1-6 上下関係とは (紅音視点)



「あれ、センパイまだ来てない」


 私が漫研の部室に着くと、いつも先に来て漫画を読んでいる先輩はまだいなかった。

 この曜日は来るはずなのに、珍しいこともあるなと思って部屋を見渡すと、机の上には手軽に食べられる栄養補給食品が2つ。


 ああそうか。私が新作書いてる時は邪魔しないように部室に来ないんでしたっけ。


「変なところで気を使うんスよねー」


 センパイの予想通り、私は昼食を食べ忘れていたので差し入れからパクッとカロリーを補給。

 流石に付き合いが長いだけあって、私のことを熟知しているみたいですね。


 でも残念ながら、今回は新作の構想が既に終わっているので1人で集中しなきゃいけない状態ではありません。

 なので私は電話でセンパイを呼び出すことにします。


 プルルルル…………


『どうした?』

「あ、センパイ! 今すぐ漫研に来てください!」

『は? なんで急──』


 ブチッ


 よしこれでOK。

 お人好しなセンパイのことだから、来るまで5分ってとこですかね。それまでに今日の作戦の振り返りをしておきましょう。


 私はスクールバッグの中から、今日のために持ってきたブツを出した。

 漫画の構想を書いたノートにリードの付いた首輪。あとは証拠保存用の小型カメラ(コハク先輩にもらいました)とボイスレコーダーです。


 センパイをからかって遊んでいるのは中学の頃からの趣味みたいなものなんですが、今日のは少し違いますね。

 ざっくり言っちゃうとテストプレイみたいなもので、今までの下準備がどこまで出来てるか確認するためのものですから。


 とりあえずカメラとボイスレコーダーの設置…………あー、これ何処に仕掛けるべきなんだろ。

 仕方ないですね、ここは専門家に聞きましょう。


 プルルルル……


「あ、コハク先輩? 隠しカメラの件なんですけど」

『…………本棚の上にあるヌイグルミ。片目空いてる』


 本棚の上を見ると、確かに熊のヌイグルミが置いてあった。

 そういえばこれ、コハク先輩が家から持ってきた熊のやつですね。


 私はパイプ椅子に乗ってそれを取り、中身を確認した。


「うわっ、これ目のところガラスなんですか!? 既にめっちゃ小さいカメラあるし!」


 なるほど片目空いてるってそういうことですか!

 さすが幼なじみをストーカーして4年間バレてないだけのことはありますね……。その行動力は、いっそ尊敬すらします。


『…………できた?』

「できましたー。これでやっと計画が進みそうですよ」

『……ん、がんばって。じゃ』

「あざっしたー」


 通話を切って、カメラとボイスレコーダーをセットした熊を本棚の上に再設置。

 コハク先輩は口ではああ言ってるけど、多分センパイが流されないって信じてるんだろうなぁ。

 割と簡単に流されるのに……(笑)


「よしっ」


 とりあえず下準備は完了。

 最後に念の為作っておいた企画書を読んでおきますかー。


 私はバッグの中にあるファイルから『マル秘! 披飼育計画書』を取り出した。

 この「披」というのは誤字ではなくて、そのまんまの意味。

 つまり要約すると『センパイの犬として飼育されるまでの計画書』のことです。


「やば、ポテチと漫画置いとかないとっ」


 私はカモフラージュのために、あらかじめ買っておいたポテチや部室の漫画とゲームを、無造作に机の上に置いた。


 何故こんな計画をしてるのかと言うと、ぶっちゃけ私は俗に言うマゾドMというやつだからです。

 叩かれたり罵倒されたりすると、この上なく興奮します。


「うへへへへ……」


 なら何で私がセンパイをからかってるかって、それは作戦の一環だからです。

 一見私がサディストドSで、マゾとは逆のことをしてるように見えるかもしれませんが、それはぜんっぜん違います!


 だってもし後輩から急に「私をセンパイの犬にしてください! わんっ!」とか言ったらどうなります?

 H目的なら即OKでしょうけど、センパイはチキン寄りの普通の人なのでまず距離を取られますね。それで気まずくなってバッドエンドです。


 じゃあどうするかって、そんなの決まってます。センパイから私を虐めたくなるようにすればいいんです。

 従順な犬よりも、ウザ可愛い後輩の方が遠慮が無くなってきます。男友達にするように軽くゲンコツご褒美くらいはくれますし、軽い罵倒プレゼントの特典も付きますからね。


 そうなれば後は簡単。

 少しずつそれを快感として、センパイ自身に覚え込ませればいいわけです。

 今まで自分を無下に扱ってきたウザイ後輩が、いつの間にか従順になってることで優越感に浸らせてあげます。

 するとそこにギブアンドテイクが生まれ、それは誰も得しかしない主従関係。私の計画の最終目標ですね。


「…………そろそろですかね」


 通話からちょうど5分経過。

 すると、廊下からバタバタと走る音が聞こえた。その足音は部室の前に止まると、少しの間時間を置いて、


「おーっす」


 わざわざ急いできたこと隠さなくていいのに。

 さあ覚悟しておいてくださいね────。


「センパイ遅い!」


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