1-4 これは普通のお話 (恋白視点2)

1-2の恋白バージョンです

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「……おはよ」


 私の頭がオーバーヒートしてから20分後。

 ようやく回復したので改めてしっかりハルを起こすと、彼は結構早い段階でパチッと目を覚ました。

 いつもなら少しはグズるのに、今日は案外素直だ。


「………………ああ、おはよう」


 ハルも私に挨拶を返してくれるのだが…………何故だろう。彼の目が私を舐め回すように全身を隈無くまなく見ている。

 すごく興奮するけど、見られるのは恥ずかしいからやめて欲しい。


「ごはん…………下来て」


「ああ、着替えたら行く」


 いつもはご飯を食べてから着替えるのに、どうしたんだろう。

 よく見ると彼は滝のような汗をかいていて、シャツが体に引っ付いているのが非常になまめかしい。

 そうだ、あとで洗濯機に入れたら回収しよう。ジップロックに閉まって永久に宝物として、押し入れのプラネタリウムに入れておきたい。

 そのためにもカモフラとして同じシャツをAmezonから取り寄せておかないと。


 私はそんなことを考えながら、彼の首筋をツーっと流れる雫をただ見ていた。それは扇情的で、今すぐにでも試験管に入れて研究したいレベルだ。


「……恋白、着替えるから先行っててくれ。二度寝なんてしないよ」


「………………!」


 ハルの声で我に返る。

 あ、今着替えようとしてたんだ。危ない危ない、あと少しでラッキースケベになるところだった。

 このまま返事をしなかったら、ため息つきながらそのままシャツを脱いでくれないかなとも思ったけど、流石に無視は気が引ける。


「…………じゃ、待ってる」


「おう」


 私は無表情を貫いたまま部屋を出て、すぐに深呼吸をする。

 危なかった〜〜〜! もう少しで我を忘れて、バッグ内にあるロープで縛っちゃうところだった。気を引き締めないとっ。


 私は洗面所で顔を全力で洗って煩悩を振り払い、台所に向かうと恵ちゃんが朝ご飯を作り終わった所だった。


「恋白ちゃんお皿並べるの手伝ってー…………ていうか顔濡れてるけどどしたの?」


「…………それは」


 ガチャッとドアが開いた。

 どうやら汗を拭いて制服に着替えたハルが、やって来たようだ。


「ハルにぃ、遅い」


「ごめん。寝坊した」


「寝坊なんて珍しい。恋白ちゃんがいつもの時間に起こしに行ったはずだけど?」


「あれ、確かに?」


 ギクッ。

 どうしよう、寝言で思考停止したなんて口が裂けても言えないし。ここはこれ以上追求されないように上手く誤魔化しておくしかない。


「…………お花摘んでた」


「女の子にそんなこと言わせんなバカ兄!」


「俺が責められるの!?」


「当たり前でしょ!」


 ごめんハル。

 でも私も少し恥ずかしいから我慢して……。


「はいはい、分かりましたよ。すみませんね……」


 とはいえ2人も仲が悪いわけではないので、言い合いもすぐに終了。

 大人しく席に座って「いただきます」と朝ご飯を食べ始めた。


「じゃあ私、もう学校行くから」


「え、もう?」


「今日は日直なの。昨日言ったじゃん」


 あー、そういえば私が自宅に帰ったあとに2人がそんな話をしてた気がする。

 でもそのときハルはシャワー浴びてたから、多分聞こえてないんじゃないかな。

 まあそんなこと言ったら間違いなく怪しまれるので、もちろん無言。


「行ってらっしゃい」


「……行ってらっしゃい」


 私とハルが手を振って挨拶するも、恵ちゃんは私たち2人を交互に見た後「ふんっ」と鼻を鳴らして、足早に家を出て行った。

 全く、素直じゃないなぁ。


「ま、いいか。食べようぜ」


 気を取り直して朝飯を食べようとする。

 ご飯と目玉焼き、味噌汁に魚といういつものメニューだけど、実は量とか素材が少し違うのは多分気づいてないよね。


 そうそう、今日もやらなきゃ。


「……その前に、いつもの」


「んあ? ああ、はいはい。アレね」


 今週はアレがまだだったので、私は箸を置いて席を立った。

 向かいの席に座っていたハルの後ろまで歩いて、ギュッと背中に抱きつく。


 はあ〜〜〜ハル成分が満ち溢れてくる。

 今日はいつもみたいに寝巻きじゃないのが残念だけど、制服は制服で悪くない。むしろアリ。


「………………(すぅーーーはぁ〜〜)」


 こうして匂いを嗅いでるだけでも十分幸せなんだけど、それだと私のただの自己満足になってしまう。

 私は手のひらをハルのお腹辺りに当てて、集中した。


「………………」


「…………いつも思うけど、これなんなの?」


「………………」


 先週よりウエストが0.3センチ細くなったみたい…………筋肉が少し落ちてるのかな?

 そういえば最近は外出もあまりしてないみたいだし、近場でもどこかに連れて行った方がいいかな。

 太るのもダメだけど、少しカロリー多めであのサプリも入れとかないと……。


「はいはい、自分で考えろってことね」


 胸囲、腹囲、ウエストの計測は終了。

 呼吸も正常だから問題なし、と。今日の夜には血液検査も終わらせて記録しておかないとね。

 いつどこで病気になるか分からないし、私が知っておかないと。


「……今日も、良好」


「そうだな。ありがと」


 ハルがポンポン、と私の頭に手を乗せた。

 どんな高時給やボーナスも、このゴッドハンドの前ではゴミ同然。

 むしろこっちがお金を払わなきゃ申し訳ないくらいだ。


 そして再び席について、今度こそ朝食を食べ始めた。


「それで先生が逆立ちしてさー」

「…………ん」


 ハルの身の回りで起きたことなら、ハル自身より把握している。彼が認識していない事柄も、私はほぼ全て知っているのだ。

 まあ彼にもプライバシーというものはあるし、別に四六時中というわけではない。その辺は自分でも偉いと思う。


「あ、そういえばこの前────」

「…………ん」


 それでもハルが何を見てどう思ったのか、そういう価値観の問題については完璧に知ることはできない。

 だからこういう時間に、彼視点の体験談を聞いて覚えておくのだ。


黒羽くろはって意外と可愛いのが好きらしくてな。それで─────」

「……………………ん」


 そんなこんなで食事が進んだ。

 恵ちゃんいる時は3人で話しながらなんだけど、2人の時は基本的に俺が一方的に世間話をする形になっている。

 肝心な所は手元のスマホにメモしてるから問題ない。


「────よし、ごちそうさま。今日も美味しかったぞ」


「…………お皿、洗っとく。準備してて」


「悪いな。準備終わったら玄関で待ってる」


「……ん」


 ハルが2階に上がったのを確認して、洗いものを即行で終わらせる。

 そして洗面所にダッシュして洗濯機を開き、今日彼が着ていたシャツを回収した。

 よし、これで後はさっき通販で頼んだ同じ種類のやつを濡らしてベランダに干すだけ。

 シャツを密閉保存してスクールバッグに仕舞った私は、何事も無かったかのように歯ブラシを手に取る。

 そしてちょうど降りてきたハルの横で、仲良く歯を磨いて一緒に登校するのだ。




 うん、やっぱりこれが普通の1日。



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次回は後輩キャラです。

嗜好部のアイツ(に似た何か)が出ます。

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