだろうか……ボクがずっと彼だけに隠してきたことに。


 鏡の向こうの自分の胸から出る2つの膨らみを見て、今日も憂鬱な気分になる。

 仕方ないので一度脱いで、サラシを巻いて服の上からは見えないようにした。

 この通りボクは正真正銘、

 でもこれ結構窮屈だから嫌なんだよね……。


「今まで嘘ついてたのもバレてるってことなのかな……」


 ボクは小さい頃からずっと男の子に憧れていて、だから学校以外ではほぼ男装して過ごしている。

 そんなある日、陽斗は初対面のボクを本気で男と勘違いしてくれた。それが嬉しくてついつい話し込み、いつの間にか親友になっていたというわけだ。


 友達としては大好きだけど、男の子に対する恋愛感情なんてよく分からないから、そういうのだと困るなぁ……。


「ダメだ、早とちりするなボク。今まで何度こんな勘違いしてきたと思ってる」


 相手はあの天然野郎なんだ。きっと今日だって思わせぶりなだけに決まってる。


 ああそう考えたら、何か慎重に服選んでるのがバカらしくなってきた!

 もういいや、男らしくスウェットだけで行ってやる!


 そう思ってボクはパジャマによく着ているようなグレーのスウェットを取り出し、手早く着て玄関に出た。

 その際、靴箱の上にあった鏡をチラ見して髪型を直し──────。


「…………や、やっぱ親しき仲にも礼儀ありって言うし。これじゃ失礼だよねっ」


 結局また部屋へ駆け込んで、うんうんと鏡の前で唸ることに。

 この流れは、かれこれ1時間も続いた。




「はあっ、はあ、はあ…………」


 まさか友達に会うときの服装で、こんなに悩むことになるとは思わなかった……。

 ボクだけ意識してるみたいで変じゃないか、ただの男友達なのに。


 ゆっくり深呼吸して、時計を確認。

 うん、遅刻はしてない。髪も乱れてないし、走ってきたとは思われないよね。


 カランコロン


 入店してすぐにいつもの席を見ると、やはり見知った顔の男子が座ってこちらを見ていた。

 四宮陽斗。今日のボクを大いに悩ませる原因となった友人だ。


「ごめんごめん、待った?」


「いや、俺も今来たとこ」


 本当かなぁ?

 陽斗のことだから、1時間前に来てても涼しい顔で同じことを言いそうだから信用ならない。

 そうやって疑わしく思っていると、彼が何だかジロジロとこちらを舐め回すように見ていることに気がついた。

 ぼ、ボクなんかマズい格好してるかな!? いつもと同じようにしたつもりだけど、もしかしたら少し派手すぎたかも……!


「……………どうしたのさ、人のことジロジロ見て」


 いつもの早とちりかもしれないから、意を決して聞いてみる。

 すると答えは意外なものだった。


「あ、いやそういうわけじゃないんだが……やっぱスタイルいいなぁって」


「なっ────!」


 普通、男子相手にスタイルがいいとか言う!? やっぱりボクの嘘に気づいたとしか思えない!


「陽斗、君ねえ。あんまそういうことを軽々しく口にするのは良くないよ。相手がボクだから良いものの……」


「いやだからお前じゃなきゃ言わんし、誰彼構わず口に出さねえよ」


「だからそういうところだってば……」


 思わず口に手を当てて照れてしまう。

 何だろう、別に男友達に褒めてるだけなのに、すごく恥ずかしい。

 男の子は同性に褒められる方が嬉しいって言うけど、こういうことなのかな?


「お待たせ致しました。コーヒーとカフェオレです」


 すると、丁度いいタイミングでウェイトレスさんが飲み物を運んで来てくれた。

 よしよし。これで誤魔化せるぞ。


「あ、どうも」


「陽斗が頼んでおいてくれたんだ。ありがとね」


「まあいつもは俺のが後に来るからな。今日が最初で最後だ」


「ふふっ、そうかもね」


 思わず笑みがこぼれる。

 やっぱこうして陽斗と世間話してるのが一番楽しいなぁ。学校だと女子の制服だから、心置きなく話せる男子がいないし。

 アニメの話も、少女漫画モノとはいえ女子の間じゃ少ないもの。


「あ、そういえば昨日やった『初恋ラバーズ』面白くなかった!? ヒロインの子も可愛いけど、主人公がまた男前で良かったよね!」


「そうなの?」


「そうなのって、見てないの!? 原作良かったから見てって言ったじゃん!」


「恵が録画してたから後で見るよ」


「絶対だよ」


「……はいはい」


 全く、少女漫画は絶対に読むべき男子のバイブルだよ。乙女系の主人公こそ目指すべき理想像と言っても過言ではないんだから。


 あ、そういえば陽斗の学校は毎年クラス替えするんだっけ。恋白ちゃんとは今年も一緒になったのかな?

 ボクは机の端にあるスティックシュガーを取りながら続けた。


「ねえクラス替えどうだった? まあでも君は意外と社交的だから心配ないか」


 スティックシュガーの端を破って、砂糖を投入する。


「ああ、まあ恋白も同じクラスだからな。苦労はしてない」


「へえ、恋白ちゃんも? あの子可愛いよね」


 あ、恋白ちゃん同じクラスになれたんだ。

 まああの子のことだから、かなり黒いことして無理やり引き合わせた可能性もあるけどね…………。


「お前恋白に会ったことあるの?」


 あ、やば。

 これは内緒なんだった!


「え? ああー、いや、陽斗の話を聞いてたらそんな気がしてね。あはは」


 ふう、何とかそれっぽい返しができたぞ。

 ボク達3の関係は、できるだけ陽斗にはバレないように隠すことに決めたんだ。

 ボクが一番バレやすいから気をつけないと。


 そう思いながら、もう何本目か分からない砂糖を投入。そろそろ大丈夫かな?

 すると陽斗が驚いたような顔で言った。


「いやお前、砂糖入れすぎじゃないか!? 割といつも言ってる気がするけどさ!」


「そうかな?」


 確かにいつも言われてるけど、特に気にしたことはないかな。

 甘いのは大好きだし、どんなに食べたり飲んでも太らないから大丈夫だよね。早寝早起きに毎朝のランニングも欠かしたことないし、健康面で支障が出なければいいよ。


「ま、こういうのは美味しく飲めればいいんだよ」


「……それもそうだ」


 陽斗は特に納得した様子はないけど、これ以上言っても無駄だと分かったのか諦めたようだ。


 あ、というか今日会った理由を完全に忘れてた! 陽斗も言うことあるなら最初に言ってくれないと。


「……そういえば、陽斗の相談したいことって何? 今日はそのために会ったわけだし────ってああいや、理由が無きゃダメってわけじゃないよ。ボクはむしろ毎日でもいいというか、別にこれは会いたいとかじゃなくてね」


 思わず早口になってしまう。

 内容が気になりすぎて頭がおかしくなりそうだ。まさか本当に告白じゃないよね?


「……そうだな。かなり真面目な話だ」


 アタフタしているボクを、陽斗は目線で制止してきた。その真面目な雰囲気を察して、咳払いと共に向き直る。


 すると陽斗は残り少ないコーヒーを飲み干し、とんでもない言葉を口にした。


「俺さ────好きな人がいるんだ」


「…………ふえ?」


 ボクは思わぬ展開に意図せず口が半開きになり、カフェオレを垂らしたまま呆然とした……。

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